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第69話 備忘録CaseVI・冒険ライブの舞台は九十九島大迷宮
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ユリナ一行は九州屈指のテーマパークである『ハウステンピョス』で旅を満喫した。
しかし、彼らがN県S市にまで足を運んだのは何も娯楽の為ではない。
九十九島観光公園に出現した異界への扉たる『大迷宮』の調査・踏破及び破壊が本来の目的だった。
これまでも『迷宮』と呼べないほどの規模の物であれば、異界への扉は確かに開かれていた。
そのことを知らないまま、人々は日常を送っているだけだ。
憐れなのは日常を失った人々である。
偶然、異界の扉に足を踏み入れてしまった不幸な者は、現実という名の日常を失い、見知らぬ世界の旅人となる。
これが『神隠し』と呼ばれる現象の真相の一つであるとはあまり、知られていない。
今回、N県S市の九十九島観光公園に突如として出現した巨大にして、奇怪なる建築物はこれまでにない異質のエネルギーを膨大に蓄えていることが判明し、『大迷宮』と命名された。
異質のエネルギーはこれまでに完治されないほどに膨大な物であり、とても看過出来る代物ではなかった。
ユリナが歌姫リリーとして行った大規模ライブを境に弱体化の流れに歯止めのかからない『タカマガハラ』だったが事態を重く受け止め、ミカヅチを送り込んだ。
ミカヅチは件のライブの際、『歌姫』の確保または無効化を狙った実働部隊を率いていた。
無防備な状態となる『歌姫』を守るべく、現れた北方の雷を司る男と対峙し、無事に生還した屈指の実力者である。
少年時代に渡航し、海外で長きに渡って傭兵家業を生業としていた異色の経歴を持っていた。
見た目はスポーツ刈りと呼ばれるさっぱりとした印象を与える髪型でありながら、無精髭を伸ばしたくたびれた壮年の男にしか見えない。
しかし、彼がミカヅチのコードネームを与えられ、実働部隊を率いていたのには大きな理由がある。
日本の神話において、最強の軍神と称えられる建御雷の魂を宿す、選ばれし者。
それがミカヅチなのだ。
『タカマガハラ』が自信を持って送り出したミカヅチだが、意外なことに全く歯が立たずに撤退せざるを得ない状況に追い込まれ、逃げ帰るように『大迷宮』を後にしている。
ミカヅチが弱い訳ではなかった。
『大迷宮』の出現に危機感を持って臨んだのは日本の神々だけではない。
ユリナとの間に密約を結び、アジア方面を静観していたヘブライ神族もまた密かな動きを見せた。
アジアに派遣されている大天使は二人である。
一人は旧中国の首都だった北京に座す呉麗。
今一人は旧日本の関西の大都市Oを拠点とするギャビー。
見た目は線が細く、たおやかな乙女のように見えるギャビーだが、その戦闘能力は非常に高く、単独での殲滅任務を物ともしない。
しかし、彼女の真骨頂は情報収集と分析能力にあり、それを伝達することだ。
さらにギャビーは定時連絡すら、断っており音信不通の状態だった。
そこで白羽の矢が立った。
大天使の中でも特に苛烈で激しい性格の持ち主としてもよく知られている呉麗である。
性格とあいまった高い技量の剣技は他の追随を許さず、彼に戦士としての栄誉を与えた。
ところがこの呉麗も『大迷宮』に挑み、撤退せざるを得なかったのだ。
前日、『ハウステンピョス』で遊んでいた際は黒を基調としたゴシック・ロリータに身を包んでいたユリナが打って変わって、純白のウェディングドレスを思わせるワンピースドレスを纏い、腑に落ちない顔をしている面々を前に小首を傾げる。
『大迷宮』へのチャレンジをライブで配信する。
これとない好機と捉え、紅玉の色に輝く、瞳に星をキラキラと散りばめ、ヤル気に満ちたユリナと比べるとその他の者のテンションは極めて低い。
「どうしたの? 皆、もっとヤる気を出しましょ」
暴食を貪り、惰眠に耽っていたところを駆り出され、どこか不機嫌な丸々と肥えた銀毛のスピッツことイザーク。
いつもの除霊配信で着ている上半身は和装で下半身はミニスカートという和洋折衷の衣装を着ているが、止まらない生欠伸と眠そうな目をこするイリス。
姉である月に売られたかの如く、なし崩し的に同行を強いられた陸。
そして、長身と引き締まった筋肉質な肉体で上から下までが白一色のスーツを着こなした麗央である。
「これ、被らないといけないのかな?」
「うん♪」
麗央は白の美麗なスーツといったフォーマルな衣装に身を包みながら、頭には定番のバケツを被らされている。
このバケツが余程、腑に落ちないのか、白スーツに赤い裏地の外套を羽織った畏まった装束で麗央はしきりに首を捻っていた。
