上 下
35 / 43
後日談

番外編8話 戦い終わって恋バナ

しおりを挟む
 嘘みたいに劇的な大勝利だった。
 ちょっと装飾が施された立派に見えるだけの単なるケーキ入刀ナイフを私とランスが握って、エヴォドラに向けて振り下ろした。
 その瞬間、刀身から光の粒子のようなものが放出されたのだ。
 まるで黄金の光の剣みたい。
 『ちょっ、おま!?』とか、言ってるエヴォドラの頭上に振り下ろされたのは巨大な光の剣の刀身だった訳で。
 入刀が終わったっていうの?
 振り下ろし終わるときれいに真っ二つになったエヴォドラの姿があった。
 十八歳未満でも遊べるようにグロテスクな表現はされないのできれいなものだわ。
 『こいつ死んでるんだ』くらいにきれいだし、危ない部分には自動的にモザイクがかかるから、安全なのよね。

 コアを両断されたエヴォドラはその力を失ったからかな?
 金色の光に包まれて、天に還っていった。

「二度と会いたくないわね。っていうか、やりたくないわね、このイベント」
「同感ですわ。やはり、正式に抗議すべきだと思うのですけど?」
「まあまあ、それなりに面白かっ……」

 ギロッとあたしも含めた女性陣三人の鋭い視線に刺されたランスが気圧されたのか、言い淀んだ。
 賢明な判断だと思うわ。
 今、下手なこと言えば、火に油を注ぐってやつだもん。

「今回はこのゲームが縁を結んでくれたっていう想いがあったから、目を瞑っただけだからね? いくら、あたしが寛大でも二回目はないわ」
「え? ランス……リナって、寛大だったかな?」
「基本的には優しいんだけどね。寛大……うん、寛大だよ?」
「寛大じゃないってことだね」
「何か、言った?」
「「いいや、何も」」

 あたしが一睨みするだけでこの幼馴染どもは静かになるのよね。
 でも、おかしいわね。
 あたしが寛大じゃなくなるっていうか、視野が狭くなるのはタケルに関してだけだから。
 自分でもこんなに嫉妬深かったなんて、気付いてなかったし。

「皆さん、報酬の宝箱開けないんですか?」

 一人冷静なエステルのお陰でようやく、全員が気付いた。
 報酬として、ドラゴンがいた場所に大きな宝箱が出現していたのだ。
 イレギュラーな形とはいえ、イベント討伐をクリアしたからよね?

「こんな大きい宝箱、初めて見た……」
「僕も初めてかな。この大きさは見たことないよ」

 ランスはアイテムコレクターだからね。
 ギルドのメンバー全員に武器をプレゼントしても余裕どころか、お店開けるんじゃない? って、いうくらい貯めこんでるんだもん。
 そんな彼が見たこともないなんて、本当に凄いのかな。

「開けてみましょう。報酬次第では抗議するのを撤回してもよくってよ」

 フランは本当、素直じゃないなんだから。
 変なところ、あたしと似てるんだよね。
 妙なところが頑固で好きな人に素直になれないとこなんて、かつての自分を見てるみたい。

検知ディテクションを掛けたけど、罠はないみたい。安心して開けていいよ」

 ヴォルフは基本、優等生だからね。
 こういう時のそつの無さは見習いたいわ。

「それで誰が開けるの? あたしは……いいわ。こういうのって、リーダーが開けるもの? それとも何か、ルールあるの?」
「罠はないし、開けたい人でいいと思いますよ」

 エステルはそう言うとフランの方をチラッと見た。
 あたしも気付いてた。
 フランが開けたそうな顔をしていて、ウズウズしていることにねっ。

「では私が開けてもよろしいのですか?」

 残り四人全員が是と頷く。
 彼女が加入してから、何度か死線を潜り抜けてきた(主にフランのせいでねっ!)けど、宝箱を開けるのは初めてじゃない?
 今日は暴走しなかったし、初イベント初撃破記念ってことでフランにやらせてあげたいと皆、思ってるはずだ。
 彼女は宝箱に手を掛けるとゆっくりとそれを開けていく。
 ギギィィというテンプレな効果音とともに宝箱の中身があたしたちの前にその姿を現した。

「これって、格闘用の武器?」
「うん、そうだね。爪……クローだから、フランにぴったりの武器だよ。炎の魔法が付与されているようだから、差し詰め炎の爪フレイム・クローってところかな」
「私の武器? 私って、この手と足だけが武器ではなかったのね」

