上 下
9 / 52
本編

1

しおりを挟む
 どっぼーんっ! と盛大に池に落ちてから前世の記憶に目覚めたと言ったらみんな頭おかしいと思うよね?
 
 でも、私はそういうケースだった。

 ちなみに池に落ちた理由も、イジメのせい。

「ハハッ! 豚が池に落ちたぞ‼︎」

「お前やったな! あいつ、一応貴族だぞ? まぁ、豚だけどな!」

 あははは、と私を突き落とした男とその様子を見ていた女達の楽しそうな笑い声が聞こえる。

「ごぼっ! がぼぼぼぼぼ! (クソ野郎ども! 覚えとけよ!)」

 水の中で、必死にもがいて私は対岸へ向かった。いやぁ、前世では水泳の先生だったのでね。体は重いけど、脂肪があるからか結構浮くもんだよ。それで、やっとのこと上がってみたらまぁ! なんて事!!!! よ。

「ジュリ。愛してる」

「あ~ん! ローン、ジュリも心の底から貴方のことを愛してる‼︎」
 
 ……見覚えのある声に、そっと生垣の隙間を覗いた私が悪かった。なんと、ついさっきまで私のエスコートをしていた婚約者のローンが、他の女とキスしていたのだ。

 こっちはローンがいないせいで、虐めに遭い散々な目にあったというのに。一応婚約者であるから、私はローンのことを愛していたのだ。まだ記憶が戻る前の私の心が涙を流しているのを感じる。

 流れてきた涙を拭おうとしたら、太い腕が生垣に当たって、ガサリと音が鳴った。

「っ!? どなた!?」

「誰だ!」

 逃げるか? いや、この巨体じゃ無理だ。

「私よ」

「「あ、アイリーン!?」」

 まあまあ、2人とも目を見開いちゃって。しかも、女の方は私の侍女だった。いつも、ローンへの恋心を語っていた相手である。気まずさと、羞恥と怒りとがない混ぜになりながら、私は渋々立ち上がった。

「あなた……」

「も、申し訳ございません。全てはわたくしが悪いのです‼︎ 罰するならわたくしを!」

「な、何をいう! アイリーン、ジュリに言い寄ったのは私だ。どうか責めないでやってくれ!」

「ローン様!」

「大丈夫だよ、ジュリ」

「愛しています!」

「私もだ」

 見つめあってヒシッと抱き合う男女。あの~、私はこの三文芝居をどれくらい見なければならないのでしょうか?

 互いに庇い合う。素晴らしい精神だ。しかしだよ、1番の被害者はこの私だ。

「あの、2人は愛し合っているんですか?」

「あぁ、そうだ」

「はい」

 首を縦にふる2人。え、じゃあ、私はどうなるの?

「……では、ローン様との婚約は無かったことにいたしますね」

「なっ!? それはダメだ!」

「お嬢様! それはやめてください! ローン様は悪くないのですから!」

「いや、悪いのは私だが婚約破棄するほどでもないだろう? 大体、この婚約は恋愛など皆無のはず。契約じゃないか!」

 いえ、その契約も私がローン様に惚れて承諾したもの。じっさいは、なんの利益もないうちの家としては損な契約なんです。必死に言い募るローン様に今までの理想像が剥がれ落ち、ボロボロと崩れていく。

「いえ、我が家は恋愛婚を重要視していますので、あなたは私に最初に会った時に惚れたと言ってくださいましたから」

「え! ローン様?」

 あれ? なんでそこで女の方が驚くの? と思ったらローン様が慌てて女に弁解するかのように捲し立ててきた。

「はっ、冗談はよしてくれ。そんなこと一度も言ったことはない。むしろ、こんな豚のような女と結婚するなんて褒めて欲しいと思ったぐらいさ。私には、ジュリ。貴女だけだ」

「ローン様」

 ふぅたぁりぃはぁ~みぃつぅめぇあぁうぅ~

 っだぁぁぁーーーーー‼︎  もう、見てられない!

「婚約は破棄させていただきます」

「あぁ? そんな図体の女に次の相手ができるわけないだろ? まぁ、相手ができたなら婚約破棄を受け入れよう」

 ははぁん。なるほど、よぉく分かりました。

 私の本気を舐めんなよ?
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...