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第79話 ヨルムンガンド
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K県M半島。
その東部にかつて浦賀ドックと呼ばれていた乾ドックがある。
旧世紀の時代、旧日本帝国海軍の駆逐艦建造で名を馳せた歴史的遺物だ。
同地はかつての旧跡として、密かな観光名所になっていたがそれも昔の話となる。
新世紀に入り、世界各地に怪異が出現し、その存在が公のものとなったことで人類は新たな脅威に晒された。
そうなるといつしか、その存在すらも忘れられた場所、それが浦賀ドックだった。
現在はその名をコードネーム、Uドックと呼ばれている。
管轄するのは日本の政府機関だが、実際に運用・管理しているのは環太平洋機構であり、欧州連邦共和国も出資している曰く付きのドックである。
そのUドックは現在、活気に満ち溢れていた。
建設機材の鳴らす金属音がそこかしこから、聞こえてくる。
奇妙なのはドックの中を行きかう人影が、全くないことだ。
全てが機械化されており、作業しているのは自律型の工業ドローンである。
忙しなく、働き続ける彼らによって、ドックに眠る巨大な黒い影は着々とその威容を整えていた。
黒い影の正体は環太平洋機構が主導し、技術の粋を集めて建造されている最新鋭の軍船だった。
環太平洋機構は灰色の幽霊と愛称を付け、欧州連邦共和国は発起人たる常世の女王の名にちなみ、死者の船と呼んでいた。
冥府の女王たる女神が集めた死者の爪で造られ、この世の終わりを告げる存在として知られるお世辞にも縁起が良いとは言えない二つ名である。
船影は軽く、見積もっても三百メートルを超えていた。
巨大ではあるが軍船としてはそれほど、大きいとは言えない部類に入る。
しかし、この船が潜水艦であることを考えれば、やはり巨大と言わざるを得ない。
艦首部分は長く、すらりとした細身で流線形の船体に闇を纏ったような黒の塗装が施されており、どことなく攻撃性を秘めた見た目は鮫や鯱を思わせる。
船体の両弦から、張り出す艀に似た補助船体にはまるで彩りを加えるような純白の美しい翼が広がっていた。
艀には各々二基の推進装置が備え付けられているが、スクリュープロペラの類は見当たらない。
この推進機には海中の電流と磁場により発生するローレンツ力を推進力として、利用する電磁推進と呼ばれる方式が採用されているのだ。
船体後方艦橋が配置されており、その前方には三連装の主砲が二基、設置されている。
艦橋と主砲の下部にあたる箇所には格納庫も存在しており、ハッチからは射出装置の備えられたカタパルトデッキが伸びていた。
この潜水艦が単なる潜水艦ではない『潜水空母』であることを示唆していた。
コードネームはグレイゴーストともナグルファルとも呼ばれる潜水母艦と言うべきこの船の本当の名は『ヨルムンガンド』である。
奇しくもユリナの兄にあたるイェレミアスと同じ名を持っているが偶然ではない。
なぜなら、建造しているドックと同じく、このヨルムンガンド号も全てがオートメーションされているからだ。
無人での航行をも可能にする秘密は船を管理するバイオコンピュータ『ヨルムンガンド』にある。
このバイオコンピュータには人格を移植したオペレーションシステムが搭載されている。
これは建前の話であり、実際には人格どころではなく、本当に『ヨルムンガンド』の魂を宿した生体CPUと言っても過言ではない代物だった。
なぜ、秘密裏に建造されている『潜水空母』に『ヨルムンガンド』の魂を移植したバイオコンピュータが積まれているのか?
