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何故か好感度が爆上がりするユーベルト様

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「にー……」

 静まり返った城の中。どこから入ってきたのか、まだ幼い猫の鳴き声がしていた。

(不味い。ユーベルト様に見つかれば八裂きにされてしまう!)

 その日、ユーベルトが連れてきたアイリーンがものの見事に城から逃げ出した為に、城内はピリピリと緊張感があったのだ。もちろん原因はユーベルト。

「なぅ~! ニァッ!」

 ガサゴソと綺麗に手入れされた庭の花が揺れ、ぴょこんと出てきたのは珍しいサファイアの瞳を持った子猫だった。

(か、かわいぃ!?)

 見つかる前に急いで保護してやろうと側近が近づこうと一歩足を子猫の方に進めた時だった。その側近よりも先に子猫の前にしゃがみ込む人物がいた。

 月の光に照らされて、美しい白銀の長髪を飾る銀細工がシャラリと音を立てて揺れる。

「っ!?!?」

(なっ!? ユーベルト様ぁ!?)

 驚きではくはくと声が出ない側近に気が付かないユーベルトはジッと目の前の子猫を見つめていた。

(や、やばい。子猫が殺される!)

 ハラハラドキドキと、心臓が忙しい側近に追い打ちをかけるように威嚇する子猫。

「シャーッ!!!!」

(終わった……)

 未来予測のように側近の脳裏には数秒後、血濡れになっているユーベルトが映し出される。

 しかし、そんな側近の恐怖をよそに、ユーベルトはそっと怯える子猫に手を差し伸べた。

「なんだ、威勢がいいな?」

 グリグリと手加減はしているだろうが、強めに子猫の頭を撫でるユーベルトに、子猫はされるがまま。しかし、しばらくして抗議の声らしき鳴き声をあげた。

「んなぁお~」

「ははは、アイリーンに似ているではないか」

「にー」

 先程の威嚇はどうしたのか、すりすりとユーベルトの手に頭を擦り付ける子猫に、ユーベルトの口が笑みの形を作る。

(ふぁッ!?)

 その美しさといったら……思わず見惚れてしまう側近をよそに、ユーベルトはヒョイッと子猫を抱き上げてしまった。

「なぅ~~」

「暴れるでない。水を飲ませてやろう。食べ物もな」

「ぅーー!」

 よしよしとあやすように撫でるその姿に側近は涙した。

(なんっっっって美しいのだろう! 我が王は! 大好きっ!!!!)

 次の日、ユーベルトの機嫌は治っておりアイリーンを連れ戻す為の支度をすると側近に告げた。

「では、商人の手配を致しましょう」

「あぁ、それは別のものにさせる。お前はクビだ」

「は!?」

「昨日の夜、私が子猫と一緒にいるのを見ただろう?」

 油断しきっていた側近の背にダラダラと冷や汗が流れる。

「も、申し訳……」

「なに、そのように怯えるな。ここから遠く離れた場所に家を用意してある。この子猫と一緒に住むがよい。そなたはコイツが心配だったのだろう?」

 そう言われて側近が見上げた先、ユーベルトの懐に子猫はいた。

「なぅ」

「な、な、な、なんという場所に!?」

 ぴょこんと顔だけ出した子猫に、側近はフルフルと震えながら内心歓喜する。

(マジちょーーーーー可愛いんですけど!? ユーベルト様と子猫のコラボって!?)

「ほら、今日からコイツがお前の飼い主だ」

「にぅーー」

 ぴょいっと懐から摘み出されて不安げな子猫だったが、側近の手に収まるとクルンと丸くなって眠り始める。

(か、かわいぃ……)

「場所は別のものに案内させる。ここは少し安全とは言い難いからな」

「はい?」

「まぁ、それも私が成功すればいいだけの話。コイツの世話は任せたぞ?」

「はい!」

 こうして、元側近はユーベルトの元から離れて嫁と一緒に少し離れた森でルナと名付けられた子猫と共に今も暮らしている。

「ユーベルト、ルナは立派に育ちましたよ」

「にゃーー!」

「はいはい、ご飯ね。今から嫁が用意してくれるぞ? 今日は魚だ! 喜べ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【後書き】

 完全なる蛇足でした(苦笑)
 つい先日、我が家で飼っていた猫が亡くなりまして、飼い始めてから8年目に突入しようかという間際でした。1ヶ月前は元気だったのに、あっという間で……それも四十九日が私の誕生日という、なんと言っていいのやら。未だに実感が湧かない今日この頃でございます。無事、天国に着いてまた新しい幸せな猫生を歩めたらと思います。
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