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第33話 烏令嬢、再確認する

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「少し、付き合ってもらえるかしら? カミーユ。あなたにとって、懐かしい顔を見るいい機会でもあるわ」

 エマエマニュエルの言葉の意味と妙に不敵な笑みを浮かべていた意味がよく分かった。
 あの人はそういうところがある。

 気遣いが出来て、面倒見がいい姉のようでありながら、意外と底意地が悪い小姑のようだ。
 真面目な顔をして、実はあたしやお兄ちゃんカミーユがどういう反応を見せるのか、影から窺って、楽しんでいるのではないだろうか。
 敢えて、全てを語らないで送り出したのが何よりの証拠だと思う。

 ルアンに新設された冒険者ギルドのギルド長室に通されて、それを思い知った。

「カミーユ!」
「イ、イヴイヴォンヌ!?」

 扉を開けて、数度、瞬きをする暇もない速さ。
 お兄ちゃんに勢いよく、抱き着いた女性がいる。
 あたしのよく知っている女性だ。
 今世ではない。
 

 イヴォンヌ・ド・シュフラン。
 シュフラン侯爵家の令嬢でアンドレ・ド・シュフランという高名な先祖を持っている。
 その点であたしやエマと共通点が多いからか、前世では幼馴染だった。
 あたしにとっては姉のように頼れる人であり、お兄ちゃんを巡って火花を散らすライバルでもある。
 チョコブラウンやや赤みがかった茶の髪とあまり見かけない黒曜石を思わせる黒い瞳に均整の取れた体つきで社交界でも人気が高かった。

 人気があっても見ているのはお兄ちゃんだけなのは、あたしと同じ。
 そのせいか、ライバルなのに妙な共闘意識が芽生えていたのは気のせいではないと思う。

 でも、それはあくまで前世の話だ。
 今、お兄ちゃんに抱き着いて、過剰なスキンシップをしているのはあたしが知っているイヴであって、イヴではない。



「イヴォンヌ・ド・シュフランでございます。以後、お見知りおきを」

 今更のように自己紹介をするイヴを前に鼻白はなじらむあたし達を他所に彼女は、とてもきれいなカーテシーを決める。
 きれいな所作だけど、着ているドレスが特注なのか、ありえない気がしてならない。
 裾が短すぎるでしょ!
 露わな太腿と二の腕は令嬢としてはありえないものなんだけど。

 あたしの黒のバトルドレスも令嬢としては露出度の高いデザインだけど、それは動きやすさを考えたものだから!
 実用的に考えたら、ああいうデザインになっただけ。

 そこに多少のあたしの趣味が入っていてもそれくらいは許して欲しい。
 あたしの家は没落していて、ほぼ元貴族と言ってもおかしくない。
 だから、あたしは別に令嬢らしくする必要がないのだ。

 シュフラン家が没落したという話は聞いてない。
 あれだけの名家に何かがあったとしたら、冒険者界隈にも話が何かしらは流れてくると思う。
 それがないということはイヴはまだ、令嬢のはず。

「ルアン冒険者ギルド長として、これからもよしなに」

 イヴ、あなたもなの!?
 どいつもこいつも全く……。

(まあ。あれだぞ、お嬢ちゃん。これは体のいいお目付け役を付けられたな)

 そういうことだったのね。
 よりによって、前世で縁があった二人がお目付け役なんて!

(まさかと思うがなあ。王太子とジョワユーズには気を付けた方がいいだろうよ)

 それは分かっている。
 分かっているつもりだったというのが正しいのかもしれない。

 聖騎士パラディンと冒険者ギルド。
 鈴を付けるという警告と捉えるべきなんだろうか。
 あたしは今世では細く、長く生きたい。
 前世のように太く、短い人生で死ぬのは御免だ。

 せめて面倒事に巻き込まれないよう願うしか出来そうにない。
 何とも辛い……。
 そんなあたしの心中を察していないお兄ちゃんはフリーダムだ。
 幼馴染イヴに会えて、鼻の下を伸ばす余裕があるらしい。

 お兄ちゃんのボンクラぶりを再確認しにルアンに来たのではないんだけど!
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