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第115話 誰かが噂をしている
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ダミアンが過去に思いを馳せていた頃、ユリナと麗央の夫婦は寝室にて寛いでいた。
就寝前で入浴は既に済んでおり、あとは眠るだけの状態である。
ユリナは薄手の生地にレースをふんだんに使ったシースルーの夜着に着替えており、麗央はTシャツとハーフパンツしか着ていない。
シンプルなデザインで無地なことから、寝間着の代わりとして麗央が愛用しているものだった。
夫婦の睦み事は入浴前に一通り、終わっている。
しかし、睦み事とはいえ、未だに性的な知識が欠けたままの二人のやることはどこかちぐはぐである。
互いの性癖がより拗れていく要因となっているのだが、二人がそのことに気付くかどうかは怪しいものである。
「くちゅん、くちゅん」
「リーナ、大丈……はっ、はっくしゅん。くしゅん」
遠き旧アメリカにいるダミアンが不意に二人のことを口に出したせいなのか、ユリナがくしゃみをすると釣られたように麗央までも二回、くしゃみをした。
噂話をされるとくしゃみをするといった迷信が果たして、あやかしに属する二人にも通用されるかは分からない。
ユリナのくしゃみを我が事のように心配した本人までもがくしゃみに襲われているので、何ともかっこのつかないことになっているのだがユリナはそんな麗央の優しい心遣いだけで幸せを感じている。
この二人、お互いが何をしてもいいように解釈するところがあった。
まさに痘痕も靨を地で行く夫婦である。
ユリナが常時、魅惑を発動しているのとほぼ変わらない状態なのを考えれば、麗央がそう考えるのは自然とも言えるのだ。
しかし、麗央は魅惑を発動している訳ではない。
ユリナの反応は自然に起きている。
愛の為せる業とでも言えば、妥当なのかもしれない。
「大丈夫よ。どうせ、誰かが噂しているんだわ」
「そうなのかな?」
この後、麗央は目の前に人参をぶら下げられ、走らされている競走馬の如き、苦行を強いられることになる。
魅惑的な果実が手の届く距離にありながらも手を出すことは憚られる。
悶々とした夜を過ごさねばならない。
翌日、対照的な二人の姿が見られた。
愛する麗央に抱き着き、ぐっすりと眠ったユリナは実に生き生きとした表情をしている。
一方、彼女に抱き着かれ、眠ったのか眠っていないのかも定かではなく、夜を過ごした麗央は生欠伸が止まらない。
そんな二人は今、意外な場所を訪れている。
光宗博士が技術提携をしている関西の『飯井工業株式会社』の工場である。
飯井工業株式会社は業界屈指の技術者の歌声も高い飯井 兼雄が代表取締役社長を務める旧日本地域でそれなりに名が通った重化学工業企業だった。
「ねぇ、レオ。何なの、アレ?」
怪訝な顔を隠そうともせず、ユリナが胡乱な目を投げかける視線の先には奇妙な鉄の塊がある。
大きなクレーンアームで釣られた巨大な鉄の塊はぱっと見たところ、三メートルはあろうかという代物だ。
不完全ではあったが、どうやら人の姿を模して造られた物らしい。
鋼鉄の巨人の生りそこないとでも呼ぶ方がいっそ相応しい見た目だった。
クレーンアームで釣られているのは下半身に相当する部分がまだ、出来上がっていないせいだ。
丁度、胴の下腹辺りまでしか完成していない。
何とも頼りない鉄骨で構成されたような腕と立方体の箱にしか見えない頭が申し訳程度に繋げられている程度だった。
「父さんが技術を提供して、開発したモノらしい」
「ふぅ~ん。あんなモノ造って、どうする気なのかしら?」
「さあ? 俺は……ああいうの好きだけどね」
「そうね。レオは好きよねぇ。ああいうの」
「え、あ。そ、そう。好きだよ」
呆れたと言わんばかりにユリナは胸の前で腕を組み、溜息を吐いた。
公の目に触れるところでは極力、肌を見せないユリナだが本日の視察はほぼプライベートなもののせいか、谷間がはっきりと見える薄手のワンピースドレスを着ている。
それもあって、ユリナは立派なメロンを強調するポーズを取っているとそれなりに危ない格好となっているのだが、本人は気が付いていない。
麗央の目はそれに釘付けになっている。
「ああいうのではなく、そういうのが好きなんだ」と言いたいのを我慢しているのだ。
