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第12話 烏令嬢と泣き虫殿下②
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お兄ちゃん――カミーユ第三王子殿下は前世ではやんちゃだけど、それなりにしっかりとしていて、腕の方も持ち合わせていた。
前世でのお兄ちゃんは十三歳でもいっぱしの動きをしていたはずだ。
ところがゴブリンの群れに怯えて、剣を振り回しているだけの今のお兄ちゃんは、同じ十三歳でも単なるド素人にしか見えない。
あれでは勝手に体力を消耗して、自滅するだけ。
疲れ切ったところで捕まって、「美味しくいただきました」されることだろう。
今までにゴブリンやオークの集落や巣窟をいくつも討伐してきているので、令嬢であれば、決して目にしないであろうこの世の闇のような部分を何度も目にしてきた。
女性であれば、苗床として生殖の為だけに利用されるという扱いを受ける。
男性であれば、どうなるかというと奴隷のように重労働をさせるだけ、させて潰してから、文字通り「美味しくいただく」のだと言う。
ただ、これが美しい男性だった場合、苗床でもないのにそういう目に遭うらしい。
酷い話もあったものだけど、お兄ちゃんは残念ながら、美しいの部類に入る。
捕まったら、さぞや酷い目に遭うことだろう。
あたしが偶然、通りかかったのはそうならないようにという運命だったのかもしれない。
「ジェシー。やるわ」
「了解です。俺はお嬢様の命に従うまでのこと」
ジェシーは不承不承といった態度でありながらもしっかりと働いてくれるのでましだ。
前世では丁寧に応対しながら、何もしてくれないどころか、足を引っ張られることが多かった。
それがジェシーの態度を敢えて、許している理由でもある。
ゴブリンは雄叫びをあげて、乱入したジェシーに恐慌状態に陥った。
ゴブリンではなくてもそうなるだろう。
金髪でおろしていれば、きれいなストレートヘアをわざわざ、ダックテイルの髪型にしているジェシーだ。
「なめられたら、終わりなんですよ」という言葉には誰と戦っているんだ? と問いたいところだけど、確かに威圧感だけなら、相当にある。
おまけに右手には刀身が弧を描いている曲剣シミター、左手には片手持ちのハンドアックスを構えているから、襲われた側の恐怖感たるや想像したくもない。
「ゴブリンは失せろ!」と叫びながら、肉塊に変えていく様子はとても貴族の護衛騎士には見えない。
不承不承な態度だったのに心の底から、楽しんでいるようで何よりだ。
「もう大丈夫ですよ」
今のうちにお兄ちゃんのことをどうにかしておこうか。
もはや目を閉じて、剣を振っているだけ。
見ようによっては「かわいいぃぃ」かもしれないけど、顔が色々な液体混じりなので傍に行きたくない。
「ぼ、ぼ、ぼくは美味しくありませんよ?」
「食べませんけど?」
あたしが人を食べるように見えるのだろうか。
挨拶代わりに一回、殴っておいた方がいいのだろうか。
(お嬢ちゃん。悪いことは言わないから、やめときな。前世は前世。今は今さ。今を楽しみな!)
はい、はい。
いくら、あたしでも本当に殴ったりはしませんからね?
生まれたての小鹿みたいに足をプルプルさせて、顔が液体塗れの弱そうなお兄ちゃんを殴っても仕方ないし……。
「た、助かったのか」
「ええ、そうですね」
そう笑顔でお兄ちゃんに答えていたところを空気も読まずに、ゴブリンが背後から襲い掛かってきた。
振り向きざまにオートクレールで黒き炎を叩きこむ。
今日も見事なまでに黒焦げに焼き上がった。
上手に焼けました! とは言い難い。
「ああ。あはっ! あはははっ! 大きな炎がパッでなったんだ。わっははは……ああ。大きいんだ。 わっはははは」
お兄ちゃん、もろに見てしまいましたか。
股の間が濡れているように見えるのはそういうことですよね?
