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第7話 フレデリクの決断
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実際はあのまま、本陣を襲えば、諸侯を何人か討ち取れただろう。
何人ではなく、下手を打たない限りは全員、あの世に送ることも可能だったと思う。
だが、それは俺の本意じゃない。
そんなことしたら、歴史どころか、物語が大幅に変わってしまうだろう。
それにだ。
諸侯を討ち取る=ド・プロット軍大勝利の図式になる。
それは非常にまずい。
だから、俺は勝ち戦であるのに敢えて、負け戦の体で撤退した。
「さて、皆。集まってくれてすまない」
砦の中庭に臨時で張った天幕を与えられた俺達は、そこで作戦会議という名の生存追及委員会を開いている。
メンバーは委員長である俺ことフレデリク。
ここで死ぬ可能性があったユウカ。
それに俺の近侍チェンヴァレンくん。
目を閉じているのかというくらい、目が細くて、いかつい顔した男。
燃える炎のような紅い髪に金色の瞳が燦然と輝く、美しい女。
以上の五名でお届けする楽しい委員会だ。
男はフレデリクの竹馬の友であり、沈黙の陣落としなんて、中々に洒落た二つ名で讃えられるジェラルド・コルベットだ。
フレデリクに冷遇されながらも最後まで従い、申し開きを一切せずに殉じた悲劇の英雄だ。
この話には裏があって、フレデリクが死んだ後に明らかになる。
義妹を失い、愛する姫を失ったフレデリクはこれ以上、自分が愛する者を失うことを恐れたんだろう。
幼馴染で常に行動を共にしていたジェラルドを急に遠ざけるようにして、自分から離れるように仕向けたのだ。
ところがジェラルドという男はフレデリクの真意を知りつつも殉じる男だった。
そして、離れることなく命を失うことになった。
だから、俺はジェラルドも絶対に守ってみせると決めた。
こんないい男を絶対に死なせてはならない。
美女の方は実は人ですらない。
その証拠に側頭部からは捩れた角が二本生えているし、お尻からは隠せない真紅の鱗に覆われた長い尾が出ている。
彼女の正体は真紅の飛竜ヴェルミリオンが人化した姿だ。
彼女とフレデリクがどう出会い、いかなる付き合いをしてきたかは俺の記憶がフレデリクの記憶と融合するにつれ、はっきりと分かってきた。
ヴェルミリオンを欲したが為に養父である辺境伯を斬った?
どこから、そんな話が出てきたんだというくらいに古い付き合いだった。
つまり、元から俺とヴェルミリオンの間には絆があったってことだ。
どうやら、悪意によって歪められた事実が多いようだな。
「この砦は今日中に落ちるだろう。ジェラルド、ヴェル。ユウカを連れて例の場所へ向かってくれないか」
「お兄ちゃんはどうするの?」
ユウカは戦装束ではない。
農村のどこにでもいる農家の娘を偽装すべく、地味なデザインの白いブラウスに深緑色のロングスカートを履いている。
そんな姿になっていても可愛いと思うのは身内びいきなんだろうか?
上目遣いで見つめてくるユウカの瞳に浮かぶのは俺の身を案じる不安の色だ。
「俺は虎の子の弓兵を率いて、ある人にアピールしようと思っているんだ」
「ある人って?」
「俺が引いたのを見て、ここが攻め時と兵を動かす人さ」
「あっ……大丈夫なの?」
俺がまず、生き延びる為に考えたのが『主人公と仲が良くなれば、死なないんじゃね?』作戦だった。
そもそも主人公と敵対関係だから、死ぬのだ。
つまり、敵対をしなければ、大丈夫だ!
まず、誰でも考える作戦だろう。
結果として、この作戦は失敗だった。
いや、無理と言うべきだろう。
あの主人公は駄目だ!
