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この世界は小説

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「ねぇ、サマンサ。わたくし、恋をしたかもしれないの」

「えっ!?」

 お嬢様が恋!? 魚の鯉を見つけたとかではなく……恋⁉︎

「お嬢様、いいですか? もし、無理矢理襲われそうになったら、こう、相手の股の間を……」

「もう、サマンサったら!」

 キャッと恥じらうお嬢様はまだ7歳。私は心配で心配でなりません。

「今日ね、お父様がわたくしを呼んでくださってね? 婚約が決まりそうって! その相手の方の釣書を見せてくださったの! とってもかっこよくて……次の時に顔合わせする予定なのよ!」

 なるほど、公爵が選んだのか……

「ちなみにそのお方のお名前は?」

「え~、まだ誰にも言っちゃいけないって言われてるのだけど……サマンサにだけよ?」

 しょうがないなぁみたいなお嬢様、とっっってもお可愛い!!!!

 可愛すぎて爆死しそう。

「サマンサ! ちょっと、ちゃんと聞いてちょうだい!」

「あぁ、申し訳ございません」

「もう、では言うわよ?」

 ちょいちょいと私を手招きしてコソコソと耳に囁いてくれた。

「えーっと、ブレディグ様ですか?」

 教えてくれた名前は聞き覚えのあるような無いような微妙な名前。

「あ、そうよね。サマンサは記憶喪失だったわ! あのね、ブレディグ様はこの国の皇太子様なの。わたくしは未来の皇妃様なのですって!」

「……ちなみにですが、この国の名前は?」

 あぁ、嫌な予感がする。

「⁇ サマンサは、それも忘れたの? この国はジュリーエ皇国よ」

「へーえ、ソウナノデスネー」

 宝石の名前が使われた爵位名に、ジュエリーをもじった国名。それは、間違いようもなく私が前世読んでいた小説に出てきていたやつ。

 あぁ、どうやら私は小説の世界に転生してしまったようです……

 待ってっ!? ってことはよ? この天使は私の推しで、加えて推しの幼少期が見放題であると!? なんたるご褒美幸福!!!!

「お嬢様……」

「え、何!? なんで泣くのサマンサ?」

 いや、推しが尊すぎて……っ‼︎ それから、この後、天使に起こる不幸が悲しすぎて。

「どうか、どうか、皇太子だけはおやめくださいぃぃ」

「えぇ!?」

 その小説は、私の1番のお気に入り。何度も言うよ。悪役令嬢が私の推しでした。『全てわたくしの招いたことよ。自業自得だわ……』この、っこの台詞がどれだけ私の涙を誘ったか分かるか⁉︎ もう、枕が浮かぶぐらいの大号泣だったんだよ!

 悪役令嬢イリージェは、それはそれは悪い意味でいい性格をしていた。the 悪役令嬢を体現したような、そんな性格だった。でも、元からそんな性格だったわけではない。クズ親父や、周りのクズ達にいいようにされて誰も信じられなくなった結果があの悪役令嬢イリージェだったのだ。

 皇太子は幼いながらもどこか感情が欠落した子供で、物事を達観してみていた。イリージェとの婚約も政治の上で必要と割り切っていたのだ。ヒロインが現れてからはポイしていた。

 皇太子の役に立とうと勉強に精をだし、皇太子を一途に慕っていたイリージェをいとも簡単に捨てたんだよ!? クズ以外に何がある!?

「ぐすっ……あの皇太子はクズなんですぅ」

「ええ? サマンサ? 一体どうしたの?」

「お嬢様ぁ、お願いですからあんな感情欠落人間に恋しないでくださいぃ」

「サマンサ!?」

 みっともなくお嬢様に縋りついてしまったけれど、なんとしてでもあのロボット人間からお嬢様の恋心を引き離さなければ! そのためには必要な事です。
 
 そうそう、確かイリージェが最初のクズ人間によって傷つけられたのはこのくらいの時期だと書いてありました。確か、サなんとかとか言う侍女に懐いていたイリージェ。屋敷の人間がよそよそしい中、そのサなんとかとか言う侍女だけはイリージェにかまってくれていたのだ。

 しかし、その侍女はなんとイリージェの反応で遊んでいただけたのだ。優しくして、突き放して、そうして泣いて謝るイリージェをみて悦に浸っていたクソだ。夜中に他の侍女たちと酒の肴にイリージェの反応を語って笑っている時にイリージェがたまたま聞いてしまって傷つくんだ。

 ……待てよ? 

 サから始まる侍女でしょ、私もサマンサでサで始まるよね? え、私が目覚めた時、お嬢様、横にいたよね? まさか……! 私があのクソ性格の悪い侍女ってこと!?

「お嬢様、私は絶対お嬢様を裏切りませんからね!」

「えぇ、それは嬉しいのだけれど。サマンサ? 一体どうしたの?」

「お嬢様、大好きです!」

「え! 嬉しい! わたくしもよ!」

 この日、私は1日中、懇懇と皇太子がいかにロボット人間であるか語り、と同時に自由に恋愛することの楽しさを語りつくした。

「なんだかサマンサの言うことを聞いているとわたくしはちっぽけな世界で生きていたように思えるわ。婚約の件はお父様と相手方がお決めになるらしいから、わたくしにはどうしようもないけれど……もしサマンサの言う通り、皇太子様がロボット人間とか言う人種だったら嫌ね」

 寝る前にはお嬢様も私の必死な気持ちを受け取って下さったらしく、そう、おっしゃっていました。ご安心ください、お嬢様の恋路はこのサマンサが命に変えても成立させますので‼︎ 誠に達成感のある1日でした。
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