距離を詰められ、「どうしたの?」と上目遣いで問われると誤魔化す以外に他はない麗央だった。
就寝前で入浴は既に済んでおり、あとは眠るだけの状態である。
ユリナは薄手の生地にレースをふんだんに使ったシースルーの夜着に着替えており、麗央はTシャツとハーフパンツしか着ていない。
シンプルなデザインで無地なことから、寝間着の代わりとして麗央が愛用しているものだった。
夫婦の睦み事は入浴前に一通り、終わっている。
しかし、睦み事とはいえ、未だに性的な知識が欠けたままの二人のやることはどこかちぐはぐである。
互いの性癖がより拗れていく要因となっているのだが、二人がそのことに気付くかどうかは怪しいものである。
「くちゅん、くちゅん」
「リーナ、大丈……はっ、はっくしゅん。くしゅん」
遠き旧アメリカにいるダミアンが不意に二人のことを口に出したせいなのか、ユリナがくしゃみをすると釣られたように麗央までも二回、くしゃみをした。
噂話をされるとくしゃみをするといった迷信が果たして、あやかしに属する二人にも通用されるかは分からない。
ユリナのくしゃみを我が事のように心配した本人までもがくしゃみに襲われているので、何ともかっこのつかないことになっているのだがユリナはそんな麗央の優しい心遣いだけで幸せを感じている。
この二人、お互いが何をしてもいいように解釈するところがあった。
まさに痘痕も靨を地で行く夫婦である。
ユリナが常時、魅惑を発動しているのとほぼ変わらない状態なのを考えれば、麗央がそう考えるのは自然とも言えるのだ。
しかし、麗央は魅惑を発動している訳ではない。
ユリナの反応は自然に起きている。
愛の為せる業とでも言えば、妥当なのかもしれない。
「大丈夫よ。どうせ、誰かが噂しているんだわ」
「そうなのかな?」
この後、麗央は目の前に人参をぶら下げられ、走らされている競走馬の如き、苦行を強いられることになる。
魅惑的な果実が手の届く距離にありながらも手を出すことは憚られる。
悶々とした夜を過ごさねばならない。
翌日、対照的な二人の姿が見られた。
愛する麗央に抱き着き、ぐっすりと眠ったユリナは実に生き生きとした表情をしている。
一方、彼女に抱き着かれ、眠ったのか眠っていないのかも定かではなく、夜を過ごした麗央は生欠伸が止まらない。
そんな二人は今、意外な場所を訪れている。
光宗博士が技術提携をしている関西の『飯井工業株式会社』の工場である。
飯井工業株式会社は業界屈指の技術者の歌声も高い飯井 兼雄が代表取締役社長を務める旧日本地域でそれなりに名が通った重化学工業企業だった。
「ねぇ、レオ。何なの、アレ?」
怪訝な顔を隠そうともせず、ユリナが胡乱な目を投げかける視線の先には奇妙な鉄の塊がある。
大きなクレーンアームで釣られた巨大な鉄の塊はぱっと見たところ、三メートルはあろうかという代物だ。
不完全ではあったが、どうやら人の姿を模して造られた物らしい。
鋼鉄の巨人の生りそこないとでも呼ぶ方がいっそ相応しい見た目だった。
クレーンアームで釣られているのは下半身に相当する部分がまだ、出来上がっていないせいだ。
丁度、胴の下腹辺りまでしか完成していない。
何とも頼りない鉄骨で構成されたような腕と立方体の箱にしか見えない頭が申し訳程度に繋げられている程度だった。
「父さんが技術を提供して、開発したモノらしい」
「ふぅ~ん。あんなモノ造って、どうする気なのかしら?」
「さあ? 俺は……ああいうの好きだけどね」
「そうね。レオは好きよねぇ。ああいうの」
「え、あ。そ、そう。好きだよ」
呆れたと言わんばかりにユリナは胸の前で腕を組み、溜息を吐いた。
公の目に触れるところでは極力、肌を見せないユリナだが本日の視察はほぼプライベートなもののせいか、谷間がはっきりと見える薄手のワンピースドレスを着ている。
それもあって、ユリナは立派なメロンを強調するポーズを取っているとそれなりに危ない格好となっているのだが、本人は気が付いていない。
麗央の目はそれに釘付けになっている。
「ああいうのではなく、そういうのが好きなんだ」と言いたいのを我慢しているのだ。
距離を詰められ、「どうしたの?」と上目遣いで問われると誤魔化す以外に他はない麗央だった。
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