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第16話 二虎競食の計

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「この男も話にならない。私は飾り物ではない」

 夜の帳が下り、辺りを闇が支配しているというのにまるでその女性が輝いているかのようにその周囲だけが明るく見える。
 黄金色に輝く、美しい髪に闇の中ですら光り輝いて見えるエメラルドのようにくっきりとした緑の光を宿す瞳。
 神が与えた造形美。
 究極の美と言うべき美貌を有する女性の耳は普通の人間のそれと異なっていた。
 非常に目立つほど、長く尖っている耳をしているのだ。

「ならば、あの者はどうであろう。遠い先祖は私と同じであるのだし、何より男ではない。そうしよう」

 一陣の風が吹き、女性の姿は風と共に消えた。
 『イングリット様! もう、おられないか。ああ、天は我が主を見放したか』と男は天を見て嘆息するばかりだった。



 キアフレード先生に無事、弟子入りを果たした俺は先生を伴って、オルロープ卿のお屋敷にお邪魔している。
 姫を目当てだと思ったかい? 心外だなぁ。
 これでも一応、真面目に考えているんだ。
 どうやって、この都を出るかをね。

「さすがは閣下ですな。あのキアフレードを本当に連れてくるとは思いませなんだ」
「たわけがっ! 馬鹿弟子が粗相をしないようについてきてやった、だけだ。勘違いをするな」

 いやあ、おっさんのツンデレは面倒ですよ?
 先生の場合、見た目は少年、中身はおっさんだから、余計に面倒だよ。

「卿、ド・バルザックですが南下の意志があるか、少々怪しいようでして。面目ございません」

 この話、実は嘘だ。
 ド・バルザックが十万と号する軍を率いて、南下するという話自体がフェイクだったのさ。
 虐殺の申し子なんて呼ばれているモドレドゥス・ド・バルザック。
 だけど、あいつは実際はそんなに悪いやつではない。

 いいやつという訳でもないが意味もなく、人を殺したりするような輩でないことは確かだ。
 だから、予め、ヴェルに親書を託して、謀ってもらったのだ。
 進軍する振りだけをしてくれるようにってね。

「ふむ、やはり、そうでしょうな。あの御仁はそういう方ではないと私も知っておりますぞ」
「卿、しかし、これは好機です。南下の意志がなくともド・バルザックの軍が脅威になると植え付ければ、我らにとってはこれとない好機が訪れるはずです」
「馬鹿弟子の言う通りだな。東の諸侯連合は元々、いがみ合っている連中だ。間に合わせの烏合の衆ではもはや、脅威ではあるまい。そこに北で無傷の軍を持つド・バルザックが帝がいる都を急襲する。このような噂を流せばどうなる?」
「ふむ、討伐軍を差し向けざるを得ませんな。は!? もしや……?」

 先生は椅子の上にふんぞり返ってドヤ顔をされているようだ。
 おっさんで拗らせたツンデレは本当、面倒だな。

「帝はこの国難の危機に際し、優れた者に帝位を譲りたい、こんな筋書きはどうだ?あんたら百官がこぞって、宰相閣下に願い奉れば、受けてくださるだろうよ」
「そうして、太りかえった豚を冥府にご案内ですか。先生もお人が悪い」
「虎に虎をぶつけるんだ。そっちに目が行ってる間に片付けるくらい、どうということあるまいよ? これぞ名付けて、二虎競食の計である!」

 ドヤァな顔も三度までかは分からないが、先生のこの面倒な癖がなければ、ストレスも溜まらんのだが……。

「分かり申した。陛下は私が命に替えても説得致そう」
「馬鹿弟子よ、お前は何か、やりたいことがあるんだろう? 俺はこいつと積もる話もあるから、行ってこいや」
「は、はあ。ありがとうございます、先生」

 何だ?
 先生に気を遣ってもらっているようで何だか、気が引けるがオルロープ卿もにこやかな笑顔で送り出してくれたし、姫に会っていいと判断していいのか?
 悩みながら、廊下を歩いているとオルロープ邸で何か、あってはいけないとのチェンヴァレンくんに捕まった。

「閣下ー! ここは暇すぎて、死にそうです!」

 お前はワーカーホリックか!
 働かなくていいなら、喜べ! 少年よ、もっと遊んでいいんだぞ?

「チェンヴァレンくんのその様子だと平和なようだね」
「何もありませんでした。早く、閣下の側でお仕事をしたいです」

 こ、こいつ、本当に仕事がしたくて仕方がないのか。
 重症だな。
 ユウカと年齢がそんなに違わないのにある意味、可哀想なやつだ。

「もう少しだけ、ここを頼まれてくれないか。これは大事な任務だぞ、チェンヴァレンくん」
「はっ! 任務でありますね! 分かりました! 命に替えて、頑張るますです」

 本当に大丈夫か、君?
 語尾が怪しかったぞ。
 重症じゃないのか。
 それとも姫のが伝染うつったのか!?

「それでセレスティーヌ姫はどちらに?」
「姫様は中庭にいらっしゃいます」
「そうか。じゃあ、御対面といきますか」

 直接、名乗ってから会うのは初めてだからなぁ。
 あの時、俺は姫が誰かと知っていたが、彼女は俺が誰なのかを知らなかったはずだ。
 悪名高きフレデリクと知って、怯えてなければいいんだがね。
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