上 下
3 / 43
本編

閑話 僕の大事なお姫様

しおりを挟む
 僕は楠木武くすのき たける
 どこにでもいそうな何の特徴もない普通の高校生です。
 ああ。
 普通じゃないところがありました。
 僕には生まれた時から縁がある幼馴染がいるんですが、彼女は僕にとって特別な存在なんです。
 絵本やおとぎ話に出てくるプリンセスがそのまま、目の前に出てきたと言ったら、どう思いますか?
 信じていませんね。
 でも、彼女は本当にそんな存在なんです。
 物心つく前から、彼女といとこのカオルといつも一緒でした。
 そんな僕にとって、彼女の見た目がちょっと変わっていることなんて、全然気になりません。
 『おひめさまみたいだね』と小さい頃の僕が言うと『ほんとう? うれしいな』と太陽のような笑顔を見せてくれる彼女。
 しかし、僕の生きている世界は彼女にとって優しくなかったんです。
 僕やカオルが側にいないと彼女はいつも、生傷が絶えなくて、いつしか笑うことすらなくなって。
 僕が彼女を守ると決めたのはその頃だったと思います。

 僕たちの関係はお姫様と騎士。
 僕はそれで充分だと思っていました。
 でも、そんな関係が終わりを告げるのは意外と早かったんです。
 小学校に上がる頃だったでしょうか。
 彼女が芸能界にスカウトされるくらい注目されるようになったからです。
 周りの反応はあまりに露骨でした。
 手のひらを返すというのは本当にあるんですね。
 彼女に擦り寄るように近付き、嘘の笑顔に塗れた人たちが彼女を囲んでいたんです。
 彼女は笑っているのにその心は泣いているように見えました。
 僕は同じように変わらず、彼女の隣で支えようとしました。
 彼女が僕の前では以前と同じように明るく、笑ってくれたからです。

 迷惑だったのかな?
 僕の存在はいつしか、彼女にとっていらないものになったんだと思います。
 確か、小学校も高学年になった頃でした。
 彼女は一人だけ、どんどん大人になっていったんです。
 同じくらいだった背丈はいつの間にか、彼女が一番高くなっていて、見ているだけで眩しくなってくるくらいにかわいくて、きれいだった。
 僕達の幼馴染は同じ世界の人間と思えない、そんな風に考えるくらいに。

 その頃からでしょうか。
 彼女の態度がおかしくなったのは。
 耳まで真っ赤になってそっぽを向きながら『べ、別にタケルにあげようと思って作ったんじゃないから。たまたま作って余っただけなんだからね』とバレンタインに大きなハート型のチョコを渡してきたんです。
 僕が珍しく風邪でダウンした時には『し、心配してる訳じゃないんだから、勘違いしないでよね』と言いながら、お粥を作ってくれただけじゃなくて、ふーふー冷ましながら食べさせてくれましたし。
 とにかく、言ってることとやってることが正反対で無茶苦茶なんです。
 最初は嫌われたのかと思って、ショックでした。
 『彼女の側にいていいのかな?』って。
 そう悩んでいた僕の背中を押してくれたのはいとこのカオルでした。
 僕は小さい頃からサッカーをやっていまして。
 それでサッカー部に所属している僕の姿を彼女が一度も見に来てくれないから、僕に興味がないんだろうと思っていたんです。
 それが間違いだったんです。

「本当に知らなかったの? アリスはいつも遠くから、タケルを見ているのに。鈍感ね」

 知りませんでした。
 彼女が帰宅部であることにこだわっていたのも僕を遠くから見る為だったなんて。
 でも、それって、一種のストーカーみたいだなとも思いました。
 アリスにストーカーされるなら、それはそれで嬉しいんですけどね。

「マネージャーやればいいのにって言ったら、あの子なんて言ったと思う?『あたしはタケルに色々としてあげたいの。他の子なんて知らないもん』って、タケル? どうしたの?」
「あ……うん、何でもないよ」

 僕は決めました。
 やっぱり、僕は彼女の騎士であるべきなんだ、と。
 僕は彼女のことが好きです。
 いつも一緒にいたい。
 側にいたい。
 でも、彼女はお姫様だから、騎士である僕は彼女を守ることに全力を尽くさなくちゃいけない。
 お姫様が好きになるのも好きになっていいのも王子様であって、騎士じゃないんだ。

 だから、左足を軽く踏まれたのも僕が悪いから、しょうがないんだよね。
 僕だって、本当は足利さんに教科書を貸すつもりだったんだ。
 それでアリスに教科書を見せてもらえば、いいかなって。
 そうしたら……『この方が見やすいですよね』って、足利さんが席をくっつけてくるとは考えてなかった。
 まさか、身体まで近づけてくると!
 うん、だからこれくらいの罰はしょうがない。
 『甘んじて受けようじゃないか』って、ちょっとかっこつけながら、彼女に微笑みかけると『くぁwせdrftgyふじこlp』って。
 何、言ってるか分からないよ。

 僕のお姫様はちょっと我が儘で素直じゃないけど、僕の前でだけ、誰にも見せない笑顔を見せてくれる大事な人です。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...