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第29話 烏令嬢の悪巧み
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王命。
断ることなど出来やしない。
あたしはともかくとして、お兄ちゃんが王命に逆らうことは絶対に出来ないだろう。
断ったりすれば、お兄ちゃんは病を得て、療養という名目のもと空気がきれいな田舎に行かされる。
そして、そう遠くない未来にお兄ちゃんは病によって、療養の甲斐なく、儚くなったと発表されるのだ。
そんな最悪な結末を迎える可能性が決して、否定出来ない。
あたしだって、断るつもりなら絶対にこの地に戻らない覚悟で雲隠れをしないと儚くされるかもしれない。
それくらいに敵にしてはならないのがサン・フラン王家であり、ギャスパルという王太子だ。
建前ではサン・フランという王国は既に議会制に移行している。
王国は既になくサン・フラン王家が実質的に支配しているのは都市国家ルテティアだけ。
そう。
建前である。
王家の力は未だに絶対的な物であり、神聖にして不可侵の存在。
あたしのオートクレールやお兄ちゃんのデュランダルも相当にいかれていると思うけど、王家の……王が持つジョワユーズは得体が知れないのだ。
お喋りなオートクレールもジョワユーズに関しては急に口を噤む。
単に強いだけの剣なら、聖剣なんて呼ばれないだろうし、何かあると思った方がいいだろう。
もしかしたら、「このジョワユーズが目に入らぬか。頭が高い。控えおろう」で逆らえないのかも……。
いやいや。
変な想像を頭の隅に追いやった。
そんな聖剣は嫌だ。
あの王子様然としたギャスパル王太子が、そんなことを言っている姿をまず想像出来ない。
「お兄ちゃん。それでどうするの?」
「どうするもこうするもないだろ」
お兄ちゃんは既に人生を諦めたような顔になっている。
目が死んでいる。
死んだ魚の目に似ている。
漠然とそんなことを考えてしまった。
そんなに嫌ですか?
あたしも嫌なのは同じなんだけど。
それもお兄ちゃん以上にね! と言いたい。
口に決して、出したりはしない。
前世は前世。
今世は今世。
お兄ちゃんはお兄ちゃんであって、お兄ちゃんではないのだ。
あたしが恋焦がれたお兄ちゃんはあくまで過去の人になる。
今、目の前で項垂れているお兄ちゃんは違う。
同じ顔で同じ声をしていても違うのだ。
それに今、抱いている思いはどちらかと言えば、恋や愛とは違う気がする。
頼りなくて情けないけど放っておけない弟を見守る姉の心境に近いかもしれない。
全力でお兄ちゃんと婚約しないように頑張ってきたのに……。
「不本意なのはあたしも同じだから。覚えておいて欲しいわ」
「俺は……そういうつもりではなくて」
ではどういうつもりなのだと聞き返すほど、あたしも子供ではない。
十五歳だから、子供かもしれないけど、前世はメンタルにも強く影響しているとこういう時に強く、感じる。
「目を付けられない程度にうまくやりましょ。それで文句はないでしょう、お兄ちゃん」
何か、言いたそうなお兄ちゃんに言いたいことは言えた。
さて、どうするべきか。
王命である以上、お兄ちゃんと婚約はする。
この国はオートクレールとデュランダルが、どこかへ行かなければ、いいだけなのだ。
婚約をして、三年後に結婚するのは仕方ない。
ここは譲歩したとしても白い結婚でいけないとは言われていない。
それも悪くないと思っている。
あたしにはそれよりも気にかかることがあるからだ。
この王命に従った場合、バール家は領地を賜ることになっている。
ルアン。
十五年前、お父様が悪竜ガルグイユを倒し、その命を失った地だった。
断ることなど出来やしない。
あたしはともかくとして、お兄ちゃんが王命に逆らうことは絶対に出来ないだろう。
断ったりすれば、お兄ちゃんは病を得て、療養という名目のもと空気がきれいな田舎に行かされる。
そして、そう遠くない未来にお兄ちゃんは病によって、療養の甲斐なく、儚くなったと発表されるのだ。
そんな最悪な結末を迎える可能性が決して、否定出来ない。
あたしだって、断るつもりなら絶対にこの地に戻らない覚悟で雲隠れをしないと儚くされるかもしれない。
それくらいに敵にしてはならないのがサン・フラン王家であり、ギャスパルという王太子だ。
建前ではサン・フランという王国は既に議会制に移行している。
王国は既になくサン・フラン王家が実質的に支配しているのは都市国家ルテティアだけ。
そう。
建前である。
王家の力は未だに絶対的な物であり、神聖にして不可侵の存在。
あたしのオートクレールやお兄ちゃんのデュランダルも相当にいかれていると思うけど、王家の……王が持つジョワユーズは得体が知れないのだ。
お喋りなオートクレールもジョワユーズに関しては急に口を噤む。
単に強いだけの剣なら、聖剣なんて呼ばれないだろうし、何かあると思った方がいいだろう。
もしかしたら、「このジョワユーズが目に入らぬか。頭が高い。控えおろう」で逆らえないのかも……。
いやいや。
変な想像を頭の隅に追いやった。
そんな聖剣は嫌だ。
あの王子様然としたギャスパル王太子が、そんなことを言っている姿をまず想像出来ない。
「お兄ちゃん。それでどうするの?」
「どうするもこうするもないだろ」
お兄ちゃんは既に人生を諦めたような顔になっている。
目が死んでいる。
死んだ魚の目に似ている。
漠然とそんなことを考えてしまった。
そんなに嫌ですか?
あたしも嫌なのは同じなんだけど。
それもお兄ちゃん以上にね! と言いたい。
口に決して、出したりはしない。
前世は前世。
今世は今世。
お兄ちゃんはお兄ちゃんであって、お兄ちゃんではないのだ。
あたしが恋焦がれたお兄ちゃんはあくまで過去の人になる。
今、目の前で項垂れているお兄ちゃんは違う。
同じ顔で同じ声をしていても違うのだ。
それに今、抱いている思いはどちらかと言えば、恋や愛とは違う気がする。
頼りなくて情けないけど放っておけない弟を見守る姉の心境に近いかもしれない。
全力でお兄ちゃんと婚約しないように頑張ってきたのに……。
「不本意なのはあたしも同じだから。覚えておいて欲しいわ」
「俺は……そういうつもりではなくて」
ではどういうつもりなのだと聞き返すほど、あたしも子供ではない。
十五歳だから、子供かもしれないけど、前世はメンタルにも強く影響しているとこういう時に強く、感じる。
「目を付けられない程度にうまくやりましょ。それで文句はないでしょう、お兄ちゃん」
何か、言いたそうなお兄ちゃんに言いたいことは言えた。
さて、どうするべきか。
王命である以上、お兄ちゃんと婚約はする。
この国はオートクレールとデュランダルが、どこかへ行かなければ、いいだけなのだ。
婚約をして、三年後に結婚するのは仕方ない。
ここは譲歩したとしても白い結婚でいけないとは言われていない。
それも悪くないと思っている。
あたしにはそれよりも気にかかることがあるからだ。
この王命に従った場合、バール家は領地を賜ることになっている。
ルアン。
十五年前、お父様が悪竜ガルグイユを倒し、その命を失った地だった。
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