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第28話 恐怖の咆哮

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「しかし、我が主マイ・ロード。あなたはもう少し、力の加減というものを学んだ方がよろしいのでは?」

 ヴェルの声には若干の呆れが混じっているように感じる。
 いや、分かってはいたんだよ?
 弓をちょっとの気分でミサイルだったのを忘れた訳じゃないんだ。
 だから、今回は加減したつもりなんだがなぁ。

「炎の魔法をちょっと、プラスしただけなんだが……」
我が主マイ・ロード…プラス。それ自体が問題だったのでは?」
「すまん。今度から、気を付けるよ」

 まあ、しかし、なんだ。
 大地はとんでもない状態になってしまったが、ベーオウルフとブロームを引き離すことには成功した。
 結果的には成功ということでいいだろう。
 引き離すというより、物理的に寸断してしまったが大事の前の小事。
 小っちゃいことは気にしたら、負けだ!

「地形を変えるのは小さなことではありませんよ、我が主マイ・ロード
「ヴェル、お前、心を読めるのかよ!?」
「まさか? そのような力は私にもありませんよ。我が主マイ・ロードが分かりやすいお方なだけです」

 なるほどね、俺は単純ってことか。

「さて。それじゃ、あそこに見えているいかつい男のところに寄せてくれないか」
「イエス、我が主マイ・ロード

 右翼の兵の中でも一際目立つ大男が分かりやすい目印になってくれるから、便利だな。
 あれがブロームで間違いない。
 いかつい! 髭面! 脳筋!
 どこかの何とか先輩に良く似ているから、同じ部類の人じゃないかと思うんだ。

「ブローム将軍!」

 急に空の上から、聞こえてきた声に兵がざわつくが、それが有名な真紅の飛竜と分かったらしく、歓声すら聞こえてくる。

「デルベルク卿か。こりゃ、一体何が起きたんだ?」
「あぁ、それ、俺の仕業でな。すまん。作戦上、仕方なかったんだが、少々、やりすぎたようだ」
「そ、そうか」
「ブローム将軍はこのまま、後陣に引いてくれないか」
「何だって? それは俺に戦わず、退けということか? それは出来ん!」
「いや、このままだとまずいんだよ。エリアス卿が危なくなる。詳しい説明をしている暇はない。本陣の側面で備えてくれまいか」
「そういうことなら、心得た!」

 ブロームが兵をまとめ、右翼を徐々に後退させるのを見届けるとようやく、遅れて竜騎兵ドラグーン隊が到着した。
 密集陣形を取り、寸断された向こう側からこちらを窺うユーリウス麾下の兵に陣を向ける。
 狙いは飛竜による咆哮の集中砲火だ。

我が主マイ・ロード、準備出来ました」
「よし。では遠慮なく、いこうか。恐怖の咆哮ハウリング・ブラスターをな」

 地表に向け、百匹の飛竜が一斉に放つ咆哮ハウリングによって、引き起こされるのはいわゆる恐慌状態だ。
 上位の竜種には効果が無いとされるが、それ以外の動物には絶大な効果を及ぼす。

 騎兵であった為、もろにその影響を受けたヘルボン勢は全く言うことを聞かない馬に手を焼き、中には落馬する者すら出ているようだ。
 ああなってしまえば、進軍することなど覚束ないだろう。

「これでひとまずは安心かな? しかし、おかしいな。ベーオウルフの姿がないようだが……嫌な予感がする。本陣へ向かおう」
我が主マイ・ロード、間に合うでしょうか?」
「間に合うかじゃない。間に合わせるんだ」
「イエス、我が主マイ・ロード

 俺とヴェルは陣を後退させているブロームを追い抜き、さらに加速させる。
 間に合ってくれと心の中で願いつつ。



 中軍に配置されたデルベルク軍では歩兵、弓兵、騎兵の指揮官が一堂に会し、対応に迫られていた。

「動きがあったのはお兄ちゃんが向かった右翼だけ。他は全く、何の動きも見られないようね」
「そうだね。こちらもあちらも本当は戦う気がないとはいえ、気持ち悪いくらいに静だよ」

 元々、ド・プロットの下で同僚の将軍だったこともあり、ユウカとエレミアは辺境伯の令嬢と仕える騎士というより、仲の良い友人のような関係に落ち着いている。

「伏兵がいると見て、間違いないのでは?」

 弓兵を率いるモニカの目が人並み外れて、いいことを知らない者はいない。
 鷹の目を持つとまで言われる彼女には他の者には見えていないものが見えているかもしれないのだ。

「伏兵……まずいですよ。早めに動かないと意味がなくなります」

 将として、初めての戦で気負っていたチェンヴァレンだが伊達にフレデリクの下に仕えていた訳ではない。
 陣の異常な動きに違和感を感じ、察していたのだ。

「本陣の後背を防衛すべく、動きましょう。よろしいでしょうか、皆さん」
「リーンの判断に間違いはないと思うわ」
「ではわたしの隊が先行します」
「あなただけでは不安。私の隊も一緒に動こう」

 重装の為にやや動きが鈍重である重歩兵隊を除く、騎兵と弓兵が先行し、シモンの本陣へと向けて、動き始める。
 その読みが遠からず、当たってしまうことになるのだが、彼らはそれをまだ、知らない。
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