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第35話 十七の朝

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(カミーユ視点)

 俺は男だよ。
 と思って、何が悪いんだ!

 そう言う前にロザリーの強烈な蹴りがお腹に入っていた。
 「ぐほぉ」と自分でも変な声を上げていると他人事ひとごとのように考えている。
 なぜか?
 そう現実逃避でもしていないと心が持たなかったからだ。

 ロザリーに蹴られた俺の身体は窓を突き破り、庭で二度、三度とバウンドしてから、三回転くらいして止まった。
 痛いどころの騒ぎじゃない。
 叫びたいくらいに痛い。
 彼女の力はどうなっているんだ?
 加減も出来てないだろ、これ。

「それとこれは違うでしょ! 掃除をしないのなら、外で頭冷やしてきてっ」

 ジュスタンも俺と同じように屋敷から、放り出された。
 俺もああいう風に放り出されたのか……。

 ロザリー、腕を上げたな!
 いや、違う。
 馬鹿力だ。
 あの細い体のどこから、力が出ているのか。

 しかし、あんなに怒っていてもロザリーは、治癒の魔法をかけていく。
 お陰で痛みもほぼ消えた
 それなら、やらなければいいのにと俺が言うことではないか。

「カミーユ。してやられたな」
「ああ」

 ジェシージュスタンと二人、庭の芝の上に寝ころんだまま、空を見上げる。
 ゆっくりと流れる雲のように俺はなりたい。

 俺とジェシーは掃除をしないと宣言しただけじゃないか。
 それなのにこんな扱いはあんまりだろう。
 昨日の今日で掃除をしなくてもいいと考えて、何が悪いんだ!

「俺、行くよ」
「頑張れよ、カミーユ。俺も行くぜ。自由を探してな」

 そうは言ってみたが、俺は動けない。
 ジェシーも同じようだ。
 治癒の魔法で確かに傷は癒える。
 反動なのか、暫くの間、全身に倦怠感が残ってまともに動けないことがある。
 傷が深ければ深いほど、反動は大きい。

 おい、ロザリー。
 どれだけ、殴ったんだよ!



 一時間以上、ぼっーとしながら、空を見上げるだけの時間が過ぎた。
 俺もジェシーも一言も発しなかったのはかっこをつけたことを言った手前、バツが悪かったからだ。
 俺はまだ十七歳だが、ジェシーは二十五歳。
 掃除をしなかったから、十五歳の女の子に家を叩きだされた。
 かっこつけても事実は覆しようがない。

 ようやく、動けるようになった俺達は無言で互いにエールを送って、町へと繰り出した。
 思い描いていた外出とはかなり、趣きが異なってしまったが……。

 まず、向かうのはどこか。
 決まっているじゃないか。
 うまやだ。

 ルアンの町まで馬車を引っ張ってくれたペルダン敗者がそこにいる。
 もう引退してもおかしくない年老いた牡馬だが、老いてますます盛んという言葉がぴったりくるくらいに元気な馬だ。

「やあ、ペルダン。お前もひと暴れしたくないか」

 馬は賢い動物だと言われているが、本当らしい。
 俺の言葉にヒヒンと軽くいなないて、応じてくれた。
 やる気十分のようだ。

 そして、俺は町へと繰り出した。
 盗んだ馬で走り出す。
 行先なんて決まっていない。
 俺は自由だー!
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