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第20話 鬼神VS剛勇

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「さあ、見せてもらおうか。剛勇で知られたクシカの実力とやらをね」

 こういう戦場で先陣を切って、陣頭に立つ指揮官は珍しいだろう。
 指揮官は戦場を把握出来る場所から、全体を判断し、いち早く撤退しないといけない立場にあるからね。

 余程、腕に自信があるとか、カリスマ的な指揮官なら、陣頭に立つのもありだろうが……。

 クシカは剛勇の者と聞いているが、戦場での指揮官としての立場は弁えているようで後方にいるようだ。
 それは好都合だよ。
 俺が頭を狙いやすいってことさ。

 俺を乗せ、一気に加速するヴェルミリオンのスピードについて来れる飛竜はいない。
 飛竜で編成された竜騎兵ドラグーンの飛行スピードは騎兵とは比べ物にならないくらい速い。
 そのせいでドラゴンライダーになれる人間は少ない。
 その中でもヴェルミリオンは別格の存在なのだ。
 飛竜の女王と呼ばれるのは伊達じゃないってことだ。

 つまり、俺は単騎で突出してしまっている状態になっている訳だが、これもいつものことだからな。
 圧倒的なパワーとスピードで単騎突撃し、敵の動きを陽動した上で後から来る本隊により、掃討する。
 これがうちの軍の常勝戦術だ。

「ヴェル、一気に頭を取りに行く! 遠慮はいらん」
「イエス、我が主マイ・ロード! 雑魚どもよ、去ね」

 ヴェルミリオンの両翼は紅蓮の炎に包まれており、高速で低空を飛行している。
 その飛行速度により発生する衝撃波と翼から発せられた炎が混合した凶悪な破壊の熱波がクシカ軍後方に襲い掛かる訳だ。
 いや、見るのも嫌になるくらいの惨状だよ?
 火炎放射器を撒き散らす、ジェット機が来たって感じだからね。
 見ると焼肉を暫く、食べたくなくなるとだけ、言っておこうか。

「おお、いたいた。見つけたぞ。挨拶と行こう」

 それだけで察してくれるヴェルは本当にいいパートナーだ。
 飛行速度を落としてくれたヴェルから、地上に見えるクシカの本陣目掛けて、飛び降りた。
 ドカンという派手な着地音と凄まじい砂煙が上がって、小さなクレーターが出来てしまったが、どうということはない!

「いやー。クシカ先輩、お久しぶりです」

 善い子は真似をしちゃいけないぞ?
 いくら低空飛行でも普通の人間は死んでしまうからな。
 おっと、そんなことを言っている場合ではなかったか。

「リンブルク!? 貴様、何しにここに来た? おまけにあれは……さては裏切りか?」
「いやあ、お察しがいいようで助かりますよ、先輩。一つ、俺と戦ってもらえやしませんかね?」

 クシカは先日の戦でシュテルンくんに射殺されたクカリとは親友で行動をともにすることが多いド・プロット軍の重鎮と言っても過言ではない存在だ。

 クカリのやつは女は犯せ! 男は殺せ! を自分の隊にまで浸透させる外道だったのに加え、邪神を崇拝する邪教徒だった。
 だから、躊躇いなく殺せたんだが、こいつはどうだろうね?

 ド・プロットのところに属しているのは俺と同じ日本人だったエレミア以外、基本的に外道なところは一緒なんであまり、同情する気にならないんだよね。
 確か、裏設定では恐妻家なんだったか?
 割合、しっかりしたきれいな奥さんなんだが、やたらと嫉妬深くて、クシカの側に少しでも女の影がちらつくと般若になってしまう。
 そんな裏設定だったかな。
 だからって、生かしておく意味あるかね?

「リンブルク! 貴様、ド・プロットさまのお気に入りだからといって、調子に乗るなよ? この俺の大刀の錆にしてくれるわ!」
「お手柔らかにお願いしますよ、先輩」

 俺は得物のブリュントロルを右手一本で構えると両手で大刀を構えているクシカと正面切って向き合った。
 ブリュントロルは形状は斧槍と称せられるハルバードに分類される物だが、厳密にはハルバードじゃない。
 というのも普通のハルバードは片刃。
 ブリュントロルは直槍の穂先に両刃の斧が付いた特殊な仕様になっている。
 刃に古代文字で『鎧を破るもの』という銘が刻まれているだけあって、折り紙付きの性能だ。

「うおおおおおお!」

 クシカが渾身の力を込めて、大刀を振るってくるが俺は片手一本で軽く、受け止める。
 青筋を立て、血管が切れるんじゃないかって、凄まじい形相で全体重を乗せてくるが俺は何とも感じない。
 片手で余裕というより、指先だけで止められるんじゃないかという気さえ、してくる。
 フレデリクの武力は本当、おかしいな。

「先輩、本気でそれですか?」

 剛勇というから、どれくらいの者か、少しくらいは期待していたんだがな。
 いやあ、残念だ。
 一割くらいしか、力を出していないのにこれだから、生あくびが出そうな怠さだよ。
 ほんのちょっとだけ、力を入れ、受け止めていた刃を弾き返してやると三メートルくらい吹っ飛んでしまったようだ。
 危ないな。
 力加減が実に難しい。

「き、貴様ぁ、本気ではないな」
「ええ、本気が見たいんですか? やめた方がいいと思いますよ。少しだけ、見せましょうか?」

 俺は右翼に展開しているド・プロットの騎兵五万に向け、両手で構えたハルバードを最上段から、振り下ろした。
 だいたい、四割くらいの力だ。
 五割も出したら、危ないかもしれない。

 そう思っていた俺がどうやら、甘かったようだ。
 振り下ろされた刃先から、放たれた剣圧は大地を凄まじい勢いで抉っていき、地割れが発生した。
 それだけなら、まだ、良かった。
 巻き込まれた騎兵のうち、三割くらいがミンチより酷い状態の肉塊と化していた。
 その先にあった森と丘も少々、酷い景観になってしまったようだが俺は知らない、見ていない。

「あばばばばば」
「今のでまあ、四割ってところですよ。それに俺はあと変身を三回残し……おーい、先輩?」

 変身とか、嘘なんだが。
 あれだけ強気だったクシカが口から泡を吹いて、卒倒してしまった。
 何だ、意外と歯応えがないやつだなぁ。
 剛勇だから、もう少し骨のある男だと思っていたんだが、残念だ。
 やっぱり、主人公さまクラスでないとまともにやり合えないということか?

「おや、片付いたようだね」

 涼やかな聞き覚えのある声に振り向くと白馬に跨った貴公子の姿がそこにあった。
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