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第7話 烏令嬢になった理由
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「ど、どうしてですか?」
今のあたしは十歳の子供。
本当はそんなの知るかー! とぶちまけてしまいたい。
すんでのところを思い止まったのはひとえに前世の令嬢としての記憶のお陰だ。
少しばかり、どもってしまったのはせめてもの抵抗かもしれない。
「お嬢ちゃんの髪と瞳が黒く染まっていったのはな。『呪い』だよ」
青い空を見上げて、ふと遠い目をして語る自分かっこいい?
とか、思いながら語り始めているよ、この男。
剣のくせして、偉く色気づいているんですね! と内心、悪態をつきながらも『呪い』という単語に心がざわめく。
「呪い? あたしは嫌われていた!?」
「ああ。違うな。お嬢ちゃんではない。あのボンクラだよ」
「は?」
「王族というのは面倒な生き物なんだよ、お嬢ちゃん。ボンクラはそれらしく、おとなしく生きていれば、良かったんだがね。お嬢ちゃんが頑張りすぎたのもあるな」
そこで空を見るのを止めて、あたしを見つめてくる。
これは御自分に酔ってらっしゃいますね?
御先祖様は相当にアレな人だったとしか、思えない。
うちの家系に拗らせる面倒な者が多いのも頷ける。
あたしも例に漏れず、盛大に拗らせていた。
ようやく歩き始めた時に出会ったお兄ちゃん――カミーユ第三王子を好きなあまり、お父様にねだって、無理矢理に近い形で婚約者の地位に収まった。
そこからはお兄ちゃんしか、目に入らないそれは目も当てられない所業をなした。
お兄ちゃんに近付こうとする人間は男女を問わず、強制的に排除する。
令嬢らしく、お淑やかに?
御冗談を。
物理的に排除したのだ。
「お嬢ちゃんの排除は実に正しい選択だったよ? あいつらが『呪い』そのものだったからね。その結果、お嬢ちゃんはどうなった?」
「体が重くなってきて、いつも息苦しくて、辛かった」
「それで髪も瞳も黒く、なっていっただろう? あれはお嬢ちゃんが代わりに『呪い』を受けたせいさ。『呪い』やら『毒』やら、さながらデパート――花の都ルテティアで有名な歴史あるパ・シェル・ブーク百貨店のこと――だったね。俺様、永い時を生きてきたが初だよ、初。花丸をあげよう」
いや、いらないし。
この世の負のデパートと評価されてもちっとも嬉しくない。
衝撃の事実である。
あたしはお兄ちゃんのせいで烏令嬢になったということか。
その挙句に婚約破棄して、階段から落としたのね。
なんてクズ! なんて外道!
でも、好き!
「お嬢ちゃん。あんた、相当にここをやられているな」
「何ですって!?」
ツンツンと頭を指で小突いてくる目の前の無駄にきれいな男。
いいえ、我慢よ、我慢。
あたしにはこのオートクレールが必要。
オートクレールを使って、お家再興すると決めた。
一度、決めたらとことん突き進むのが我がバール家の家訓。
お父様もそう言っていた。
「悪くない。そういう考え、嫌いじゃないぜ。いいだろう。お嬢ちゃんに力を貸してやろう」
ニヤリという表現がピッタリな嫌な笑い方をしているのに無駄に美しい顔のせいで絵になってしまう。
この男、「美しすぎるのも罪だな」とポーズを付けて、自己陶酔しそうなのでリボンを付けて、どこかにお届けしたい気分だ。
だが、そうもいかない。
「ねぇ、オートクレール。一つ、気になるのだけど」
「うむ。俺様、今、気分がいい。何でも聞くといい」
あたしの気分はよろしくないのですけどね!
言質は取った。
気になることを聞いてみよう。
「お兄ちゃんは今、どうしているの?」
今のあたしは十歳の子供。
本当はそんなの知るかー! とぶちまけてしまいたい。
すんでのところを思い止まったのはひとえに前世の令嬢としての記憶のお陰だ。
少しばかり、どもってしまったのはせめてもの抵抗かもしれない。
「お嬢ちゃんの髪と瞳が黒く染まっていったのはな。『呪い』だよ」
青い空を見上げて、ふと遠い目をして語る自分かっこいい?
とか、思いながら語り始めているよ、この男。
剣のくせして、偉く色気づいているんですね! と内心、悪態をつきながらも『呪い』という単語に心がざわめく。
「呪い? あたしは嫌われていた!?」
「ああ。違うな。お嬢ちゃんではない。あのボンクラだよ」
「は?」
「王族というのは面倒な生き物なんだよ、お嬢ちゃん。ボンクラはそれらしく、おとなしく生きていれば、良かったんだがね。お嬢ちゃんが頑張りすぎたのもあるな」
そこで空を見るのを止めて、あたしを見つめてくる。
これは御自分に酔ってらっしゃいますね?
御先祖様は相当にアレな人だったとしか、思えない。
うちの家系に拗らせる面倒な者が多いのも頷ける。
あたしも例に漏れず、盛大に拗らせていた。
ようやく歩き始めた時に出会ったお兄ちゃん――カミーユ第三王子を好きなあまり、お父様にねだって、無理矢理に近い形で婚約者の地位に収まった。
そこからはお兄ちゃんしか、目に入らないそれは目も当てられない所業をなした。
お兄ちゃんに近付こうとする人間は男女を問わず、強制的に排除する。
令嬢らしく、お淑やかに?
御冗談を。
物理的に排除したのだ。
「お嬢ちゃんの排除は実に正しい選択だったよ? あいつらが『呪い』そのものだったからね。その結果、お嬢ちゃんはどうなった?」
「体が重くなってきて、いつも息苦しくて、辛かった」
「それで髪も瞳も黒く、なっていっただろう? あれはお嬢ちゃんが代わりに『呪い』を受けたせいさ。『呪い』やら『毒』やら、さながらデパート――花の都ルテティアで有名な歴史あるパ・シェル・ブーク百貨店のこと――だったね。俺様、永い時を生きてきたが初だよ、初。花丸をあげよう」
いや、いらないし。
この世の負のデパートと評価されてもちっとも嬉しくない。
衝撃の事実である。
あたしはお兄ちゃんのせいで烏令嬢になったということか。
その挙句に婚約破棄して、階段から落としたのね。
なんてクズ! なんて外道!
でも、好き!
「お嬢ちゃん。あんた、相当にここをやられているな」
「何ですって!?」
ツンツンと頭を指で小突いてくる目の前の無駄にきれいな男。
いいえ、我慢よ、我慢。
あたしにはこのオートクレールが必要。
オートクレールを使って、お家再興すると決めた。
一度、決めたらとことん突き進むのが我がバール家の家訓。
お父様もそう言っていた。
「悪くない。そういう考え、嫌いじゃないぜ。いいだろう。お嬢ちゃんに力を貸してやろう」
ニヤリという表現がピッタリな嫌な笑い方をしているのに無駄に美しい顔のせいで絵になってしまう。
この男、「美しすぎるのも罪だな」とポーズを付けて、自己陶酔しそうなのでリボンを付けて、どこかにお届けしたい気分だ。
だが、そうもいかない。
「ねぇ、オートクレール。一つ、気になるのだけど」
「うむ。俺様、今、気分がいい。何でも聞くといい」
あたしの気分はよろしくないのですけどね!
言質は取った。
気になることを聞いてみよう。
「お兄ちゃんは今、どうしているの?」
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