ユリナの様子は対照的にすこぶる機嫌がいい。
鼻歌まじりにスキップをしそうな勢いがあり、明らかな温度差があった。
しかし、彼らがN県S市にまで足を運んだのは何も娯楽の為ではない。
九十九島観光公園に出現した異界への扉たる『大迷宮』の調査・踏破及び破壊が本来の目的だった。
これまでも『迷宮』と呼べないほどの規模の物であれば、異界への扉は確かに開かれていた。
そのことを知らないまま、人々は日常を送っているだけだ。
憐れなのは日常を失った人々である。
偶然、異界の扉に足を踏み入れてしまった不幸な者は、現実という名の日常を失い、見知らぬ世界の旅人となる。
これが『神隠し』と呼ばれる現象の真相の一つであるとはあまり、知られていない。
今回、N県S市の九十九島観光公園に突如として出現した巨大にして、奇怪なる建築物はこれまでにない異質のエネルギーを膨大に蓄えていることが判明し、『大迷宮』と命名された。
異質のエネルギーはこれまでに完治されないほどに膨大な物であり、とても看過出来る代物ではなかった。
ユリナが歌姫リリーとして行った大規模ライブを境に弱体化の流れに歯止めのかからない『タカマガハラ』だったが事態を重く受け止め、ミカヅチを送り込んだ。
ミカヅチは件のライブの際、『歌姫』の確保または無効化を狙った実働部隊を率いていた。
無防備な状態となる『歌姫』を守るべく、現れた北方の雷を司る男と対峙し、無事に生還した屈指の実力者である。
少年時代に渡航し、海外で長きに渡って傭兵家業を生業としていた異色の経歴を持っていた。
見た目はスポーツ刈りと呼ばれるさっぱりとした印象を与える髪型でありながら、無精髭を伸ばしたくたびれた壮年の男にしか見えない。
しかし、彼がミカヅチのコードネームを与えられ、実働部隊を率いていたのには大きな理由がある。
日本の神話において、最強の軍神と称えられる建御雷の魂を宿す、選ばれし者。
それがミカヅチなのだ。
『タカマガハラ』が自信を持って送り出したミカヅチだが、意外なことに全く歯が立たずに撤退せざるを得ない状況に追い込まれ、逃げ帰るように『大迷宮』を後にしている。
ミカヅチが弱い訳ではなかった。
『大迷宮』の出現に危機感を持って臨んだのは日本の神々だけではない。
ユリナとの間に密約を結び、アジア方面を静観していたヘブライ神族もまた密かな動きを見せた。
アジアに派遣されている大天使は二人である。
一人は旧中国の首都だった北京に座す呉麗。
今一人は旧日本の関西の大都市Oを拠点とするギャビー。
見た目は線が細く、たおやかな乙女のように見えるギャビーだが、その戦闘能力は非常に高く、単独での殲滅任務を物ともしない。
しかし、彼女の真骨頂は情報収集と分析能力にあり、それを伝達することだ。
さらにギャビーは定時連絡すら、断っており音信不通の状態だった。
そこで白羽の矢が立った。
大天使の中でも特に苛烈で激しい性格の持ち主としてもよく知られている呉麗である。
性格とあいまった高い技量の剣技は他の追随を許さず、彼に戦士としての栄誉を与えた。
ところがこの呉麗も『大迷宮』に挑み、撤退せざるを得なかったのだ。
前日、『ハウステンピョス』で遊んでいた際は黒を基調としたゴシック・ロリータに身を包んでいたユリナが打って変わって、純白のウェディングドレスを思わせるワンピースドレスを纏い、腑に落ちない顔をしている面々を前に小首を傾げる。
『大迷宮』へのチャレンジをライブで配信する。
これとない好機と捉え、紅玉の色に輝く、瞳に星をキラキラと散りばめ、ヤル気に満ちたユリナと比べるとその他の者のテンションは極めて低い。
「どうしたの? 皆、もっとヤる気を出しましょ」
暴食を貪り、惰眠に耽っていたところを駆り出され、どこか不機嫌な丸々と肥えた銀毛のスピッツことイザーク。
いつもの除霊配信で着ている上半身は和装で下半身はミニスカートという和洋折衷の衣装を着ているが、止まらない生欠伸と眠そうな目をこするイリス。
姉である月に売られたかの如く、なし崩し的に同行を強いられた陸。
そして、長身と引き締まった筋肉質な肉体で上から下までが白一色のスーツを着こなした麗央である。
「これ、被らないといけないのかな?」
「うん♪」
麗央は白の美麗なスーツといったフォーマルな衣装に身を包みながら、頭には定番のバケツを被らされている。
このバケツが余程、腑に落ちないのか、白スーツに赤い裏地の外套を羽織った畏まった装束で麗央はしきりに首を捻っていた。
ユリナの様子は対照的にすこぶる機嫌がいい。
鼻歌まじりにスキップをしそうな勢いがあり、明らかな温度差があった。
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