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第27話 トラディシオン
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あたし、お兄ちゃん、ジェシーの三人で組む固定パーティーは伝統と名乗っている。
トラディシオンには「伝承や伝統を守っていく気概に溢れたいい名前なんだ。なぜ、それが分からない」とお兄ちゃんが妙な主張をしたのだ。
あたしもジェシーもそんなのはどうでもいいと思っていた。
結果、トラディシオンに決まった。
「名は存在を表すものだ。どうして、分からないんだ」と怒っていたけど、王子という身分を明かさないでカミュと名乗っていたのはどこのどなただったかしら?
そんなことを付きつけたら、「俺はまだ子供だよ。分からなくて、とうぜんじゃないか」と逆に切れることが分かっているので正直、面倒くさい。
名乗らなくても前世であなたのことを知っているからとは言えないし、バール家の娘であることを黙っていて、『ロゼ』と偽名を名乗っていたのはあたしも同じだ。
この三年であたしはオートクレールの手解きで剣術の腕を上げることに成功した。
同じようにお兄ちゃんとジェシーも見違えるほどに成長している。
二人の成長はあたしの特訓のお陰であると思うけど。
トラディシオンの名も知れ渡って来た。
パーティーとしてのランクは銀にまで上がっている。
ギルドでも名が通った存在になってきたと言えなくもない。
指名での依頼までくるようになったのだから、今でも信じられないくらいだ。
そうなってくるとどうしても厄介なことに巻き込まれる。
そんなことは前世で嫌というほど学んだはずなのになぜ、また、同じ過ちを繰り返しているんだろう。
己の迂闊さに頭が痛くなってくる。
「お兄ちゃんは何? 飲みすぎ?」
「違うよ。そういうロザリーこそ、飲みすぎかい?」
「違うわ。はぁ」
「はぁ」
二人して、カウンターテーブルに突っ伏して、溜息ばかりついているのには訳がある。
我関せずとばかりにジェシーはエール酒を呷っているし、ベラは黙々とグラス類を磨くのに余念がない。
まぁ、仕方ないとは思う。
誰だって、愚痴をつらつらとは聞きたくないだろう。
トラディシオンの名声が高まるにつれ、バール邸の維持費用と生活費でとんとんだった収支も今は昔。
余裕が出来たのもあって、かつてパブとして営業されていた古民家を購入した。
屋号は『蜂蜜とほら吹き亭』。
正直、ネーミングセンスはどうかしていると思う。
あたしは一切、関与していないし、お兄ちゃんも首を捻っていた。
考えたのはベラで経営の方もほぼ彼女任せだ。
冒険者として動いていない時はジェシーも店に出ているけど、評判はいいらしい。
屋号はあまり、関係ないのかしら?
パブからの収入もあって、かなりの余裕が出来ている。
少しばかりの贅沢が許されるくらいの生活が出来るようになったのだ。
それでもあたし達は決して、忘れない。
粗食に耐えて、働いたあの日々を……。
だからという訳でもないのだろうけど、ジェシーは未だに愛用する鎧が苦労した時代から、変わっていない。
手入れをして、大事に使っているのだ。
武器に関しては冒険者生活を続けている以上、己と仲間を守る生命線でもあるし、それなりにいい物を拾ったりもしているので問題はないのだけど。
問題はむしろ、あたしとお兄ちゃんにある。
トラディシオンの名声が轟き、知られるにつれて、厄介になる理由はひとえにあたし達が持っている剣に他ならない。
よりによって、国宝に等しい三振りの剣の二本がトラディシオンの手にあるのだから。
トラディシオンには「伝承や伝統を守っていく気概に溢れたいい名前なんだ。なぜ、それが分からない」とお兄ちゃんが妙な主張をしたのだ。
あたしもジェシーもそんなのはどうでもいいと思っていた。
結果、トラディシオンに決まった。
「名は存在を表すものだ。どうして、分からないんだ」と怒っていたけど、王子という身分を明かさないでカミュと名乗っていたのはどこのどなただったかしら?
そんなことを付きつけたら、「俺はまだ子供だよ。分からなくて、とうぜんじゃないか」と逆に切れることが分かっているので正直、面倒くさい。
名乗らなくても前世であなたのことを知っているからとは言えないし、バール家の娘であることを黙っていて、『ロゼ』と偽名を名乗っていたのはあたしも同じだ。
この三年であたしはオートクレールの手解きで剣術の腕を上げることに成功した。
同じようにお兄ちゃんとジェシーも見違えるほどに成長している。
二人の成長はあたしの特訓のお陰であると思うけど。
トラディシオンの名も知れ渡って来た。
パーティーとしてのランクは銀にまで上がっている。
ギルドでも名が通った存在になってきたと言えなくもない。
指名での依頼までくるようになったのだから、今でも信じられないくらいだ。
そうなってくるとどうしても厄介なことに巻き込まれる。
そんなことは前世で嫌というほど学んだはずなのになぜ、また、同じ過ちを繰り返しているんだろう。
己の迂闊さに頭が痛くなってくる。
「お兄ちゃんは何? 飲みすぎ?」
「違うよ。そういうロザリーこそ、飲みすぎかい?」
「違うわ。はぁ」
「はぁ」
二人して、カウンターテーブルに突っ伏して、溜息ばかりついているのには訳がある。
我関せずとばかりにジェシーはエール酒を呷っているし、ベラは黙々とグラス類を磨くのに余念がない。
まぁ、仕方ないとは思う。
誰だって、愚痴をつらつらとは聞きたくないだろう。
トラディシオンの名声が高まるにつれ、バール邸の維持費用と生活費でとんとんだった収支も今は昔。
余裕が出来たのもあって、かつてパブとして営業されていた古民家を購入した。
屋号は『蜂蜜とほら吹き亭』。
正直、ネーミングセンスはどうかしていると思う。
あたしは一切、関与していないし、お兄ちゃんも首を捻っていた。
考えたのはベラで経営の方もほぼ彼女任せだ。
冒険者として動いていない時はジェシーも店に出ているけど、評判はいいらしい。
屋号はあまり、関係ないのかしら?
パブからの収入もあって、かなりの余裕が出来ている。
少しばかりの贅沢が許されるくらいの生活が出来るようになったのだ。
それでもあたし達は決して、忘れない。
粗食に耐えて、働いたあの日々を……。
だからという訳でもないのだろうけど、ジェシーは未だに愛用する鎧が苦労した時代から、変わっていない。
手入れをして、大事に使っているのだ。
武器に関しては冒険者生活を続けている以上、己と仲間を守る生命線でもあるし、それなりにいい物を拾ったりもしているので問題はないのだけど。
問題はむしろ、あたしとお兄ちゃんにある。
トラディシオンの名声が轟き、知られるにつれて、厄介になる理由はひとえにあたし達が持っている剣に他ならない。
よりによって、国宝に等しい三振りの剣の二本がトラディシオンの手にあるのだから。
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