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第19話 見せてもらおうか、剛勇の力とやらを

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 『北西の辺境伯モドレドゥス・ド・バルザック南下す』

 帝位を狙って、十万と号する軍を率いてくるとの報に宮中会議が揺れに揺れた。
 しかし、キアフレード先生の献策により、予め筋書きを書いていた俺たちに死角はない。

 迎え撃つべく、編成された討伐軍の指揮官はクシカに決まった。
 これも予め、そう決めていた。
 むしろ、やつでなくては困るんだよな。
 躊躇いも無く殺せる外道でないと困るんだよ。
 俺に迷いが生じるからね。

 俺は何をするのかというと後詰として、出陣することに決まった。
 実はこれも最初から、そう決めていたのだ。
 先生と討論しながら、熟慮した上で後詰が最適なんだ。
 何に最適かは現地でのお楽しみだが……。

 勿論、俺は討伐軍への従軍を強く希望した。
 これも織り込み済みだ。
 ド・プロットに忠誠を誓っている忠実な養子と思ってもらわないと困るからね。
 その方がこちらの作戦の成功率が上がるのだ。
 せいぜい、バレない程度に頑張らせてもらうとしようか。

「勝利の栄光を必ずや、宰相閣下に捧げましょう」
「ぐわっははは、我が養子むすこは実に頼もしい男よな」

 出陣式で見送りに来たダニエリック・ド・プロットを見て、『あぁ、こいつ、殺したいな』としか、思えん。
 俺が人にこんなにも殺意を抱くとは思ってもみなかった。
 脂ぎって、醜悪極まりない顔と身体を見ているとそう思えてくる。
 あの汚らしい手がセレナ姫を穢したんだ。
 許せるか?
 いいや、許せないね。
 許してはいけない。
 だが、俺が手を下す訳にはいかないんだよなぁ。
 非常に残念だが、やつに引導を渡す大任を預かった者に頑張ってもらおう。



 かくして、ド・バルザック討伐いう名目で編成された総勢十五万の大軍勢が編成された。
 ド・プロットの中核を成す軍団が都ヴェステンエッケを発つ。

 俺は出陣に際し、極力目立つ行動を避けていた。
 この討伐軍が都を離れている間に起こることを考えたら、そうせざるを得ない。
 養父おやじ殿から、借り受けた五千の手勢は当初の予定通り、騎兵が四千に弓兵が千という構成だが、細かい意味で言うと実情は異なる。

 騎兵四千のうち、俺を含めた百騎は騎兵は騎兵でも竜騎兵だ。
 いわゆるドラゴンライダー。
 ドラゴンライダーは一騎でも百の歩兵に勝るとされる強力な兵種だ。
 飛竜ワイバーンに騎乗し、上空の視界外から一方的に敵を嬲れるのだから、その有用性はお判りいただけると思う。

 ドラゴンライダーで構成された竜騎兵は俺が直接、指揮を執る。
 まあ、俺が執る以外、ないんだけどね。
 騎兵隊はジェラルド、弓兵はシュテルンくんに任せた。
 あの二人に任せておけば、俺が指揮するよりも効果的に運用してくれるはずだ。
 ジェラルドはともかくとして、シュテルンくんの有能な指揮ぶりは存分と観察させてもらったからね。

 行軍から一週間が経過した頃、開けた平原に展開しているド・バルザックの軍が斥候兵により視認された。
 さすがはモドレドゥス皇子だ。
 密約通りの場所に軍を展開し、餌が食いつくのを待っていてくれる。
 やはり、信頼出来る友人と判断していい男だ。

 敵対していた貴族を一族郎党皆殺しにしただとか、砦を落としたら、守備兵全員虐殺しただとか、噂話に尾鰭が付きすぎているのは俺と同じだろう。
 実際にその目で皇子を確認したヴェルから、聞いた話では噂とは全く、印象が異なる飄々とした優男だったそうだが……。

 クシカは兵力で勝っているから、左右中央それぞれに五万の兵を配する鶴翼の陣で包囲する気満々のようだ。
 果たして、うまくいくものかね?
 まっ、うまくいかれても困るんだよ。
 なぜって?
 目の前の虎が敵だと思って、クシカ虎が噛みつこうとしたところ、後ろにいた味方のはずの狼がお尻に食いつくんだからな。

「ヴェル、俺たちも行くとしようか」
「イエス、我が主マイ・ロード

 俺の相棒である真紅の飛竜ヴェルミリオンを先頭に飛竜で構成された竜騎兵ドラグーン部隊が大空へと羽ばたいていく。
 眼下に見えるジェラルドの率いる黒一色で統一された鉄騎兵も動き始めたようだ。
 シュテルンくんの弓兵隊も隠密状態を保ちながら、所定の位置に動いているだろう。

「さあ、見せてもらおうか。剛勇で知られたクシカの実力とやらをね」
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