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 リンには悩みがあった。それはビオラと結婚したのに、指輪の交換も何もできていないことだ。

「ビオラ。ビオラの世界では夫婦で交換して持っておくものってないの?」

「そうですわね。腕輪なんかはありますわ」

 リンの膝の上にちょこんと座ったビオラは、少し目を伏せていた。無意識に、なんとなく残念そうな雰囲気を漂わせるビオラ。

「腕輪、見に行こうか」

「え? ですが、お金がありませんわ」

 そう、ビオラは手持ちのお金がないことを知っていたから何も言わなかったのだ。リンはそれが手に取るほどよく分かった。だが、お金がないのはビオラの世界の事。日本でなら、リンは小金持ちなのだ。

(株やってたのがよかったかな)

「ちょっとぐらい蓄えはあるからね。どうせならビオラと一緒にお揃いのものが買いたいんだ」

「えっ!?」

 驚くビオラは嬉しさゆえか頬が上気してほんのり色づいている。その反応に気を良くしたリンは上機嫌に告げた。

「お店、行こっか」

「い、今ですの?」

「うん、思い立ったが吉ってね」

 リンの母の手によって今日も可愛らしく仕立て上げられたビオラ。この格好だとそのままお店に行っても問題なさそうだと判断して、リンはビオラを連れて家を出た。

「このクルマというのがまた便利ですわ。でも……」

 上機嫌に話していたビオラだったが、途中で詰まる。顔を見れば、少し青褪めていた。

「大丈夫?」

「……えぇ。我慢できるほどですので」

「辛くなったら言うんだよ?」

「分かりましたわ」

 そう言うビオラだが、多分辛くなっても我慢するであろう事はリンには容易に予想がついた。何故なら、念話でビオラの胸の内が全て伝わってきているからだ。

『うっ、お腹の中がぐるぐるしますわ』

 と、今も酔いと戦っていた。




「ついたよ」

「……えぇ」

「はい、お水」

 ぐったりしたビオラが回復するまで待つ。

(酔い止めの薬を買っておいた方がいいな)

「リン、もう大丈夫よ」

「分かった。ちょっと外に出て歩くよ」

「ええ」

 パーキングエリアから徒歩5分の場所にあるそのお店は、そこそこの値段の張るものしか置いてない。しかし、ビオラがそれを知るはずもなく素直にリンと一緒に入って行った。

 もし知っていれば全力で拒否していただろう。

「いらっしゃいませ」

 出迎えてくれた店員に、事前に相談していた数種類のブレスレットを用意してもらう。

「っ!」

 驚いたように目を見張るビオラ。本当にいいの? とばかりに、そっとこちらに視線を送ってくるあたりが可愛らしい。

「ビオラ、どれがいい?」

「どれも素晴らしくて……」

 うーんと悩むビオラ。

「これなんかどうでしょう?」

 もっと悩む時間はあってもいいように思えたのだが、流石は元貴族令嬢と言ったところなのか、ビオラは並べられた商品から1つを手に取った。

 銀色のブレスレットで、チェーン状になっている。中央にはキラキラと光る石がはめ込まれていた。

(この石、綺麗ね)

 ビオラは興味津々と言った様子でその光る石を眺めていた。

『それはダイヤモンドだよ。宝石の一種』

(そうなの? 私の世界にはこのような石はなかったわ)

 リンの解答に、ビオラはさらに興味が湧いたようでじぃっとダイヤモンドに見入っていた。

「これでお願いします」

「かしこまりました。お会計まで少しお待ちください」

 ビオラは周囲のアクセサリーにも興味があったようで、ショーケースに入った指輪なども眺めていた。

「欲しい?」

「うーん、いいわ」
 
 どうやら、指輪はお気に召さなかったらしい。

 この世界では指輪なんだけどなぁ、とリンは思いながらも店員が会計に来たために諦めた。

「お会計は現金とカード、どちらにいたしますか?」

「カードで」

「かしまこりました」

 支払いを済ませた後、店員から包装されたブレスレットの入った箱を受け取った。

「ねぇ、もうつけましょうよ」

 薬を飲んで酔いがないビオラはソワソワと箱を見つめてリンに催促していた。

「家についてからね」

「分かったわ」

 そっと大切そうに箱を撫でるビオラ。相当嬉しかったらしい。

 道中、どれくらいしたのかなど心配そうに聞かれたが、リンは全てはぐらかした。

「ビオラの思うほど高くないやつだから」

と。真実はリンだけが知っている。






「あら、2人ともブレスレットにしたの? いいわねぇ」

 数日後、2人の腕に光るブレスレットを見てリンの母はにっこり微笑んだ。
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