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第3章 戦火のオルレーヌ王国
閑話11 うさぎと骨による地獄のブートキャンプ開幕
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「貴様らは豚だ。いいか、豚ども」
「い、いや、僕は確かに豚デスけど」
「口答えは許さんぞ?何があっても、サーウッサーだ」
「サ、サーウーサー」
不機嫌そうに右足を踏み鳴らし、ダンダン足音を立てているのは真っ黒なうさぎ……ではなく、黒いうさぎを模したぬいぐるみである。
そのうさぎが足ダンをしているのは人の頭の上。
否。
それは人ではない。
一切、肉が付いていない骨だけの姿をした死者の王の頭蓋骨の上だった。
漆黒のローブを目深に被ったリッチ・ロードことベルンハルトは骨であるだけに無表情のまま、からからと笑いながら言い放つ。
「まあ、まあ、よいではないか」
「よくはないのだ。貴様も甘い。貴様も骨の髄まで味わいたいか」
さらに足ダンを激しくする黒いうさぎ(のぬいぐるみ)ことイシドール。
かつて大魔導師として、世界にその名を知られた男。
そのプライドは如何なる山よりも高く、暗い海よりも深い。
つまり、とても面倒な男である。
「いいか、豚ども。悔しいか?だが怒りを燃やす暇があれば、脂肪を燃やせ。魔力に変えろ。分かったか」
「サ、サーウーサー」
どう見てもこの世の者ではない一人と一羽の前に整列させられている面々もまた、個性的な色に彩られていた。
エルフやドワーフのような半妖精と呼ばれる種族だけではなく、ゴブリンやコボルトの姿もちらほら見受けられ、獣人族が大勢を占めているようだ。
その中にはリリアーナから、魔法の適性を磨くようにとこのキャンプに送られたオーカスの姿もある。
人の姿に擬態しているオーカスだが人の世界にあって暴飲暴食が祟ったのか、小太りで許されるレベルではなくなっていた。
「大変デス。ここには僕と同じ人達ばかりデス」
不安から、キョロキョロと周囲を見渡したオーカスは気付いてしまった。
このキャンプに集められた人々が皆、自分と同じように不摂生の祟っただらしない体型の者ばかりだということに。
つまり、自分がここに送られた意味はそういうことなのだろう。
悟ったオーカスの顔面はペンキでも塗ったかのように青くなっていく。
「よし、まずは湖の周りを一周してこい。話はそれからだ」
場がザワザワと騒々しくなるのも無理はない。
アルフィン湖の周囲長はおよそ20キロメートルである。
小太り体型の者しかいないキャンプ参加者にとって、その十分の一を走るのさえ、苦痛を感じるのだ。
当然のように不満の声が上がるのだが……
「貴様ら、この儂に逆らうのか?ほお?本当にやろうというのか?」
ゴゴゴゴと地鳴りのような音がどこからか、聞こえ、晴れ渡っていた空が急に黒雲に覆われていく。
ベルンハルトの頭上にいたイシドールの姿がスッと宙に浮き、その背後に青白い炎が激しく、燃え上がり始めた。
「死にたくなければ、疾く行くことだ。それとも呪いでもかけて欲しいのか?死に物狂いで走りたくなる呪いなら、すぐにかけてやるぞ。カエルか?カエルになりたいのか?」
見た目はとても愛らしいうさぎのぬいぐるみがかわいらしい顔を歪め、邪悪な笑みを浮かべながら、そう言うとあれほど、走るのを渋っていた参加者も血相を変え、我先にと走り出していくのだった。
参加者の一人は後にこう語る。
「あれほど怖い体験は今までありませんでした。口はバツ印で目も真ん丸で表情なんてないはずなのに今でも夢に見るくらい、恐ろしい顔に見えたんです」
🦴 🐰 🦴
「のう、イシドールよ。本当にあれでいいのか?」
「よい。鉄は熱いうちに打てと言うではないか。まず、材料を熱くせねば、打てまい?」
「そうは言うがのう。リリーは知っておるのかのう?」
「い、いや……リリーには伝えとらん。何、心配はいらん。完成品が完璧であれば、問題なかろう」
「そ、そうかのう。それなら、いいんじゃがのう」
そう言いながらも嫌な汗が背を伝う一人と一羽であった。
滅多に怒らない人が怒ると怖い。
一度、機嫌を損ねて、一ヶ月間、徹底的に無視をされたことを思い出し、頭を抱える一羽であった。
🐷 🐷 🐷
しかし、ここで予想外のことが起きた。
意外なことにオーカスは機敏に動けたのだ。
あれほど太りかえったオーカスが軽やかにトップを走る。
働かない豚は……とリリアーナから、氷の視線を浴びたオーカスは夜な夜な、小銭稼ぎのクエストをこなし、森を駆け回っていたのだが、それが功を奏したと言えよう。
ではなぜ、太りかえったのだろうか?