それを語るにはユリナの境遇と彼女の兄イェレミアスについて、語る必要があった。
彼らの祖父は神々の王であり、祖母は魔女の女王である。
生まれる前から、強大な力を持ってこの世に誕生することが運命づけられていたとも言える。
ユリナにとって、不運だったのは強すぎる力に耐えられる体を持たず、生まれたことだった。
その為、生まれながらにして体が耐えきれず、自壊したのだ。
このままでは物心をつく前にユリナは生涯を終える可能性が高いと判断された。
そこで考えられたのが魔槍グングニルを使った強制的な融合手術だった。
妹を救うべく、迷わず命を差し出したヨルムンガンドのお陰で何者にも倒されない強靭な肉体を手に入れたユリナだが、長らくその体の中には二つの魂が存在したままだったのだ。
ユリナは不安定な状況に終止符を打つべく、兄の新しい器を用意し、実行に移した。
グングニルを模して作られたユグドラシルを用い、ヨルムンガンドの魂を新たな肉体へと誘った。
かくして誕生したのが技術の粋を集めた最新鋭の『潜水空母だった。
深海に潜む黒き大蛇が鋼鉄の体を纏い、再誕した。
来るべき日に備え、秘密裏に建造されたこの船に隠された秘密はまだまだあるのだが、それはまた別の話である。
その東部にかつて浦賀ドックと呼ばれていた乾ドックがある。
旧世紀の時代、旧日本帝国海軍の駆逐艦建造で名を馳せた歴史的遺物だ。
同地はかつての旧跡として、密かな観光名所になっていたがそれも昔の話となる。
新世紀に入り、世界各地に怪異が出現し、その存在が公のものとなったことで人類は新たな脅威に晒された。
そうなるといつしか、その存在すらも忘れられた場所、それが浦賀ドックだった。
現在はその名をコードネーム、Uドックと呼ばれている。
管轄するのは日本の政府機関だが、実際に運用・管理しているのは環太平洋機構であり、欧州連邦共和国も出資している曰く付きのドックである。
そのUドックは現在、活気に満ち溢れていた。
建設機材の鳴らす金属音がそこかしこから、聞こえてくる。
奇妙なのはドックの中を行きかう人影が、全くないことだ。
全てが機械化されており、作業しているのは自律型の工業ドローンである。
忙しなく、働き続ける彼らによって、ドックに眠る巨大な黒い影は着々とその威容を整えていた。
黒い影の正体は環太平洋機構が主導し、技術の粋を集めて建造されている最新鋭の軍船だった。
環太平洋機構は灰色の幽霊と愛称を付け、欧州連邦共和国は発起人たる常世の女王の名にちなみ、死者の船と呼んでいた。
冥府の女王たる女神が集めた死者の爪で造られ、この世の終わりを告げる存在として知られるお世辞にも縁起が良いとは言えない二つ名である。
船影は軽く、見積もっても三百メートルを超えていた。
巨大ではあるが軍船としてはそれほど、大きいとは言えない部類に入る。
しかし、この船が潜水艦であることを考えれば、やはり巨大と言わざるを得ない。
艦首部分は長く、すらりとした細身で流線形の船体に闇を纏ったような黒の塗装が施されており、どことなく攻撃性を秘めた見た目は鮫や鯱を思わせる。
船体の両弦から、張り出す艀に似た補助船体にはまるで彩りを加えるような純白の美しい翼が広がっていた。
艀には各々二基の推進装置が備え付けられているが、スクリュープロペラの類は見当たらない。
この推進機には海中の電流と磁場により発生するローレンツ力を推進力として、利用する電磁推進と呼ばれる方式が採用されているのだ。
船体後方艦橋が配置されており、その前方には三連装の主砲が二基、設置されている。
艦橋と主砲の下部にあたる箇所には格納庫も存在しており、ハッチからは射出装置の備えられたカタパルトデッキが伸びていた。
この潜水艦が単なる潜水艦ではない『潜水空母』であることを示唆していた。
コードネームはグレイゴーストともナグルファルとも呼ばれる潜水母艦と言うべきこの船の本当の名は『ヨルムンガンド』である。
奇しくもユリナの兄にあたるイェレミアスと同じ名を持っているが偶然ではない。
なぜなら、建造しているドックと同じく、このヨルムンガンド号も全てがオートメーションされているからだ。
無人での航行をも可能にする秘密は船を管理するバイオコンピュータ『ヨルムンガンド』にある。
このバイオコンピュータには人格を移植したオペレーションシステムが搭載されている。
これは建前の話であり、実際には人格どころではなく、本当に『ヨルムンガンド』の魂を宿した生体CPUと言っても過言ではない代物だった。
なぜ、秘密裏に建造されている『潜水空母』に『ヨルムンガンド』の魂を移植したバイオコンピュータが積まれているのか?
それを語るにはユリナの境遇と彼女の兄イェレミアスについて、語る必要があった。
彼らの祖父は神々の王であり、祖母は魔女の女王である。
生まれる前から、強大な力を持ってこの世に誕生することが運命づけられていたとも言える。
ユリナにとって、不運だったのは強すぎる力に耐えられる体を持たず、生まれたことだった。
その為、生まれながらにして体が耐えきれず、自壊したのだ。
このままでは物心をつく前にユリナは生涯を終える可能性が高いと判断された。
そこで考えられたのが魔槍グングニルを使った強制的な融合手術だった。
妹を救うべく、迷わず命を差し出したヨルムンガンドのお陰で何者にも倒されない強靭な肉体を手に入れたユリナだが、長らくその体の中には二つの魂が存在したままだったのだ。
ユリナは不安定な状況に終止符を打つべく、兄の新しい器を用意し、実行に移した。
グングニルを模して作られたユグドラシルを用い、ヨルムンガンドの魂を新たな肉体へと誘った。
かくして誕生したのが技術の粋を集めた最新鋭の『潜水空母だった。
深海に潜む黒き大蛇が鋼鉄の体を纏い、再誕した。
来るべき日に備え、秘密裏に建造されたこの船に隠された秘密はまだまだあるのだが、それはまた別の話である。
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