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第4章 麗しのアルフィン
第133話 もう少し自由に伸び伸びと育てた方がいいと思いますの
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アルフィン城の地下研究施設にて、急ピッチで組み立てが進められているのは魔動騎士たるロムルスとヘクトルだけではなかった。
車体に無限軌道と呼ばれる車輪を囲むように金属製の履板が覆う特殊な走行駆動装置を組み込んだ魔動兵・戦車が二両、数名の技術者の調整を受けている。
「実用化出来そうな感じだなぁ」
レオンハルトは少々、癖のある濡れ羽色の髪をぐしゃぐしゃと抑えながら、満足気にその光景を見つめている。
二両の戦車はこれまでの車両と設計思想と運用方針が大きく異なっていた。
その案を出したのは他ならないレオンハルト本人である。
戦車元来の運用方針は対歩兵、対地である。
圧倒的多数により包囲し、搭載した魔導砲の火力で押し切るだけという戦術のへったくれもないものだ。
しかも前提条件からして、敵側が同等の戦力を有していない状況ならというとんでもないものがあるのだから、話にならない。
もし、敵側に戦車が配備されていたら、その仮定は成り立たないのだ。
そこでレオンハルトが提案したのが駆逐戦車と自走砲という二種類の戦車亜種とも言うべき戦闘車両である。
ノーマルの戦車よりも大口径・大火力の魔導砲を搭載しているが旋回式の砲塔ではなく、固定型の砲室を有している。
その為、重量が増し、機動性を生かした戦闘運用がしにくいという欠点が生じた。
これは逆に言えば、予め、伏せることを前提とした防衛への運用に向いているということなのだ。
自由に転戦するだけの機動性と厚い装甲板による高い防御力を備えたものを駆逐戦車。
機動性を捨て、転戦が可能な程度の機動性と装甲板を取り払い、軽量化により、さらなる大口径の大型魔導砲を備えた自走砲。
その試作車両が目の前で組み立ての進められている二両の車両なのである。
「あっちも結構、いじってるなぁ」
大破したヘクトルに比べ、中破程度の損傷だったロムルスへと目をやったレオンハルトは口角を僅かに上げて、薄っすらと微笑む。
仰々しい甲冑を纏った重装歩兵を模した姿だったロムルスの姿は改修前と大きく異なっている。
既にほとんどの修復作業が終わった胴体の損傷部はエングレービング が施された甲冑に似た形状をしており、以前と変わらない様子だ。
改修により、大きく形が変わったのは二カ所である。
長いマズルと三角の形状をした二本の放熱板が獰猛な狼を思わせる頭部。
腕には武装熊の鋭い鉤爪が手甲に移植され、右腕の前腕下部に手持ち武器であった大型槍を改造し、作製されたパイルバンカーが追加された。
どちらも近接戦闘に特化するよう、改修が施された仕様である。
「人狼をイメージしたのかな。あれ? あれは……」
そのロムルスの隣にはまだ、外装の取り付けがされていない部分が多く、フレームが剥き出しになった魔動騎士らしき機体がある。
それを目にしたレオンハルトは不思議そうな表情を隠そうともせず、地下を後にするのだった。
🦊 🦊 🦊
レーゲンはまだ、三歳ですから、もう少し自由に伸び伸びと育てた方がいいと思いますの。
私がそう言うと皆、微妙な視線?
ううん、違いますわね。
何だか、生温かい視線を向けられるのですけど、気のせいかしら?
でも、私が何を言おうとレーゲン自身が学ぶことを望んでいるようなの。
レオやハルトは基礎の体力づくりから、初歩の剣術と軽いトレーニングを教えているみたい。
あまり幼い頃から、苛酷なトレーニングをしても駄目ですものね。
レオは人にものを教えるのにあまり、向いていないみたい。
天才型の人にありがちな傾向ですわね。
イメージでどうにか出来ると思っているところがあるわ。
『こう、ズバッと。だから、バシッとかな』みたいに漠然としている……ふわっとした教え方で分かりますの?
ハルトは普段、軽い調子でふざけていることが多いのに教え方は基本に忠実で基礎的なトレーニングを重視するみたい。
レーゲンは根が素直な子なのでしょう。
二人の言うことをよく聞いて、吸収していますわ。
生まれ持った身体能力が高いのかしら?
でも、その反面、これなのよね。
「できま……せん」
「んっ……あら?」
脂汗を垂らして、辛そうな顔をしているレーゲンが可哀想になってきたので私の授業は一旦、中止ですわ。
私は魔法の基礎を教えようと基本魔法と魔力の調整方法から、教えていました。
『これをパッとすれば……シュッと氷が……出ませんの? おかしいですわね』という調子で教えたのですけど、何か、間違っていたのかしら?
間違っていないと思うのですけど。
違いましたわ。
教え方の問題ではありませんでした。
レーゲンは非常に珍しい体質の持ち主で魔力がなかったのです。
魔力は大なり小なり、どのようなものにでも存在するはずなのですけれど、極稀にそういう特殊な体質の子がいるのよね。
反魔体質ですと別の特殊な才能を有していることが多く、レーゲンもまた、その例に漏れず、というところかしら?
レーゲンは魔法が使えない代わりというには補っても余りあるほどの身体能力と生命力を有しているのです。
では、それを活かす為にはどうすればいいかしら?
長所を伸ばすだけ伸ばす。
短所を短所と気付かせなければ、問題ありませんわね。
そうですわ。
ライモンド師にも相談してみましょう。
ついでですから、私の大鎌もそろそろ、鍛え直そうかしら?