単純に食べ過ぎである。
これにもリリアーナが大きく、関わっていた。
身内にはとことん甘い彼女の悪い癖が出たのだ。
美味しい食べ物が望むだけ、与えられれば、太らない者がいようか?いや、いない。
しかし、同じように甘やかされていたニーズヘッグも甘い物を飽きるほど食べていても体型に変化がないのだから、世の中、意外と不公平なものである。
「ふおおおお、僕は意外と走れるんデスよ」
ドスドスドスと軽く地響きと土煙を上げながら、疾走するオーカスの姿が後にアルフィンの七不思議の一つになるのだがそれはまた、別の話である。
「い、いや、僕は確かに豚デスけど」
「口答えは許さんぞ?何があっても、サーウッサーだ」
「サ、サーウーサー」
不機嫌そうに右足を踏み鳴らし、ダンダン足音を立てているのは真っ黒なうさぎ……ではなく、黒いうさぎを模したぬいぐるみである。
そのうさぎが足ダンをしているのは人の頭の上。
否。
それは人ではない。
一切、肉が付いていない骨だけの姿をした死者の王の頭蓋骨の上だった。
漆黒のローブを目深に被ったリッチ・ロードことベルンハルトは骨であるだけに無表情のまま、からからと笑いながら言い放つ。
「まあ、まあ、よいではないか」
「よくはないのだ。貴様も甘い。貴様も骨の髄まで味わいたいか」
さらに足ダンを激しくする黒いうさぎ(のぬいぐるみ)ことイシドール。
かつて大魔導師として、世界にその名を知られた男。
そのプライドは如何なる山よりも高く、暗い海よりも深い。
つまり、とても面倒な男である。
「いいか、豚ども。悔しいか?だが怒りを燃やす暇があれば、脂肪を燃やせ。魔力に変えろ。分かったか」
「サ、サーウーサー」
どう見てもこの世の者ではない一人と一羽の前に整列させられている面々もまた、個性的な色に彩られていた。
エルフやドワーフのような半妖精と呼ばれる種族だけではなく、ゴブリンやコボルトの姿もちらほら見受けられ、獣人族が大勢を占めているようだ。
その中にはリリアーナから、魔法の適性を磨くようにとこのキャンプに送られたオーカスの姿もある。
人の姿に擬態しているオーカスだが人の世界にあって暴飲暴食が祟ったのか、小太りで許されるレベルではなくなっていた。
「大変デス。ここには僕と同じ人達ばかりデス」
不安から、キョロキョロと周囲を見渡したオーカスは気付いてしまった。
このキャンプに集められた人々が皆、自分と同じように不摂生の祟っただらしない体型の者ばかりだということに。
つまり、自分がここに送られた意味はそういうことなのだろう。
悟ったオーカスの顔面はペンキでも塗ったかのように青くなっていく。
「よし、まずは湖の周りを一周してこい。話はそれからだ」
場がザワザワと騒々しくなるのも無理はない。
アルフィン湖の周囲長はおよそ20キロメートルである。
小太り体型の者しかいないキャンプ参加者にとって、その十分の一を走るのさえ、苦痛を感じるのだ。
当然のように不満の声が上がるのだが……
「貴様ら、この儂に逆らうのか?ほお?本当にやろうというのか?」
ゴゴゴゴと地鳴りのような音がどこからか、聞こえ、晴れ渡っていた空が急に黒雲に覆われていく。
ベルンハルトの頭上にいたイシドールの姿がスッと宙に浮き、その背後に青白い炎が激しく、燃え上がり始めた。
「死にたくなければ、疾く行くことだ。それとも呪いでもかけて欲しいのか?死に物狂いで走りたくなる呪いなら、すぐにかけてやるぞ。カエルか?カエルになりたいのか?」
見た目はとても愛らしいうさぎのぬいぐるみがかわいらしい顔を歪め、邪悪な笑みを浮かべながら、そう言うとあれほど、走るのを渋っていた参加者も血相を変え、我先にと走り出していくのだった。
参加者の一人は後にこう語る。
「あれほど怖い体験は今までありませんでした。口はバツ印で目も真ん丸で表情なんてないはずなのに今でも夢に見るくらい、恐ろしい顔に見えたんです」
🦴 🐰 🦴
「のう、イシドールよ。本当にあれでいいのか?」
「よい。鉄は熱いうちに打てと言うではないか。まず、材料を熱くせねば、打てまい?」
「そうは言うがのう。リリーは知っておるのかのう?」
「い、いや……リリーには伝えとらん。何、心配はいらん。完成品が完璧であれば、問題なかろう」
「そ、そうかのう。それなら、いいんじゃがのう」
そう言いながらも嫌な汗が背を伝う一人と一羽であった。
滅多に怒らない人が怒ると怖い。
一度、機嫌を損ねて、一ヶ月間、徹底的に無視をされたことを思い出し、頭を抱える一羽であった。
🐷 🐷 🐷
しかし、ここで予想外のことが起きた。
意外なことにオーカスは機敏に動けたのだ。
あれほど太りかえったオーカスが軽やかにトップを走る。
働かない豚は……とリリアーナから、氷の視線を浴びたオーカスは夜な夜な、小銭稼ぎのクエストをこなし、森を駆け回っていたのだが、それが功を奏したと言えよう。
ではなぜ、太りかえったのだろうか?
単純に食べ過ぎである。
これにもリリアーナが大きく、関わっていた。
身内にはとことん甘い彼女の悪い癖が出たのだ。
美味しい食べ物が望むだけ、与えられれば、太らない者がいようか?いや、いない。
しかし、同じように甘やかされていたニーズヘッグも甘い物を飽きるほど食べていても体型に変化がないのだから、世の中、意外と不公平なものである。
「ふおおおお、僕は意外と走れるんデスよ」
ドスドスドスと軽く地響きと土煙を上げながら、疾走するオーカスの姿が後にアルフィンの七不思議の一つになるのだがそれはまた、別の話である。
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