上 下
8 / 43
本編

閑話 文芸部という名の勝手に応援し隊

しおりを挟む
 私は田村澄華たむら すみかと申します。
 文芸部に所属する文学少女……あれ?
 文学じゃないかも。
 ちょっと自信ないわ。
 でも、小さい頃から本を読むのが好きでした。
 『本は友達』と言ってもいいくらいに。
 
 そんな私は今、もう一人の幹部もとい部員である新田薫にった かおると部室に招集されちゃっています。
 されちゃっている、という少々、物騒な表現を使うのは部長がこういう形で私とカオルを呼ぶ時はろくでもない用件が待ち受けているからなのです。
 面倒事が待っていると知っていて、気分が晴れやかな人というのもいないと思うんです。

「カオルも呼ばれていたの?」
「ええ、どうせいつものこと」

 部長である北条美彩ほうじょう みさが私たちを呼んだ理由はだいたい、予想がついています。
 ちょっと面倒なことに巻き込まれるのは間違いないです。
 部長が考える話は超面倒かつ無駄なんですから。

「諸君に集まってもらったのは他でもありません」

 あぁ、また部長の病気が始まりました。
 厨二病を拗らせすぎちゃって、一周回り過ぎた人、それが部長です。
 ええ、そんな感じにやばい人です。
 見た目はどこからどう見ても良家のお嬢さまだし、すごい美人なだけにとてもとても残念な人なんです。

「アリスのこと?」
「うむ。我らがアリス姫のこと以外に集まることがありましょうか。いいえ、ありませんとも」

 はいはい、もう言い回しからして面倒です。
 既に帰りたくなってきましたがそれは出来ません。
 こんな部長でも一応、尊敬はしていますからね。
 ただ、アリスのことを姫、タケルのことを王子って崇拝し過ぎでまるで信者です。
 信者も信者、狂信者ほど怖い物はないと思うんです。

「我らがすべきは姫の恋路を勝手に応援することです。それ以外に何をするというのでしょう?」

 その無駄に美しい顔で芝居がかって妙なことを口走るのはやめて欲しいです。
 どうせまた、突拍子もないことを思いついたと思うのですが、容姿のせいで説得力だけはあるから、困りものなんです。
 そもそも、我が文芸部が変な目で見られてるのって、ほぼ部長のせいなんですよ?
 文芸部はアリスの恋路を応援するのが主な部活動ではないはずなんですが。

「つまり、何をするの?」
「うわぁ、ストレートに言ってしまうの?」
「これを使って、姫と王子の仲を進展させるのよ」
「なに、これ?」
「うーん、これって、もしかして最新型のVR機器じゃないですか? これで何するんですかぁ、また、変なこと考えてませんかぁ?」

 部長が机の上に並べたのはまだ、発売されてからそんなに経ってない超最新型のVR機器とゲームソフトのケースでした。
 あぁ、これはろくなこと考えてませんよね。
 やばい人に権力とお金を与えたら、いけないといういい見本かもしれません。
 とはいえ、私とカオルが巻き込まれるのは確定しましたね。
 アリスと仲が良いのは私と幼馴染というポジションにいるカオルなんですから。
 どう考えてもこれらのアイテムを使って、キューピッドをしろって流れで間違いない?

「君達は理解が早くて助かるよ、ふふふっ」
「部長の考えてることは分かりやすいですからねぇ。でも、具体的な作戦考えてくれませんと私とカオルでは無理ですよぉ?」
「うん、無理。あの二人、天然記念物クラスの鈍感」
「この天才軍師である北条美彩が考えた作戦で今度こそ、姫は王子と結ばれるのよ。間違いないわ」
「へ、へぇ?」
「……バカ、間違いなくバカ」

 あなたの場合、天才軍師じゃなくて、天災軍死では?
 今まで色々とやってきた結果があのざまだよ。
 ざまぁを余裕でされちゃうくらいに穴だらけの作戦しか、立てないじゃないですか。
 あの二人の鈍さというか、純粋さ? それが原因にしても失敗してるのは部長の作戦が間抜けだからなんです!
 しかも部長って、そのことに全く、気付いていないのだから、手に負えません。
 だから、毎回、失敗するんだけどいい加減、学習するということはないのでしょうか?
 今度は大丈夫?
 VR機器とか、ネトゲとか、今までになく、お金かけてるけど……嫌な予感しか、しないのはなぜでしょう。

 この時、感じていた不安が杞憂で終わらないことを私は知る由もなかったのです。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...