19 / 46
第17話 サン・フランの白き旋風
しおりを挟む
(三人称視点)
アロイスは冒険者になりたかった訳ではない。
彼は元より、権力欲や出世欲を一切、持っていなかった。
既に全てを諦めていたり、悟っているということでもない。
単に幼少期から、自らが興味を持つ世界に没頭するのが好きな一風変わった王子。
そう認識されていた。
彼が興味を抱いたのは魔法だった。
身分を隠し、冒険者になったのもひとえに魔法に触れやすい環境であり、誰にも邪魔されないと考えたからに他ならない。
幸か、不幸か。
アロイスには人並外れた魔法の才能の持ち主だった。
「僕が一番、魔法をうまく扱えるんだ」
彼が自信を深めていき、自らの生きていく道であると知るに至るまでそれほどの時を要さなかった。
アロイスにとって、冒険は自分が好きな魔法を使う手段に過ぎない。
人を寄せ付けない態度をとったまま、それを崩さないのも人と関わるより、魔法に携わっていたいという思いの方が強かっただけのことだ。
アロイスが白で統一された冒険装束でフードを目深に被り、常に単独で結果を出す凄腕の魔法使いとして、その名を知られるようになったのは皮肉な運命とも言える。
冒険者として、次第に地盤を固めていくうちにアロイスが出会ったのが、フラヴィという名の同い年の少女だった。
旧来の知り合いのように距離を詰めてくる人懐こいフラヴィに単独行動を好むアロイスが次第に変わっていった。
変人の王子も絆されたのだろうと考える者が多かったが、あながち、間違いではない。
二人の間に恋や愛といった甘い感情があったかは定かではない。
だが、同志として確かな友情が育ぐまれていたのは確かである。
アロイスの実力があれば、宮廷魔術師としていずれ、名を成すものと思われたがそれを嫌った。
ただ、思うように好きなように魔法と触れ合いたいアロイスにとって、宮廷という柵に縛られるのは我慢ならなかったのだ。
もしも、彼が宮廷に残る道を選んでいたら、サン・フランの長い歴史の中に埋もれる不慮の死を遂げた王子の一人として、名を残していたに違いない。
しかし、アロイスは冒険者として、生きる自由を選び、勝ち取ったのである。
おざなりのように与えられた爵位は伯爵であり、領地は北の果てにある領民がほとんどいない辺境の地というのもおくがましい僻地だった。
それでもアロイスは特にそれを気にしていない。
冒険伯爵と陰で嘲笑えようと意にも介さない。
第三王子のカミーユはそんな兄らを見て、育った。
王太子のギャスパルと十歳、王女アルテアと七歳、アロイスとも五歳もの年齢差があったのだ。
兄姉の生き様が少なからぬ影響を与えたのは致し方ないことであると言えよう。
魔法の才に秀でていたものの平凡な容姿だったアロイスと比べるとカミーユは整った容貌の持ち主である。
ギャスパルとアルテアは絵本から飛び出た王子様・お姫様のように美しかったが、王族としての威厳と矜持を保った近寄りがたい雰囲気があった。
魔法にしか興味を抱かないだけでアロイスの方が余程、気さくで親しみやすいと幼心にカミーユが感じるのも無理はない。
カミーユの中でいつしか、アロイスが後を追うべきヒーロー像のようになったのも自然な流れだったと言える。
これはアロイスが名のある冒険者『白き旋風』として、知られていくようになるとその思いはさらに強くなった。
十二歳になった時、カミーユはついに決意した。
十二歳は王族や貴族がアカデミーに入学しなくてはいけない年齢である。
自らの進むべき道を決めるだけでなく、周知させるという意味合いが強い。
アロイスは十二歳でアカデミーに通わないという選択をしたのだ。
カミーユも同じことを考えた。
尊敬する兄と同じ道を歩むべきである、と……。
その方が大きい兄も喜んでくれるだろう、とも考えた。
だが、末の王子として甘やかされていたこともあり、カミーユが実際に冒険へと旅立つことが出来たのは十三の年を迎える頃だった。
こうして、カミーユは再び、ロザリーと出会ったのである。
アロイスは冒険者になりたかった訳ではない。
彼は元より、権力欲や出世欲を一切、持っていなかった。
既に全てを諦めていたり、悟っているということでもない。