俺の策でどういう反応に出るか、様子を見たんだが、弟を心配するどころか、怯えているだけだった。
あれは人を助けることが出来る人間の目じゃない。
さて、そうすると誰に身を寄せるのが一番、得策かってことだ。
近付くだけでも危険なんだがあの人しか、いないんだよなぁ。
「その為の虎の子弓兵だからな。ユウカのこと頼んだぞ」
「…………」
ジェラルドはコクリと深く頷くだけで言葉を発しない。
そういえば、こいつはこういうやつだったよ。
じゃないと沈黙なんて、通り名は付かないか。
「我が主、本当に我が共に行かなくとも平気か?」
吊り目気味で剣呑な印象を与えがちなきつい顔立ちのヴェルだが俺に向ける視線には優しさと慈愛が溢れている。
「大丈夫だ、問題ないさ」
それから、半時も経たないうちにジェラルドによって、率いられた手勢一万あまりが北へ向けて、落ち延びて行った。
あの戦いで俺が率いた五百騎はすっかり俺の信者になったらしく、『どこまでもお供します!』と圧が強かった。
『それなら、信頼出来る者とともに参るがいい』と提案したところ、一万の手勢に増えたのだ。
これはもう俺直属の兵ってことでいいよな。
その兵士達を信頼出来るジェラルドに預け、落ち延びさせたという訳だ。
さて、俺にはまだ、やらなくてはいけないことが残っている。
「チェンヴァレンくん。君も一緒に行ってよかったのだが?」
「閣下! 閣下は僕がいないと駄目じゃないですか」
は? いや、君は何か、役に立ったかね?
しかも何か、かわいくないか?
流行りの小動物系か?
そういうキャラだったかな。
フレデリク麾下のチェンヴァレンくんの印象が薄くて、いまいち記憶にないんだよな。
さっきの戦いでもちぐはぐな見た目の黒い甲冑だぞ。
結果的には役に立ったが……あれは適当に集めただけだろ。
バレているからな。
武器も鉄製の粗悪品なもんだから、あっさりと壊れたしな。
いや、それで撤退する理由付けが出来たから、いいんだけどさ。
それとこれは話が違うってもんだ。
「よかろう、その覚悟があるのなら、共に行こう」
「はい、閣下!」
俺はチェンヴァレンくんとエルフのみで構成された弓兵千名を率い、砦からひっそりと姿を消すのだった。
何人ではなく、下手を打たない限りは全員、あの世に送ることも可能だったと思う。
だが、それは俺の本意じゃない。
そんなことしたら、歴史どころか、物語が大幅に変わってしまうだろう。
それにだ。
諸侯を討ち取る=ド・プロット軍大勝利の図式になる。
それは非常にまずい。
だから、俺は勝ち戦であるのに敢えて、負け戦の体で撤退した。
「さて、皆。集まってくれてすまない」
砦の中庭に臨時で張った天幕を与えられた俺達は、そこで作戦会議という名の生存追及委員会を開いている。
メンバーは委員長である俺ことフレデリク。
ここで死ぬ可能性があったユウカ。
それに俺の近侍チェンヴァレンくん。
目を閉じているのかというくらい、目が細くて、いかつい顔した男。
燃える炎のような紅い髪に金色の瞳が燦然と輝く、美しい女。
以上の五名でお届けする楽しい委員会だ。
男はフレデリクの竹馬の友であり、沈黙の陣落としなんて、中々に洒落た二つ名で讃えられるジェラルド・コルベットだ。
フレデリクに冷遇されながらも最後まで従い、申し開きを一切せずに殉じた悲劇の英雄だ。
この話には裏があって、フレデリクが死んだ後に明らかになる。
義妹を失い、愛する姫を失ったフレデリクはこれ以上、自分が愛する者を失うことを恐れたんだろう。
幼馴染で常に行動を共にしていたジェラルドを急に遠ざけるようにして、自分から離れるように仕向けたのだ。
ところがジェラルドという男はフレデリクの真意を知りつつも殉じる男だった。
そして、離れることなく命を失うことになった。
だから、俺はジェラルドも絶対に守ってみせると決めた。
こんないい男を絶対に死なせてはならない。
美女の方は実は人ですらない。
その証拠に側頭部からは捩れた角が二本生えているし、お尻からは隠せない真紅の鱗に覆われた長い尾が出ている。
彼女の正体は真紅の飛竜ヴェルミリオンが人化した姿だ。
彼女とフレデリクがどう出会い、いかなる付き合いをしてきたかは俺の記憶がフレデリクの記憶と融合するにつれ、はっきりと分かってきた。
ヴェルミリオンを欲したが為に養父である辺境伯を斬った?
