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第4話 俺だよ俺詐欺

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 ベラベランジェールジェシージュスタンが反対するのも無理はない。
 お父様の墓標代わりに立っている剣こそ、バール家に代々、伝わってきた家宝であり、お父様の命を奪った物なのだから。

 オートクレール。
 聖剣として、我が家に伝えられてきたドラゴンを屠る両手持ちの長剣だ。
 王家に伝わる聖剣デュランダルと並び、人類が手にした至高の武器なんて呼ばれていた。

「ねぇ。こんなに真っ黒だった?」
「おかしいですね」
「鞘にも入れずにそのまま、刺すなんて論外だ。論外」

 ジェシーが小声で早口でまくし立てているのは、彼が無類の刀剣マニアだからだろう。
 抜き身の剣を墓標代わりに突き立てていたら、マニアでなくてもおかしく思う。

 いや、そうじゃない。
 オートクレールは別名を水晶の剣。
 意匠の施された黄金作りの柄に半透明で向こう側が透けて見える美しい刀身が特徴だった。
 とても武器としては強そうに見えない美術品と思われていた家宝。

 それが本当にドラゴンスレイヤーなミラクルソードだと誰が思うだろう。
 奇しくもそれを証明したのがお父様だった。
 命と引き換えに……。

「さて、それじゃ、やりましょ」
「お嬢様! ダメですってば」

 ベルが制止するのを無視して、ジェシーが無言で捕まえようとする手をくぐり抜け、オートクレールの柄に手を掛けた。
 金細工の施された柄は十年も雨風に晒されたとは思えないほどにきれいだけど、刀身はまるで墨で塗りつぶしたように真っ黒だ。

「わっ!?」

 思わず、変な声が出てしまった。
 不可抗力。
 柄を握った瞬間、雷魔法で撃たれたような錯覚を……実際に撃たれたことはないけども!

 頭のてっぺんから、爪先まで何かが走るような奇妙な感覚とともに膨大な知識と記憶が、一気に流れ込んできた。
 うわ、気持ち悪い。

『酷い言われ様だ。誰がお嬢ちゃんを巻き戻したと思う? そうだよ。この俺様だよ』

 誰?
 低い男の人の声でどこかで聞いたような……。

『命の恩人を忘れちまったか。俺様だよ、俺様。そうだよ』

 だから、誰なの?

『オートクレールだよ』

 は? え? あ?

『アロンダイト。ダーインスレイヴと言った方がよかったか、お嬢ちゃん』

 「お嬢しゃまー! しっかり、してくださぁーい」と嗚咽するベルの声を子守歌代わりにして、あたしの意識はプツンと途切れた。
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