上 下
26 / 46

第24話 デュランダルは鈍器ではない

しおりを挟む
 指揮杖の代わりがオートクレール。
 オートクレールを振れば、操り人形マリオネットお兄ちゃんカミーユが動く。
 何と簡単なんでしょう。

 あたしが地上にいる意味はない。
 むしろ、いたら巻き添えを食って危ないので上空に逃げるのが一番なのだ。
 小夜鳴鳥ナイチンゲールに変わる必要もないので背中から、翼だけ出して高みの見物。
 これに限るわ。

「さぁ、カミュお兄ちゃん。やっちゃえー!」
「ロゼ!? ちょっ、待てよ」

 待てと言われて、待つ人はいないの。
 これは自然の摂理。
 そして、あたしがルールだ。

 待ったりはしない。
 お兄ちゃんにとって、それが幸いなのか、不幸なのか、分からない。
 だけど、彼は運動神経と身体能力が優れていらっしゃるのだ。
 あたしにとって、幸いであるのは間違いない!

 それにお兄ちゃんはいい武器をお持ちである。
 サン・フランには三振りの名剣が伝わってきた。
 王家が所蔵するジョワユーズとデュランダル。
 バール家が所蔵するオートクレール。

 ジョワユーズは王家の中でも王位を継ぐ者が代々、所有する王権の象徴的存在だ。
 見た目も片手持ちの細身の剣でレイピアに近い。
 戴冠式の際に新たな王が手にするので前世で見たことがあった。
 鞘だけではなく、柄までも豪華な意匠が施されたとにかく、派手なイメージが強い。
 伝説では一振りするだけで相手に三十の傷を与えるとされているけど、真偽のほどは定かではない。
 でも、あたしの持っているオートクレールのとんでもなさを考えるとあながち、誇張ではないのかもしれない。

 デュランダルも王家に伝わる剣だけど、こちらはもっと実用的で変わっている。
 剣自身が持ち主を選ぶのだ。
 オートクレールに似ているところがあるのだろう。
 この剣の柄には神聖な遺物が収められているので何と四属性の魔法剣を使えるという噂。
 あくまで噂なので本当はどうなのか、分からない。

 現在の持ち主を追い詰めたら、真価を発揮してくれることだろう。
 そう、お兄ちゃんをね!

「おっと危ない」
「うお!?」

 考え事をしていて、よく見ていなかったのでゴブリン・ウォーチーフがお兄ちゃんに肉薄していた。
 ウォーチーフが渾身の力で振りかぶった切っ先が、お兄ちゃんのきれいな髪を削いだ。
 うっかりしていて、少し避けるのが遅れたせいで変な避け方をしてしまったが致命傷は避けている。

 ちょっとハゲが出来てしまっただけだ。
 命があるのだから、問題はない。

 かなり、無理のある動きをさせたけど、さすが操り人形マリオネット
 何ともない。
 お兄ちゃんの身体能力が高くて、よかった。

 痛そうな顔をしているのはハゲが出来たせいだ。
 きっと、そう。

「こうして、こうなのよ。お兄ちゃん、気合を入れて」
「そんな無茶な……分かったよ。やればいいんだろ。僕は男だ!」

 よし、その意気があれば、いける気がする。
 ウォーチーフの得物は刀身が斧のような形状をした妙なデザインの剣だから、まともに打ち合うと押し切らてしまうだろう。

 だけど、デュランダルは伊達じゃない。
 刀身を折ろうと岩に叩きつけたところ、逆に岩を一刀両断した逸話があるほどに頑丈なのだ。

「必殺スパイラルタイフーン!」

 あたしが勝手に名付けた技名だ。
 まず、お兄ちゃんは地面を勢いよく蹴って、飛びあがる。
 そこから、クルクルと体を回転させながら、デュランダルを相手の頭上目掛けて、思い切り叩きつける。

 地面を蹴る時に変な音がした気がしないでもないけど、気のせい。
 お兄ちゃんがくるくる回っている時に白目になっていた気がするけど、それも気のせい。

 ウォーチーフもお兄ちゃんの尋常ではない様子に気が付いたのか、慌てて頭を守ろうと剣と盾を構える。
 だけど、無駄だった。
 剣と盾を何もなかったように切り裂いただけではない。
 ウォーチーフも頭から、お尻までを真っ二つに斬られて、絶命した。

 ちょっと勢い余ったのか、デュランダルは地面に深々と刺さって、お兄ちゃんの動きもようやく止まっている。
 お兄ちゃんはピクリとは動いているから、大丈夫だろう。
 多分、だけど。

 ジェシージュスタンがやれやれというジェスチャーをしているのが少々、腹立たしい。
 次の操り人形マリオネットは君に決めた! と言ったら、どういう顔をするのか、見ものである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女リリーは落ちるところまで堕ちた

下菊みこと
恋愛
いつもの短いの。 いつものヤンデレ。 書いた人の好きが詰まったやつ。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレ王太子と、それに振り回される優しい婚約者のお話

下菊みこと
恋愛
この世界の女神に悪役令嬢の役に選ばれたはずが、ヤンデレ王太子のせいで悪役令嬢になれなかった優しすぎる女の子のお話。あと女神様配役ミスってると思う。 転生者は乙女ゲームの世界に転生したと思ってるヒロインのみ。主人公の悪役令嬢は普通に現地主人公。 実は乙女ゲームの世界に似せて作られた別物の世界で、勘違いヒロインルシアをなんとか救おうとする主人公リュシーの奮闘を見て行ってください。 小説家になろう様でも投稿しています。

何度死んで何度生まれ変わっても

下菊みこと
恋愛
ちょっとだけ人を選ぶお話かもしれないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幼馴染に捕まるお話

下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレです。 小説家になろう様でも投稿しています。

恋心を埋めた

下菊みこと
恋愛
双方ともにヤンデレ。 ヒーローは紛うことなきヤンデレにつきご注意下さい。ヒロインは少しだけ病んじゃってる程度のヤンデレです。 巻き込まれた人が一番可哀想。 ヤンデレお好きな方はちらっと読んでいってくださると嬉しいです。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

ずっと温めてきた恋心が一瞬で砕け散った話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレのリハビリ。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...