上 下
11 / 159

第11話 備忘録CaseI・デビュー

しおりを挟む
 真っ白なミニスカ着物を完璧に着こなし、裾の短さを恥じらいつつも見えそうで見えないギリギリのラインを攻める。

 新たな美少女YoTuberの誕生にネット界隈は盛り上がっていた。
 彼女の名はダリア。
 彗星の如く現れた新進気鋭のヨーチューバーである。

 日本国内だけではなく、世界規模で影響力を及ぼしつつある『歌姫』がプロデュースし、デビューしたのも大きな話題を呼んでいた。

「ね? だから、言ったでしょ」
「そうだね」

 ほくそ笑むユリナを見るとダリアのYoTubeデビューを我が事のように喜んでいるように見える。
 少なくとも表向きはそのようにしか、見えない。

 麗央はこう考えていた。
 ユリナが掛け値なしに愛情を注ぎ、優しく接するのは自分に対してだけだと本能的に感じていた。
 それは自惚れではなく、確信である。
 時に揶揄うような仕草をしながらも余りある愛を感じずにはいられなかったからだ。

 しかし、それは誰にでも適用されるという訳ではない。
 ユリナは己を頼ってきた者や所縁のある者に対して、決して、見捨てずに寄り添う優しさを持ち合わせている。
 それは間違いない。
 ただし、そこに何らかの思惑が絡んでいることが非常に多いのだ。
 少なくとも掛け値なしで誰彼をも救おうとしない。
 それなのになぜ、ダリアにここまで肩入れをするのだろうか。
 そんな疑問が麗央の胸を過ぎるが、彼は元々、深く考えるのが苦手な質だ。
 それ以上、考えたりはしなかった。



 結果だけを見れば、ダリアのYoTubeデビューは大成功だった。
 ユリナが彼女のデビューに先駆け、プロモーション動画を作り、SNSで大々的に宣伝したことも影響し、初配信のライブには予想した以上のリスナーが集まったのだ。

 光宗博士が造った器は最高のモノである。
 黒髪清楚女子高生ただし胸は控えめとして、世の男性が好みそうな要素をてんこ盛りした器なのだから。
 配信開始前に集まった待機人数は何と五百人以上。
 デビュー前であり、有名でもないヨーチューバーとしては異例の数だと言える。

 その数の多さに配信主であるダリアが、慄いてしまった。
 デビューに至るまで様々なエキスパートの亡霊の薫陶を受け、鍛えられたとはいえ付け焼刃である。
 元々の彼女の弱気な性質がここにきて、露呈したのだ。

「み、みなしゃ~ん。よ、よろしくお願いし、しまひゅ」

 地獄の特訓を潜り抜けてきたダリアは事もあろうに挨拶で噛んでしまった。
 致命的なミスである。

(や、やってしまいました……)

 出だしから、失敗したことで恥ずかしさのあまり、真っ赤な茹蛸のようになったダリアにリスナーがすぐに反応した。
 豪雨の如く、打ち寄せるコメントの多さにあれほど、練習を積み打ち合わせをした内容がダリアの頭から、全て飛んだ。

(ま、真っ白……ど、どうしよう)

 焦ったダリアはさらなる失態を犯す。
 緊張のあまり、かちこちに固まった手足を無理に動かそうとして、盛大に転んでしまったのだ。
 短い裾のミニスカ着物を着ていたことが仇となり、大勢のリスナーの前で下着を晒す羽目になったダリアは、号泣しながら配信を切ったのである。

 意図せぬアクシデントが発生したこのライブは大当たりになった。
 切り抜きで動画はさらに拡散していき、ダリアの名は一躍、知れ渡ったのだ。



「九百九十六、九百九十七、九百九十八、九百九十九……あっ~、一人足りない! あと一人で収益化なんです。お願いしまぁす☆」

 あざとさを学び、早口で数えるようになったダリアのプロモーション動画を見て、麗央は首を捻った。

「リーナ。これも全部、君の計画通りだったのかい?」
「も、もっちろん。私が考えたんだもの。当然の結果だわ」
「じゃあ、俺のチャンネルもプロデュースしてくれないかな」
「それはダメ」

 「そんなことをしたら、私だけのレオじゃなくなるわ」と言えないユリナは言葉に詰まり、麗央をただ上目遣いに見つめることしか出来ない。

「わ、分かったよ。ずるいよな。そんな顔されたら、何も言えなくなるじゃないか」
「どうして?」

 本当に理由が分からないと言わんばかりに小首を傾げたユリナを前に麗央は、ふいとそっぽを向いて誤魔化した。

「かわいいいからだよ」
「え? 何? 聞こえないけど?」
「か」
「か?」
「か、|かーわいふぁい《Car Wi-Fi)をどうしようかな」
「全く、もう……ねぇ、レオくん。素直に認めましょう? 私が世界で一番かわいくて、最強だって」
「い、いや。ま、負けてないから。うん。負けてないんだ」

 麗央は妙なところで頑固だった。
 口を尖らせ、それでもまだ、認めようとはしない。
 認めているが認めると負けた気がしてならないと考えてしまうのだ。
 素直で真っ直ぐな麗央のそんな強情な一面も含めて、ユリナは全てを愛おしく思っている。

「はい。負っけ惜しみぃ~☆」
「いや、負けてないし!」
「またまた! 負け惜しみぃ!」

 二人ともお互いに素直な気持ちをぶつけず、じゃれ合うだけで終わってしまう。
 子供っぽさが抜けない関係のまま、二人は足踏みをしている。
 一歩踏み出すと今の関係が壊れることを恐れているかのように……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...