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第35話 エピローグ・勝ち取った平穏
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「ふぅふぅ。はい、もう大丈夫ですわ。お口を開けてくだひゃい。あ~ん」
言われるがまま、俺は大きく口を開けると食べやすいように冷まされた粥が自動的に運ばれてくる。
至れり尽くせりというやつだろう。
彼女は未だにこの状況に慣れないのか、頬を桜色に染めながらも看護をしてくれる。
「すみませんね、姫。こんな有様で」
「し、しょんなことありまひぇんからぁ」
姫の噛み癖が悪化していないか。
だが、あわあわと慌てふためく姿すら、愛らしくてどこまでもかわいい。
さすがは世界のヒロイン!
俺の中という限定だが……。
俺はどうにか、生きている。
どうにかというには十分過ぎるほどに元気だ。
元気なんだが、両手足は見事なまでに折れている。
内臓もかなりのダメージを負ったらしく、医者が匙を投げたらしい。
無事なのは頭と顔だけといってもいい状態だったのだ。
いや、頭と顔が無事なら、どうにでもなるんじゃないか? と思ってしまうくらいこの世界は不思議なことが多いんだがね。
あの時、俺は確かに死んだ。
そう思った。
これで全てが終わりだと思ったその時、温かい光とともに手を差し伸ばしてくれたのは女神様だった。
いや、女神様でもなければ、天使でもなかった。
姫だったのだ。
あの時、確かにベーオウルフを倒すことが出来た。
だが、引き換えに全身が傷だらけの酷い状態で死を待つのみだったのだ。
その覚悟で俺は必殺の一撃を放った。
もう心残りはないはずだったんだが……心残りがあったんだよな。
それが姫のことだったんだが……。
まさかなんだよなぁ。
その姫が規格外の癒しの力を持っているとはね。
姫はゲームでも確かにヒーラーとしての適性が高かった。
だから、癒しの力を持っていること自体はおかしくない。
しかし、三途の川を渡りかけた魂を連れ戻すほどの力はないはずだ。
不思議なこともあるものだ。
おまけに俺を助けようとあの氷の皇女様が姫を伴ってやって来たと聞いた。
余計に信じられないだろ?
俺だって、信じられない。
しかもあの皇女様が大賢者に頭を下げたそうだ。
本当に信じられないよなぁ。
それで見舞いに来てくれた時が傑作だった。
あの氷の姫君がだよ。
『わ、私は心配していた訳ではないのだぞ。お前に今、死なれては契約で損するからであって』とちょっぴり赤くなった顔で目がキョドって泳いでいるんだぜ?
ツンデレなのか、彼女は。
そうそう、面倒なことにあいつも見舞いに来た。
シモンが仇敵だったサロモンと連れ立って、やって来たんだから、びっくりだ。
確かに政略的な事情もあるのだろう。
それだけではなく、争う原因が取り除かれたのが一番、大きかったらしい。
どちらもあまり、根に持たないタイプの漢だったってことか。
それにしても見ているこっちが気持ち悪くなるくらいに仲が良くなっているな。
笑えるくらいに仲が良い。
おまけに『君のような稀代の英雄を我々は失うところだった! ああ、しかし、君はまことに英雄であった!』とか、言ってくるもんだから、何だかむず痒くなってくる。
どちらにせよ、あれほどいがみ合っていた二人が歩み寄ったのは大きいだろう。
元凶になっていたベーオウルフがいなくなっても反りが合わないだろうと睨んでいたんだが、これは嬉しい誤算と言うべきだ。
そのベーオウルフと行動を共にしていた面々も神妙な面構えで見舞いというか、別れを告げに来たのだ。
ユーリウスは自慢の長く美しい髪をばっさりと切って、思い詰めながらも妙にさっぱりとした表情で『義兄上を探すつもりです』と言っていた。
彼にとって、ベーオウルフは愛すべき、敬うべき男であるのは変わりがないのだろう。
フェリックは意外なことにユーリウスと行動を共にしないらしい。
『今の俺じゃ、兄者に合わせる顔がねえんだ』と苦虫を噛み潰したような顔をしていたが多分、大丈夫だろう。
毒に侵された腕を治してくれたアーデルハイト嬢と世界を見聞する旅に出ると言った時の顔はとても晴れやかなものだった。
しかし、その隣で女一人と男二人の旅で何もなければ、いいんだがね。
最後に訪ねてきたのは恐らく、俺と同じ、竜の血を引く少年――ヴァシリーだ。
彼は自らの過ちを認めたうえで俺に自分を鍛えて欲しい、弟子にして欲しいと訴えてきた。
その目は真剣そのもので真っ直ぐな気持ちが良く表れていたから、俺は首を縦に振るしか、なかった訳だが……。
「あれ、姫?」
セレナ姫の声が聞こえなくなったと思ったら、俺の胸に顔を預け、すーすーと安らかな寝息を立てている。
まだ、あどけなさが残るその寝顔を見ているだけで癒されてくるなぁ。
その頭を撫でたい! 髪を触りたい! むしろ、それ以上……いや、もうやめよう。
腕が折れているから、無理だからな。
こんな平和な日々がずっと続けばいいんだがなぁ……。
言われるがまま、俺は大きく口を開けると食べやすいように冷まされた粥が自動的に運ばれてくる。
至れり尽くせりというやつだろう。
彼女は未だにこの状況に慣れないのか、頬を桜色に染めながらも看護をしてくれる。
「すみませんね、姫。こんな有様で」
「し、しょんなことありまひぇんからぁ」
姫の噛み癖が悪化していないか。
だが、あわあわと慌てふためく姿すら、愛らしくてどこまでもかわいい。
さすがは世界のヒロイン!
