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第91話 真夏の決闘・ゆりな対麗央②姫様御乱心
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麗央は集中が乱されるのを嫌っている訳ではない。
ユリナとのスキンシップはむしろ、彼の望むところである。
許されることならば、自らの手でたわわに実ったユリナの果実を直に触りたいと欲する強い欲求が、心の奥底にあるのを我慢しているほどだ。
麗央が心配しているのはユリナの安全を考えてのことだった。
何と言っても曲がりなりにも危険物である。
己の身がいくら傷つこうと歯牙にもかけない麗央だが、ことユリナが絡むと別人のようだった。
些細なことでも大袈裟に捉える。
先日、ユリナが珍しく、料理を手伝う機会があった。
味付けのセンスが独特過ぎる為、仕上げに関わらせると危ない。
そこで麗央は下準備を手伝ってもらうことにしたのだ。
野菜をカットしようとユリナが包丁を手にした時、うっかりと人差し指の先を刃で傷つけた。
幸いなことにごく浅い切り傷程度だったが、これまたうっかりとユリナが「怪我した」と洩らしたのがまずかった。
血相を変え、見るからに狼狽える麗央の様子に言わなければ、良かったと当の本人が後悔したほどである。
「今は危ないから、後で……」
「後じゃなくて、今がいいの」
麗央の腕はがっちりとユリナにホールドされていて、梃子でも動かない状態だった。
細身の体のどこから、この力が出ているのかと不思議に思いながらも麗央はこれ以上、愛刀の手入れを進めることを諦めた。
こうなったら、ユリナは何を言っても無駄だと麗央は知っている。
彼女が一度、言い出すと言うことを聞かないお姫様なのだ。
「じゃあ、何をしようか?」
諦めた麗央は雷切を鞘に納めると紅玉の色をした瞳で上目遣いに見つめるユリナの頭をそっと撫でた。
満足そうにうっとりとした表情になったユリナを見ていると本当に猫のようだと思いながら、麗央は手を止めない。
「二人で出来ることがいいわ」
「二人で出来ることか……」
夫婦水入らずで邪魔者に邪魔される恐れはない。
まだ若く、愛の結晶を求めてやまない夫婦である。
誰にも邪魔されず、二人きりである以上、太陽が真上にある時間帯であろうともやることはアレしかないように思われるだろう。
だが、完全無欠の歌姫とそれを守るナイトの二人には根本的に欠けているものがある。
麗央は二人で楽しめるものとして、体を動かすべきだろうと考えた。
太陽の下で共に汗をかけば、実に心地良い気持ちになれるに違いない。
そう考えたのだ。
ユリナはユリナで二人で遊ぶのなら、カードゲームがいいかしら? それとも対戦ゲームの方がいいかしら? と考えた。
二人の中に別の意味で汗を流すという選択肢は端から存在していなかったのである。
「一緒に汗を流すのがよくないかな?」
「何をするの?」
「軽くトレーニングがいいと思うんだ。リーナはあまり、体動かすのが得意じゃなさそうだしさ」
「言ったわね、レオくん。目に物見せてやるんだから!」
「ちょっと待ってて。着替えてくるから!」と捨て台詞を残し、三つ編みのおさげをやや逆立てながら、勢い良く部屋を出たユリナだが、すぐに戻ってきた。
どうやら忘れ物があったのか、なぜか頬が朱で染めたように真っ赤になっている。
忘れ物は忘れ物でも相当に恥ずかしいものだったようだ。
「この髪だと動きにくいから、やってくれる?」
「サイドポニーテールでいいかな?」
「うん。高めの位置でお願い。あと……レオもこれに着替えておいてね」
おずおずとユリナが差し出したのは男性用のトランクスの水着である。
麗央は「何で水着なんだろう」と疑問に感じつつも「ま、いっか」といつものように流す。
考えるよりも感じる方が麗央の好む生き方だった。
ユリナとのスキンシップはむしろ、彼の望むところである。
許されることならば、自らの手でたわわに実ったユリナの果実を直に触りたいと欲する強い欲求が、心の奥底にあるのを我慢しているほどだ。
麗央が心配しているのはユリナの安全を考えてのことだった。
何と言っても曲がりなりにも危険物である。
己の身がいくら傷つこうと歯牙にもかけない麗央だが、ことユリナが絡むと別人のようだった。
些細なことでも大袈裟に捉える。
先日、ユリナが珍しく、料理を手伝う機会があった。
味付けのセンスが独特過ぎる為、仕上げに関わらせると危ない。
そこで麗央は下準備を手伝ってもらうことにしたのだ。
野菜をカットしようとユリナが包丁を手にした時、うっかりと人差し指の先を刃で傷つけた。
幸いなことにごく浅い切り傷程度だったが、これまたうっかりとユリナが「怪我した」と洩らしたのがまずかった。
血相を変え、見るからに狼狽える麗央の様子に言わなければ、良かったと当の本人が後悔したほどである。
「今は危ないから、後で……」
「後じゃなくて、今がいいの」
麗央の腕はがっちりとユリナにホールドされていて、梃子でも動かない状態だった。
細身の体のどこから、この力が出ているのかと不思議に思いながらも麗央はこれ以上、愛刀の手入れを進めることを諦めた。
こうなったら、ユリナは何を言っても無駄だと麗央は知っている。
彼女が一度、言い出すと言うことを聞かないお姫様なのだ。
「じゃあ、何をしようか?」
諦めた麗央は雷切を鞘に納めると紅玉の色をした瞳で上目遣いに見つめるユリナの頭をそっと撫でた。
満足そうにうっとりとした表情になったユリナを見ていると本当に猫のようだと思いながら、麗央は手を止めない。
「二人で出来ることがいいわ」
「二人で出来ることか……」
夫婦水入らずで邪魔者に邪魔される恐れはない。
まだ若く、愛の結晶を求めてやまない夫婦である。
誰にも邪魔されず、二人きりである以上、太陽が真上にある時間帯であろうともやることはアレしかないように思われるだろう。
だが、完全無欠の歌姫とそれを守るナイトの二人には根本的に欠けているものがある。
麗央は二人で楽しめるものとして、体を動かすべきだろうと考えた。
太陽の下で共に汗をかけば、実に心地良い気持ちになれるに違いない。
そう考えたのだ。
ユリナはユリナで二人で遊ぶのなら、カードゲームがいいかしら? それとも対戦ゲームの方がいいかしら? と考えた。
二人の中に別の意味で汗を流すという選択肢は端から存在していなかったのである。
「一緒に汗を流すのがよくないかな?」
「何をするの?」
「軽くトレーニングがいいと思うんだ。リーナはあまり、体動かすのが得意じゃなさそうだしさ」
「言ったわね、レオくん。目に物見せてやるんだから!」
「ちょっと待ってて。着替えてくるから!」と捨て台詞を残し、三つ編みのおさげをやや逆立てながら、勢い良く部屋を出たユリナだが、すぐに戻ってきた。
どうやら忘れ物があったのか、なぜか頬が朱で染めたように真っ赤になっている。
忘れ物は忘れ物でも相当に恥ずかしいものだったようだ。
「この髪だと動きにくいから、やってくれる?」
「サイドポニーテールでいいかな?」
「うん。高めの位置でお願い。あと……レオもこれに着替えておいてね」
おずおずとユリナが差し出したのは男性用のトランクスの水着である。
麗央は「何で水着なんだろう」と疑問に感じつつも「ま、いっか」といつものように流す。
考えるよりも感じる方が麗央の好む生き方だった。
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