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第17話 サン・フランの白き旋風

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(三人称視点)

 アロイスは冒険者になりたかった訳ではない。

 彼は元より、権力欲や出世欲を一切、持っていなかった。
 既に全てを諦めていたり、悟っているということでもない。
 単に幼少期から、自らが興味を持つ世界に没頭するのが好きな一風変わった王子。
 そう認識されていた。

 彼が興味を抱いたのは魔法だった。
 身分を隠し、冒険者になったのもひとえに魔法に触れやすい環境であり、誰にも邪魔されないと考えたからに他ならない。
 幸か、不幸か。
 アロイスには人並外れた魔法の才能の持ち主だった。

「僕が一番、魔法をうまく扱えるんだ」

 彼が自信を深めていき、自らの生きていく道であると知るに至るまでそれほどの時を要さなかった。

 アロイスにとって、冒険は自分が好きな魔法を使う手段に過ぎない。
 人を寄せ付けない態度をとったまま、それを崩さないのも人と関わるより、魔法に携わっていたいという思いの方が強かっただけのことだ。

 アロイスが白で統一された冒険装束でフードを目深に被り、常に単独で結果を出す凄腕の魔法使いとして、その名を知られるようになったのは皮肉な運命とも言える。
 冒険者として、次第に地盤を固めていくうちにアロイスが出会ったのが、フラヴィという名の同い年の少女だった。

 旧来の知り合いのように距離を詰めてくる人懐こいフラヴィに単独行動を好むアロイスが次第に変わっていった。
 変人の王子も絆されたのだろうと考える者が多かったが、あながち、間違いではない。
 二人の間に恋や愛といった甘い感情があったかは定かではない。
 だが、同志として確かな友情が育ぐまれていたのは確かである。

 アロイスの実力があれば、宮廷魔術師としていずれ、名を成すものと思われたがそれを嫌った。
 ただ、思うように好きなように魔法と触れ合いたいアロイスにとって、宮廷というしがらみに縛られるのは我慢ならなかったのだ。
 もしも、彼が宮廷に残る道を選んでいたら、サン・フランの長い歴史の中に埋もれる不慮の死を遂げた王子の一人として、名を残していたに違いない。
 しかし、アロイスは冒険者として、生きる自由を選び、勝ち取ったのである。

 おざなりのように与えられた爵位は伯爵であり、領地は北の果てにある領民がほとんどいない辺境の地というのもおくがましい僻地だった。
 それでもアロイスは特にそれを気にしていない。
 冒険伯爵と陰で嘲笑えようと意にも介さない。



 第三王子のカミーユはそんな兄らを見て、育った。
 王太子のギャスパルと十歳、王女アルテアと七歳、アロイスとも五歳もの年齢差があったのだ。
 兄姉の生き様が少なからぬ影響を与えたのは致し方ないことであると言えよう。

 魔法の才に秀でていたものの平凡な容姿だったアロイスと比べるとカミーユは整った容貌の持ち主である。
 ギャスパルとアルテアは絵本から飛び出た王子様・お姫様のように美しかったが、王族としての威厳と矜持を保った近寄りがたい雰囲気があった。

 魔法にしか興味を抱かないだけでアロイスの方が余程、気さくで親しみやすいと幼心にカミーユが感じるのも無理はない。
 カミーユの中でいつしか、アロイスが後を追うべきヒーロー像のようになったのも自然な流れだったと言える。

 これはアロイスが名のある冒険者『白き旋風』として、知られていくようになるとその思いはさらに強くなった。

 十二歳になった時、カミーユはついに決意した。
 十二歳は王族や貴族がアカデミーに入学しなくてはいけない年齢である。
 自らの進むべき道を決めるだけでなく、周知させるという意味合いが強い。
 アロイスは十二歳でアカデミーに通わないという選択をしたのだ。

 カミーユも同じことを考えた。
 尊敬するアロイスと同じ道を歩むべきである、と……。
 その方が大きい兄ギャスパルも喜んでくれるだろう、とも考えた。

 だが、として甘やかされていたこともあり、カミーユが実際に冒険へと旅立つことが出来たのは十三の年を迎える頃だった。
 こうして、カミーユは再び、ロザリーと出会ったのである。
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