俺の中という限定だが……。
俺はどうにか、生きている。
どうにかというには十分過ぎるほどに元気だ。
元気なんだが、両手足は見事なまでに折れている。
内臓もかなりのダメージを負ったらしく、医者が匙を投げたらしい。
無事なのは頭と顔だけといってもいい状態だったのだ。
いや、頭と顔が無事なら、どうにでもなるんじゃないか? と思ってしまうくらいこの世界は不思議なことが多いんだがね。
あの時、俺は確かに死んだ。
そう思った。
これで全てが終わりだと思ったその時、温かい光とともに手を差し伸ばしてくれたのは女神様だった。
いや、女神様でもなければ、天使でもなかった。
姫だったのだ。
あの時、確かにベーオウルフを倒すことが出来た。
だが、引き換えに全身が傷だらけの酷い状態で死を待つのみだったのだ。
その覚悟で俺は必殺の一撃を放った。
もう心残りはないはずだったんだが……心残りがあったんだよな。
それが姫のことだったんだが……。
まさかなんだよなぁ。
その姫が規格外の癒しの力を持っているとはね。
姫はゲームでも確かにヒーラーとしての適性が高かった。
だから、癒しの力を持っていること自体はおかしくない。
しかし、三途の川を渡りかけた魂を連れ戻すほどの力はないはずだ。
不思議なこともあるものだ。
おまけに俺を助けようとあの氷の皇女様が姫を伴ってやって来たと聞いた。
余計に信じられないだろ?
俺だって、信じられない。
しかもあの皇女様が大賢者に頭を下げたそうだ。
本当に信じられないよなぁ。
それで見舞いに来てくれた時が傑作だった。
あの氷の姫君がだよ。
『わ、私は心配していた訳ではないのだぞ。お前に今、死なれては契約で損するからであって』とちょっぴり赤くなった顔で目がキョドって泳いでいるんだぜ?
ツンデレなのか、彼女は。
そうそう、面倒なことにあいつも見舞いに来た。
シモンが仇敵だったサロモンと連れ立って、やって来たんだから、びっくりだ。
確かに政略的な事情もあるのだろう。
それだけではなく、争う原因が取り除かれたのが一番、大きかったらしい。
どちらもあまり、根に持たないタイプの漢だったってことか。
それにしても見ているこっちが気持ち悪くなるくらいに仲が良くなっているな。
笑えるくらいに仲が良い。
おまけに『君のような稀代の英雄を我々は失うところだった! ああ、しかし、君はまことに英雄であった!』とか、言ってくるもんだから、何だかむず痒くなってくる。
どちらにせよ、あれほどいがみ合っていた二人が歩み寄ったのは大きいだろう。
元凶になっていたベーオウルフがいなくなっても反りが合わないだろうと睨んでいたんだが、これは嬉しい誤算と言うべきだ。
そのベーオウルフと行動を共にしていた面々も神妙な面構えで見舞いというか、別れを告げに来たのだ。
ユーリウスは自慢の長く美しい髪をばっさりと切って、思い詰めながらも妙にさっぱりとした表情で『義兄上を探すつもりです』と言っていた。
彼にとって、ベーオウルフは愛すべき、敬うべき男であるのは変わりがないのだろう。
フェリックは意外なことにユーリウスと行動を共にしないらしい。
『今の俺じゃ、兄者に合わせる顔がねえんだ』と苦虫を噛み潰したような顔をしていたが多分、大丈夫だろう。
毒に侵された腕を治してくれたアーデルハイト嬢と世界を見聞する旅に出ると言った時の顔はとても晴れやかなものだった。
しかし、その隣で女一人と男二人の旅で何もなければ、いいんだがね。
最後に訪ねてきたのは恐らく、俺と同じ、竜の血を引く少年――ヴァシリーだ。
彼は自らの過ちを認めたうえで俺に自分を鍛えて欲しい、弟子にして欲しいと訴えてきた。
その目は真剣そのもので真っ直ぐな気持ちが良く表れていたから、俺は首を縦に振るしか、なかった訳だが……。
「あれ、姫?」
セレナ姫の声が聞こえなくなったと思ったら、俺の胸に顔を預け、すーすーと安らかな寝息を立てている。
まだ、あどけなさが残るその寝顔を見ているだけで癒されてくるなぁ。
その頭を撫でたい! 髪を触りたい! むしろ、それ以上……いや、もうやめよう。
腕が折れているから、無理だからな。
こんな平和な日々がずっと続けばいいんだがなぁ……。
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