単に幼少期から、自らが興味を持つ世界に没頭するのが好きな一風変わった王子。
そう認識されていた。
彼が興味を抱いたのは魔法だった。
身分を隠し、冒険者になったのもひとえに魔法に触れやすい環境であり、誰にも邪魔されないと考えたからに他ならない。
幸か、不幸か。
アロイスには人並外れた魔法の才能の持ち主だった。
「僕が一番、魔法をうまく扱えるんだ」
彼が自信を深めていき、自らの生きていく道であると知るに至るまでそれほどの時を要さなかった。
アロイスにとって、冒険は自分が好きな魔法を使う手段に過ぎない。
人を寄せ付けない態度をとったまま、それを崩さないのも人と関わるより、魔法に携わっていたいという思いの方が強かっただけのことだ。
アロイスが白で統一された冒険装束でフードを目深に被り、常に単独で結果を出す凄腕の魔法使いとして、その名を知られるようになったのは皮肉な運命とも言える。
冒険者として、次第に地盤を固めていくうちにアロイスが出会ったのが、フラヴィという名の同い年の少女だった。
旧来の知り合いのように距離を詰めてくる人懐こいフラヴィに単独行動を好むアロイスが次第に変わっていった。
変人の王子も絆されたのだろうと考える者が多かったが、あながち、間違いではない。
二人の間に恋や愛といった甘い感情があったかは定かではない。
だが、同志として確かな友情が育ぐまれていたのは確かである。
アロイスの実力があれば、宮廷魔術師としていずれ、名を成すものと思われたがそれを嫌った。
ただ、思うように好きなように魔法と触れ合いたいアロイスにとって、宮廷という柵に縛られるのは我慢ならなかったのだ。
もしも、彼が宮廷に残る道を選んでいたら、サン・フランの長い歴史の中に埋もれる不慮の死を遂げた王子の一人として、名を残していたに違いない。
しかし、アロイスは冒険者として、生きる自由を選び、勝ち取ったのである。
おざなりのように与えられた爵位は伯爵であり、領地は北の果てにある領民がほとんどいない辺境の地というのもおくがましい僻地だった。
それでもアロイスは特にそれを気にしていない。
冒険伯爵と陰で嘲笑えようと意にも介さない。
第三王子のカミーユはそんな兄らを見て、育った。
王太子のギャスパルと十歳、王女アルテアと七歳、アロイスとも五歳もの年齢差があったのだ。
兄姉の生き様が少なからぬ影響を与えたのは致し方ないことであると言えよう。
魔法の才に秀でていたものの平凡な容姿だったアロイスと比べるとカミーユは整った容貌の持ち主である。
ギャスパルとアルテアは絵本から飛び出た王子様・お姫様のように美しかったが、王族としての威厳と矜持を保った近寄りがたい雰囲気があった。
魔法にしか興味を抱かないだけでアロイスの方が余程、気さくで親しみやすいと幼心にカミーユが感じるのも無理はない。
カミーユの中でいつしか、アロイスが後を追うべきヒーロー像のようになったのも自然な流れだったと言える。
これはアロイスが名のある冒険者『白き旋風』として、知られていくようになるとその思いはさらに強くなった。
十二歳になった時、カミーユはついに決意した。
十二歳は王族や貴族がアカデミーに入学しなくてはいけない年齢である。
自らの進むべき道を決めるだけでなく、周知させるという意味合いが強い。
アロイスは十二歳でアカデミーに通わないという選択をしたのだ。
カミーユも同じことを考えた。
尊敬する兄と同じ道を歩むべきである、と……。
その方が大きい兄も喜んでくれるだろう、とも考えた。
だが、末の王子として甘やかされていたこともあり、カミーユが実際に冒険へと旅立つことが出来たのは十三の年を迎える頃だった。
こうして、カミーユは再び、ロザリーと出会ったのである。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
トリスタン
下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。
彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる