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第21話 烏令嬢は烏を卒業したい

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「お待たせ! ここからはあたしがお相手するわ」

 そう言って、颯爽と降り立ったあたしにお兄ちゃんカミーユジェシージュスタンは何とも冷たい反応をしてくれる。
 無反応とは!

 死んだ魚のような目をしている。
 本当にあったのだと変なところに感心しているあたしだけど。

(お嬢ちゃん。あんた、やはりアレだな)

 いちいち癇に障るヤツ!
 オートクレールはあたしのことを子供扱いして、揶揄からかってくる。
 下手に反応するとかえって楽しませているように見える。
 厄介な剣である。

 何より、以心伝心で悟られているのだ。
 あたしがオートクレールでオートクレールがあたしでもある。
 歴代の持ち主もきっと、こうだったんだろうと思う。

 この剣を持つことで一心同体になる。
 ダーインスレイヴと呼ばれていた頃、所持した者を破滅させると言われていたらしい。
 人は圧倒的な力を得ると心が堕落していく生き物なのかもしれない。

 破滅した所持者は剣を得たから、破滅したのではなく破滅するべくして、破滅しただけなのではないだろうか?
 アロンダイトと呼ばれている頃は人々を傷つけるのではなく、人々を守っていたのだから。

 お父様がオートクレールを使って、命を失ったのは国を守ろうとしたからではないと思う。
 お父様はお母様のことを本当に愛していた。
 だから、お母様を守ろうと命を懸けて、竜と戦ったんだろう。
 オートクレールはその思いに応えただけだ。

(お嬢ちゃんさ。頭の中で高尚なことを考えながら、やっていることはえげつないな)

 あたしの前にはなます切りにされたざぁ~こっ♪ なゴブリンの死体が転がっている。
 オートクレールの切れ味の凄まじさたるや!
 鋼の盾であろうと一刀両断出来るのだ。
 普通の武器では傷つけることさえ、困難と言われているドラゴンの鱗でも貫けるだけのことはある。

「俺だって、いつかはあんな戦いを」
「僕もきっと」

 後ろで二人が何か、言っているようだ。
 向上心があるのはいいことだから、ツッコミを入れるのはやめておくとしよう。

「さて。それでは本番といきましょうか。イッツ・ショータイム♪」

 鉱山跡から、のっそりと現れたのはお歴々である。
 ゴブリン・ウォーチーフやゴブリン・シャーマンといった上位種にあたるゴブリンだった。
 お兄ちゃんとジェシーが鉱山跡から、逃げながら戦わざるを得なかった理由はこいつらのせいとみて、間違いない。

 ゴブリン・リーダーやキャプテンと呼ばれるランクのゴブリンだったら、ジェシーは勝てるだけの実力がある。
 さすがに複数が相手となるときついだろうが、お兄ちゃんもそこそこに役立つから足手まといにはならない。

 どうにか対処出来るはずなのにジェシーが傷だらけなのだ。
 恐らく、お兄ちゃんをかばいながら、戦ったのだろう。
 ジェシーは態度は悪いけど案外、優しいところがあるのだから。

「バート家は受けた恩は倍で返し、仇は百倍にして返すの。覚悟はいい?」
(お嬢ちゃん。久しぶりに大暴れか? いいねえ。派手にやろうぜ!)

 オートクレールを右手で構え、切っ先をリーダー格らしいウォーチーフに突き付けてから、はたと考えた。
 今のあたし、悪役みたいじゃない?

 着ているバトルドレスはツーピース構成でトップスは革のベルトがあしらわれていて、編み上げのビスチェなのは問題ないと思う。
 まだ、十二歳で成長途中だから、あちこちの風通しがいいのも仕方ない。
 返り血を浴びても目立たないようにと黒を基調にしたのが悪かった。
 オートクレールの刀身が黒くて、見た目が魔剣そのものなのがまずい。

(また、烏令嬢と呼ばれる日も近いな!)

 そんなの聞いてないんだけど。
 でも、ドレスを新調するような余裕はない。
 ここはさっさと終わらせて、目立たないのが一番だ。
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