 こうして、あたしたちの初イベント挑戦は予想もしていなかったような結末を迎えたのだ。


 👧 👧 👧


 ギルドのサロンに帰還したあたしたちは無事に全員で乗り切れたことを感謝して、ささやかな祝勝会を開いた。
 反省会ではないよ?
 反省する要素はあまり、なかったと思うし。
 普通に作戦通りに進んでいたんだし、あんな展開予想出来る人はいないだろう。

「じゃあ、スミカはまだ、結婚はしないんだぁ」
「私達、まだ、大学生だからね。それにその私とカオルはまだ……そのお付き合いしているだけで」
「まだ、だったのね」
「うん、まだ。結婚するまで……」
「カオルはホントにスミカのことを大事にしてるんだね」
「うん」

 で、あたしは直接、会う機会が少なくなってしまった親友との恋バナに花を咲かせている訳だ。
 恋バナって言ってもあたしは既にタケルと結婚してるから、スミカの話を聞くだけなんだけど。
 カオルとスミカはあたしたちと違って、擦れ違うというか、お互いが好きなのに素直になれないなんてことはない。
 見てるだけでも微笑ましい恋人って感じ。
 あまりに落ち着きすぎてて、結婚何年目の人かってくらいだ。
 それなのにまだ、してないんだから、ある意味スゴイと思う。
 スミカに手を出さないカオルの精神力もスゴイと思うけど。
 それ以上にあの二人って、身体の関係がなくても互いを想い合う絆が強いんだろう。

 タケルもカオルと積もる話があるらしくって、ミレイが一人浮いてる感じになって、かわいそうかな?
 スミカに目配せすると分かったとばかりにウインクしてくる。
 さすが、よく分かってる!

「ねえ、ミレイ。あなたは最近、気になる人いるでしょ?」
「な、な、何を!? 急に話振ってきたかと思ったら、何の話なの?」

 ミレイは普段こそ、冷静な完璧お嬢様なんだけど、こと恋愛に関してはポンコツだ。
 この反応でお察しくださいってこと。

「日本でも話題になっていますよ。あの美人令嬢がまた、日本の有望若手を引き抜いたって。今度もまた、高校生だったかしらね」
「そうなのよ。うちのチームの2ndキーバーになってる佐々木くんでしょ」

 スミカ、ナイスアシスト!
 そうなのよ、ミレイが最近、目を付けて引き抜いた子が現役高校生ゴールキーパーの佐々木高介ささき こうすけくん。
 年齢はなんと十六歳だから、あたしたちよりも年下なのだ。
 それでもあのミレイがデータを分析して、スカウトした子だけあって、189㎝という高身長に高い身体能力と動体視力で将来、日本代表入りも間違いないともの知り顔のファンの間でひそかな話題に上がっている逸材だ。

「コウスケね。気になって、悪いのかしら? 私がスカウトしたんですもの。気に掛けてあげないといけませんわ」
「コウスケって、もう名前で呼ぶ仲なの? ミレイの癖にやるじゃない」
「ち、違いますし。欧州では名前で呼ぶのが普通ですから、そう呼んだだけですわ」

 全力で否定しようとしているけど、そんな茹でだこみたいな真っ赤な顔で言ったって、誰も信じないんだけどねっ!

「あのね、ミレイ。後悔するくらいなら、失ったとしても素直になるべき時があるって、知ってる?」

 もし、あの時、素直になっていなかったら。
 好きっていう気持ちに嘘をついていたら。
 ミレイはあたしに似てるんだと思う。
 だから、素直になれないところもよく分かる。
 多分、同族嫌悪だったんだろう。
 最初の頃、顔を合わせたら、喧嘩になりそうで険悪だったのはそのせいじゃないかな。
 今はお互いを理解しあえてるとまではいかなくても仲の良い友人くらいにはなってるんじゃない?

「あたしたちは皆、あなたのことが好きだってことは忘れないでね。何があっても味方だから、逃げないで素直になるの! 分かった?」
「え? う、うん……分かりましたわ」

 味方って言われたことが意外だったのかな?
 それともあたしの言葉が何か、おかしかったのかなぁ。
 あたしとタケルは素直になったお陰で結ばれたんだし……。
 あっ。
 でも、あたしたちって、幼馴染で付き合いだけは長かったもんね。
 ミレイと佐々木くんは出会ってから、まだ日が浅いってのが不安材料かな?
 それに佐々木くんって……タケルより朴念仁だと思う。
 頑張って、ミレイ! と心の中で密かにエールを送っておくに留めておこうっと。

 部長さんは残念だったけど、久しぶりに皆で集まって、何かを成し遂げられた。
 とても晴れやかな気分とともに閉会となった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...