どこから、そんな話が出てきたんだというくらいに古い付き合いだった。
つまり、元から俺とヴェルミリオンの間には絆があったってことだ。
どうやら、悪意によって歪められた事実が多いようだな。
「この砦は今日中に落ちるだろう。ジェラルド、ヴェル。ユウカを連れて例の場所へ向かってくれないか」
「お兄ちゃんはどうするの?」
ユウカは戦装束ではない。
農村のどこにでもいる農家の娘を偽装すべく、地味なデザインの白いブラウスに深緑色のロングスカートを履いている。
そんな姿になっていても可愛いと思うのは身内びいきなんだろうか?
上目遣いで見つめてくるユウカの瞳に浮かぶのは俺の身を案じる不安の色だ。
「俺は虎の子の弓兵を率いて、ある人にアピールしようと思っているんだ」
「ある人って?」
「俺が引いたのを見て、ここが攻め時と兵を動かす人さ」
「あっ……大丈夫なの?」
俺がまず、生き延びる為に考えたのが『主人公と仲が良くなれば、死なないんじゃね?』作戦だった。
そもそも主人公と敵対関係だから、死ぬのだ。
つまり、敵対をしなければ、大丈夫だ!
まず、誰でも考える作戦だろう。
結果として、この作戦は失敗だった。
いや、無理と言うべきだろう。
あの主人公は駄目だ!
俺の策でどういう反応に出るか、様子を見たんだが、弟を心配するどころか、怯えているだけだった。
あれは人を助けることが出来る人間の目じゃない。
さて、そうすると誰に身を寄せるのが一番、得策かってことだ。
近付くだけでも危険なんだがあの人しか、いないんだよなぁ。
「その為の虎の子弓兵だからな。ユウカのこと頼んだぞ」
「…………」
ジェラルドはコクリと深く頷くだけで言葉を発しない。
そういえば、こいつはこういうやつだったよ。
じゃないと沈黙なんて、通り名は付かないか。
「我が主、本当に我が共に行かなくとも平気か?」
吊り目気味で剣呑な印象を与えがちなきつい顔立ちのヴェルだが俺に向ける視線には優しさと慈愛が溢れている。
「大丈夫だ、問題ないさ」
それから、半時も経たないうちにジェラルドによって、率いられた手勢一万あまりが北へ向けて、落ち延びて行った。
あの戦いで俺が率いた五百騎はすっかり俺の信者になったらしく、『どこまでもお供します!』と圧が強かった。
『それなら、信頼出来る者とともに参るがいい』と提案したところ、一万の手勢に増えたのだ。
これはもう俺直属の兵ってことでいいよな。
その兵士達を信頼出来るジェラルドに預け、落ち延びさせたという訳だ。
さて、俺にはまだ、やらなくてはいけないことが残っている。
「チェンヴァレンくん。君も一緒に行ってよかったのだが?」
「閣下! 閣下は僕がいないと駄目じゃないですか」
は? いや、君は何か、役に立ったかね?
しかも何か、かわいくないか?
流行りの小動物系か?
そういうキャラだったかな。
フレデリク麾下のチェンヴァレンくんの印象が薄くて、いまいち記憶にないんだよな。
さっきの戦いでもちぐはぐな見た目の黒い甲冑だぞ。
結果的には役に立ったが……あれは適当に集めただけだろ。
バレているからな。
武器も鉄製の粗悪品なもんだから、あっさりと壊れたしな。
いや、それで撤退する理由付けが出来たから、いいんだけどさ。
それとこれは話が違うってもんだ。
「よかろう、その覚悟があるのなら、共に行こう」
「はい、閣下!」
俺はチェンヴァレンくんとエルフのみで構成された弓兵千名を率い、砦からひっそりと姿を消すのだった。
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