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9.アレンの心配事

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「セーバ様! 今日こそは印を消してくださいませ‼︎」
「むーり」

 にこにこと笑いながらルビーをあしらうセーバ様。印とはなんなのか、俺が聞いてもセーバ様は教えてくれない。読み取ろうとしたけど、飄々とした態度のセーバ様は一筋縄ではいかなかった。

 ルビーとの鍛錬を終え、セーバ様は俺と一緒にシャワーを浴びに行く。もちろん、自分の魔法でだ。ルビーが魔法の訓練でやっているのをセーバ様からお聞きし、自分たちもやるようになったのだ。

「セーバ様、印とは何ですか」

 バスルームに行く途中でいつものように尋ねてみる。

「んー? 私がルビーと結婚するために大切なものだよ」

 またはぐらかされる。

「セーバ様、正直言ってルビーは異常です」
「うん、知ってるよ」
「では、あなたはあの子を受け入れる事ができますか?」

 俺はそれから疑問だった。ルビーは凄い。魔法なんてせいぜい2属性使えれば、大魔法師として崇められる存在。それなのに、ルビーの扱える魔法の属性はほぼ全てだ。そして、今までなかった属性まで発現させている。

 だからこそ、セーバ様がルビーを誤った方向に導かないのか心配だった。

「ねぇアレン。君は私と何年いるの?」
「3年程ですね」
「そうだねぇ、それで私はルビーを愛していないとでも?」

 いつもは細めている切長の目が見開かれ、黒曜石のような美しい瞳が姿を表している。なんというか、恐ろしいほど美しい。そんな印象を持つ。

「……分かりません。ルビーは賢いですがアホです」
「うん、アホだねえ」
「ですが可愛いのも事実なのですよ」
「うんうん、バカ可愛いよねえ」

 にこにこと頷くセーバ様は、とてもご機嫌なご様子で、とてもじゃないがルビーを愛していないなどとは思えなかった。でも、何故か嫌な予感がする。

「セーバ様、俺に人の心は分かりませんし読めません。ましてやあなたは本心を何重にも壁で囲って隠しておられる。ですので、安心できないのです」

 10歳まではわがままで本当に頭の中がお花畑のようだったルビー。しかし、セーバ様のところへ行った後倒れ、人が変わったように溌剌としたアホだけれどもきちんと論理立てて物事を考えられるようになった。

「セーバ様、初めてルビーとあった日。あなたはルビーに何をしました?」
「ん? それはアレンが聞いてどーするの? 過去は変えられないんだよ?」
「……セーバ様」
「それにねぇ、アレン。私はルビーの事を本当に好いているんだ。いくら君でも邪魔しようとしたらただじゃおかないよ?」

 俺と同じぐらいの背丈のセーバ様はにっこりと笑みを浮かべる。彼の笑みは、とても妖艶な雰囲気を醸し出していた。

「大丈夫、ルビーは私が大切にするから」

 そう言って、セーバ様はバスルームに入って行ったのだった。
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