見なかったことにしておこう……。
ここで間違っても「お兄ちゃん! お漏らしして、ざまぁ」なんて、言うのはよろしくない。
極力、関わらないで去るべき。
吹き出したくなるのを我慢したあたし、偉い。
前世でのお兄ちゃんは十三歳でもいっぱしの動きをしていたはずだ。
ところがゴブリンの群れに怯えて、剣を振り回しているだけの今のお兄ちゃんは、同じ十三歳でも単なるド素人にしか見えない。
あれでは勝手に体力を消耗して、自滅するだけ。
疲れ切ったところで捕まって、「美味しくいただきました」されることだろう。
今までにゴブリンやオークの集落や巣窟をいくつも討伐してきているので、令嬢であれば、決して目にしないであろうこの世の闇のような部分を何度も目にしてきた。
女性であれば、苗床として生殖の為だけに利用されるという扱いを受ける。
男性であれば、どうなるかというと奴隷のように重労働をさせるだけ、させて潰してから、文字通り「美味しくいただく」のだと言う。
ただ、これが美しい男性だった場合、苗床でもないのにそういう目に遭うらしい。
酷い話もあったものだけど、お兄ちゃんは残念ながら、美しいの部類に入る。
捕まったら、さぞや酷い目に遭うことだろう。
あたしが偶然、通りかかったのはそうならないようにという運命だったのかもしれない。
「ジェシー。やるわ」
「了解です。俺はお嬢様の命に従うまでのこと」
ジェシーは不承不承といった態度でありながらもしっかりと働いてくれるのでましだ。
前世では丁寧に応対しながら、何もしてくれないどころか、足を引っ張られることが多かった。
それがジェシーの態度を敢えて、許している理由でもある。
ゴブリンは雄叫びをあげて、乱入したジェシーに恐慌状態に陥った。
ゴブリンではなくてもそうなるだろう。
金髪でおろしていれば、きれいなストレートヘアをわざわざ、ダックテイルの髪型にしているジェシーだ。
「なめられたら、終わりなんですよ」という言葉には誰と戦っているんだ? と問いたいところだけど、確かに威圧感だけなら、相当にある。
おまけに右手には刀身が弧を描いている曲剣シミター、左手には片手持ちのハンドアックスを構えているから、襲われた側の恐怖感たるや想像したくもない。
「ゴブリンは失せろ!」と叫びながら、肉塊に変えていく様子はとても貴族の護衛騎士には見えない。
不承不承な態度だったのに心の底から、楽しんでいるようで何よりだ。
「もう大丈夫ですよ」
今のうちにお兄ちゃんのことをどうにかしておこうか。
もはや目を閉じて、剣を振っているだけ。
見ようによっては「かわいいぃぃ」かもしれないけど、顔が色々な液体混じりなので傍に行きたくない。
「ぼ、ぼ、ぼくは美味しくありませんよ?」
「食べませんけど?」
あたしが人を食べるように見えるのだろうか。
挨拶代わりに一回、殴っておいた方がいいのだろうか。
(お嬢ちゃん。悪いことは言わないから、やめときな。前世は前世。今は今さ。今を楽しみな!)
はい、はい。
いくら、あたしでも本当に殴ったりはしませんからね?
生まれたての小鹿みたいに足をプルプルさせて、顔が液体塗れの弱そうなお兄ちゃんを殴っても仕方ないし……。
「た、助かったのか」
「ええ、そうですね」
そう笑顔でお兄ちゃんに答えていたところを空気も読まずに、ゴブリンが背後から襲い掛かってきた。
振り向きざまにオートクレールで黒き炎を叩きこむ。
今日も見事なまでに黒焦げに焼き上がった。
上手に焼けました! とは言い難い。
「ああ。あはっ! あはははっ! 大きな炎がパッでなったんだ。わっははは……ああ。大きいんだ。 わっはははは」
お兄ちゃん、もろに見てしまいましたか。
股の間が濡れているように見えるのはそういうことですよね?
見なかったことにしておこう……。
ここで間違っても「お兄ちゃん! お漏らしして、ざまぁ」なんて、言うのはよろしくない。
極力、関わらないで去るべき。
吹き出したくなるのを我慢したあたし、偉い。
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