レライエが元に戻った今、あれはもう武器としてしか、使えませんもの。
そうしますと刀身の素材も色々とありますし……。
考えなくてはいけないことがたくさんありますわ。
車体に無限軌道と呼ばれる車輪を囲むように金属製の履板が覆う特殊な走行駆動装置を組み込んだ魔動兵・戦車が二両、数名の技術者の調整を受けている。
「実用化出来そうな感じだなぁ」
レオンハルトは少々、癖のある濡れ羽色の髪をぐしゃぐしゃと抑えながら、満足気にその光景を見つめている。
二両の戦車はこれまでの車両と設計思想と運用方針が大きく異なっていた。
その案を出したのは他ならないレオンハルト本人である。
戦車元来の運用方針は対歩兵、対地である。
圧倒的多数により包囲し、搭載した魔導砲の火力で押し切るだけという戦術のへったくれもないものだ。
しかも前提条件からして、敵側が同等の戦力を有していない状況ならというとんでもないものがあるのだから、話にならない。
もし、敵側に戦車が配備されていたら、その仮定は成り立たないのだ。
そこでレオンハルトが提案したのが駆逐戦車と自走砲という二種類の戦車亜種とも言うべき戦闘車両である。
ノーマルの戦車よりも大口径・大火力の魔導砲を搭載しているが旋回式の砲塔ではなく、固定型の砲室を有している。
その為、重量が増し、機動性を生かした戦闘運用がしにくいという欠点が生じた。
これは逆に言えば、予め、伏せることを前提とした防衛への運用に向いているということなのだ。
自由に転戦するだけの機動性と厚い装甲板による高い防御力を備えたものを駆逐戦車。
機動性を捨て、転戦が可能な程度の機動性と装甲板を取り払い、軽量化により、さらなる大口径の大型魔導砲を備えた自走砲。
その試作車両が目の前で組み立ての進められている二両の車両なのである。
「あっちも結構、いじってるなぁ」
大破したヘクトルに比べ、中破程度の損傷だったロムルスへと目をやったレオンハルトは口角を僅かに上げて、薄っすらと微笑む。
仰々しい甲冑を纏った重装歩兵を模した姿だったロムルスの姿は改修前と大きく異なっている。
既にほとんどの修復作業が終わった胴体の損傷部はエングレービング が施された甲冑に似た形状をしており、以前と変わらない様子だ。
改修により、大きく形が変わったのは二カ所である。
長いマズルと三角の形状をした二本の放熱板が獰猛な狼を思わせる頭部。
腕には武装熊の鋭い鉤爪が手甲に移植され、右腕の前腕下部に手持ち武器であった大型槍を改造し、作製されたパイルバンカーが追加された。
どちらも近接戦闘に特化するよう、改修が施された仕様である。
「人狼をイメージしたのかな。あれ? あれは……」
そのロムルスの隣にはまだ、外装の取り付けがされていない部分が多く、フレームが剥き出しになった魔動騎士らしき機体がある。
それを目にしたレオンハルトは不思議そうな表情を隠そうともせず、地下を後にするのだった。
🦊 🦊 🦊
レーゲンはまだ、三歳ですから、もう少し自由に伸び伸びと育てた方がいいと思いますの。
私がそう言うと皆、微妙な視線?
ううん、違いますわね。
何だか、生温かい視線を向けられるのですけど、気のせいかしら?
でも、私が何を言おうとレーゲン自身が学ぶことを望んでいるようなの。
レオやハルトは基礎の体力づくりから、初歩の剣術と軽いトレーニングを教えているみたい。
あまり幼い頃から、苛酷なトレーニングをしても駄目ですものね。
レオは人にものを教えるのにあまり、向いていないみたい。
天才型の人にありがちな傾向ですわね。
イメージでどうにか出来ると思っているところがあるわ。
『こう、ズバッと。だから、バシッとかな』みたいに漠然としている……ふわっとした教え方で分かりますの?
ハルトは普段、軽い調子でふざけていることが多いのに教え方は基本に忠実で基礎的なトレーニングを重視するみたい。
レーゲンは根が素直な子なのでしょう。
二人の言うことをよく聞いて、吸収していますわ。
生まれ持った身体能力が高いのかしら?
でも、その反面、これなのよね。
「できま……せん」
「んっ……あら?」
脂汗を垂らして、辛そうな顔をしているレーゲンが可哀想になってきたので私の授業は一旦、中止ですわ。
私は魔法の基礎を教えようと基本魔法と魔力の調整方法から、教えていました。
『これをパッとすれば……シュッと氷が……出ませんの? おかしいですわね』という調子で教えたのですけど、何か、間違っていたのかしら?
間違っていないと思うのですけど。
違いましたわ。
教え方の問題ではありませんでした。
レーゲンは非常に珍しい体質の持ち主で魔力がなかったのです。
魔力は大なり小なり、どのようなものにでも存在するはずなのですけれど、極稀にそういう特殊な体質の子がいるのよね。
反魔体質ですと別の特殊な才能を有していることが多く、レーゲンもまた、その例に漏れず、というところかしら?
レーゲンは魔法が使えない代わりというには補っても余りあるほどの身体能力と生命力を有しているのです。
では、それを活かす為にはどうすればいいかしら?
長所を伸ばすだけ伸ばす。
短所を短所と気付かせなければ、問題ありませんわね。
そうですわ。
ライモンド師にも相談してみましょう。
ついでですから、私の大鎌もそろそろ、鍛え直そうかしら?
レライエが元に戻った今、あれはもう武器としてしか、使えませんもの。
そうしますと刀身の素材も色々とありますし……。
考えなくてはいけないことがたくさんありますわ。
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