世界の終わりで君と恋をしたい~あやかし夫婦の奇妙な事件簿~

黒幸

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第14話 滅びの前奏曲③大和を守る者

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 運命のライブが行われる週末まで三日を切った。
 しかし、ユリナと麗央の日常にさして変化は訪れていない。
 日が出ている間は麗央とダリアが、YoTubeの配信を行っている。
 とても平凡で平穏な日が過ぎていった。

 ある程度、現代知識で武装し、自力で配信が行えるようになったダリアだが、まだいかづち邸の撮影所の厄介になっている。
 配信に適した機材が揃っているだけではなく、一流のプロフェッショナルがサポートしてくれるのが大きかったからだ。
 ただ、彼らは既にこの世の人間ではない。

 ダリアは建ってから、ゆうに半世紀以上というぼろいアパートに親近感を抱き、落ち着けると考え、部屋を借り、一人暮らしを始めていた。
 だが元々、皿を数えては人の歓心を買うという亡霊である。
 一人でいるとどうにも、寂しくて仕方がないものらしい。
 何かと理由を付けては雷邸に入り浸ることが多かった。

「すごいですよね」
「うん。リーナは凄いよ」
 麗央とダリアの視線の先にはユリナの姿がある。
 シンプルなデザインで薄いピンク色の生地に花柄の模様の刺繍が施された薄手のワンピースを着ている。
 まだ、肌寒いこともあり、上にはゆったりとした濃紺色のカーディガンを羽織っていた。

(あれ? あのカーディガンは俺のじゃないか。何でリーナが着てるんだろう)

 麗央は訝しく思いながらもそれ以上は深く、考えない。
 寒かったから、暖かそうなあのカーディガンを羽織っただけのことだと軽く、考える程度である。

(あぁ。レオの匂いがして、レオに抱き締められているみたい。興奮するわ♪)

 ユリナがそんなことを考えながら、バックバンドの生演奏による伴奏に合わせ、踊っているなど微塵も考えていないのだ。

 音合わせとダンスのステップを確認するのが目的である。
 視界の隅に麗央を捉えたユリナは軽く、息の上がっているのも気にも留めず、駆け出すと彼の胸に飛び込むように抱き着いた。

 ユリナはスラブ系の血を引いている。
 鼻筋が通っており、奥目という西欧系の顔立ちの特徴を持ちながら、丸みを帯びた輪郭なのであどけなく、少女の雰囲気を残している。
 それでいて猫目なので普段、まるで懐かない猫がすり寄ってきたように見えなくもない。
 実際はかなり力強く抱き着いて、麗央の体温と匂いを感じ取ろうと必死で猫というよりも仔犬に近いのだが……。

 こんな光景もいつものことである。



 ユリナのライブに合わせ、水面下で不穏な動きを見せる者達もいる。
 古の昔より、大和の国を霊的に防衛していた組織『タカマガハラ』である。

 彼らは決して、歴史の表舞台に立つことはなく、影から国を動かしてきた。
 非合法の超特務機関と言うべき『タカマガハラ』が憂慮するのは、『歌姫』の歌に込められた呪力だった。
 謎の奇病により、意識不明者は増加傾向にある。
 『タカマガハラ』は『歌姫』の歌と何らかの因果関係があるのは明らかであるとの結論に達した。
 ここに非合法の組織でありながら、超法規的措置を取るべきであるとの判断を下したのである。

 五大都市で行われる『歌姫』のメジャーデビュー・ライブに乗じ、彼女の身柄を速やかに確保する。
 抵抗もしくは確保が困難と判断された場合、強硬手段に出ることも許可された。
 『歌姫』の排除も已む無しとしたのだ。
 この作戦に実行にあたって、特殊部隊『土蜘蛛』や『温羅うら』が投入されることも決定した。
 かの部隊の装備は国の防衛機構の要である自衛隊をも凌ぐ。
 試作型兵器や霊的な特殊装備まで備えているのだ。
 『歌姫』の所在地は既に特定されつつあり、当日の作戦決行に何の障害もない。
 彼らは信じていた。
 己の判断が間違っておらず、正しく世界を導くものであると……。
 それがどれだけ、傲慢と偏見に満ちた考えであるのか。

 全てが明るみに出るまで残り三日を切っていた。
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