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6.第二王子襲来

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「やぁ、こんにちは」
「ご機嫌よう、セーバ様」

 お兄様といつものように鍛錬を終え、お風呂に入っていた私は突然の第二王子の訪問に驚いていた。今までは、年に1回誕生祭で会うぐらいだったから。

「あはは、そんな硬っ苦しい挨拶はやめよう? 私たちの間には切っても切れない繋がりがあるのは知っているでしょう?」
「……」

 主に一方的な主従関係ですがね!

 ニコニコと軽薄な笑みを浮かべるのはセーバ様。何を隠そう私に印をつけた人物だ。
 注意深く観察していると、突然第二王子がにじり寄ってきた。

「ねぇルビー。印に何かした? 前、消えそうになってたんだけど……」

 そっと囁くように言われた言葉に一瞬息が止まる。

 待て待て、落ち着くんだ私。印が消えそうだと?
聞き間違いとかじゃないよね?

「は? 消えそう、とは?」
「うん、だからね。ルビーにかけていた魔法刻印が破棄されそうになってたんだ。慌てて全魔力を行使して抑えたけど間違ってたら君との繋がりが消えていたところだったよ」
「へ、へぇ~」

 つまり、私はあなたより強くなりかけているってことでいいんでしょうか⁉︎

 空返事を返しながら私の心の中のミニルビー達は狂喜乱舞していた。

「ねぇ、ルビー。本当に何かやってない?」
「やってないですわ」

 探るような目つきのセーバ様に、ケロッとした顔で嘘をつく。実は護身術も魔法も勉強も必死こいてやってるんだけどね!

 それは言ったら終わりなので黙っておくには越したことはないのだ。あと少しでこの印が消えて、死亡フラグとおさらばできる! そんな浮かれた様子の私は視界の端でセーバ様が魔力刻印を発動させたのに気づかなかった。

○○○

「……びー。るびー。ルビー」
「ん……」
「起きて、私はそろそろ帰らないといけないから」
「もうちょっと……」

 ふわふわと漂う意識の中、誰かの困った声が聞こえる。

「んー、もう夕暮れなんだけど……」
「んぅ~」

 しょうがない、起きるか……私は諦めて瞼を開けた。

ーーーーが、

「ひぃっ!?」

 視界にうつる、ドアップの顔に悲鳴をあげる。何故なら、相手がセーバ様だったから。

「あ、起きたね。おはよう。いきなり倒れてしまったからびっくりしたよ。何か疲れることでもやったの?」
「あ、いえ。あ、でも夜遅くまで本を読んでいたのでそのせいかと……も、申し訳ございませんでした。おほ、おほほほほほほ……」
「ふふふ。じゃあ、私はもう行くね」
「は、はい! お気をつけて」
「うん、じゃあまた会おうね」
「……」

 黙って手を振る。セーバ様が死亡フラグの原因だと知って、セーバ様に喜んで会いに行くやつは頭のネジが数本おかしい奴しかいない。私は正常なの!

 ガタゴトとセーバ様の乗った馬車が屋敷の門を通過して見えなくなったくらいで、私は急いで屋敷に戻った。こうしちゃいられない、もう少しで印が解除できるんだから!
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