上 下
47 / 232
第1章 商業都市バノジェ

第42話 お寿司を食べましょう

しおりを挟む
 支部長室に入ると案の定、ジローのおじさまが難しい顔をされていました。
 捜査に進展がなかったのかしら?
 とりあえず、腰掛けてから、本題を切り出すと致しましょう。

「おじさま、そのご様子ではあまり、進みませんでしたの?」
「うむ。その通りでしてな。残念ながら、確保した者たちも…でしてな」
「まさか…?」
「手掛かりがやつらの遺した遺留品のみという状況ではお手上げでしてな。これが…その足がつかないように帝国内で流通している変哲の無い日常品でしてのう」
「面倒なことになってるってことか。爺やはどうするの?」

 手掛かりも無く、足取りも掴めない。
 ギルドではこれ以上、手の打ちようがないということですわね。
 解決の糸口が見えないというのは困りますし、私の持っている情報をお伝えするべきかしら?

「あのおじさま、確証は持てないのですけど、あの一味、西のオルレーヌ王国の者かもしれません。帝国語に独特な訛りがありましたのでそうかもしれない、というくらいのお話ですわ」
「ふむ、それでも霧の中を手探りで探すのよりはましですな」

 そうよね。
 まさか、手掛かりとなる物すら、全く残さないほどに慎重な相手だとは思ってませんでしたもの。

「あいつらさ、倉庫に人質を確保して、どうやって人質を移動させるつもりだったのかな?」
「なるほど、確かにそうですな」

 ん?どうして、そこに気付かなかったのかしら!
 レオのそういう鋭いところが好きですわ。
 鋭くなくても大好きですけど。
 もう何でも好き!
 熱に浮かされたようにボッーとレオの横顔に見惚れてしまいます。
 ずっと見ていられますわ。
 ジローのおじさまにコホンとわざとらしい咳払いをされて、我に返りましたけども。

「え、えっと…やはり、船を使っての逃亡を考えていたのではないかしら?人質を移動させるのも積み荷に見せかければ、怪しまれずに済みますわ。バノジェでは船も積み荷もそこまで入念に検査を行わないのではなくって?」
「ふむ、確かにそうですな。バノジェは自由商業都市ですからな。それが足枷とも仇ともなって、犯罪の温床になっておるのは否めませんな」
「その対策は今後の課題だね。とりあえず、入港している船を検査しないと駄目だね」
「いやあ、やはり殿下と姫がおられてよかった。お二人がおらなんだら、この事件は迷宮入りでしたな」

 まだ、解決しておりませんけどね。
 むしろ、解決の糸口が掴めたかも怪しいですわ。
 周到に足がつかないような装具を用いるだけでなく、万が一にも口を割らないように自決する。
 そんな慎重にも慎重を期した一味が手掛かりを残したとは思えないわね。



 ジローのおじさまとの会談も無事に終わり、アンたちと一緒にちょっと遅めのお昼を摂ることにします。
 明後日の昼にはここを発つことになりますから、出来れば、食べたことの無い珍しい物をいただきたいですわ。

「皆、何か食べたい物はあるかしら?」
「この町って、やっぱ、港町だから、海鮮物がいいんじゃないかな?寿司とか、ないかなぁ」

 レオはお寿司がいいのね。
 ん?お寿司?
 あるのかしら?
 拉麺がありましたから、全く可能性がないとも言えないのかしら?
 転生者がオーナーの飲食店があれば、もしかしたら、存在するかもしれないわ。
 それにお寿司は新鮮な生物があれば、再現が可能でしょうし、酢飯さえ用意が出来ればありですわね。

「殿下がお寿司を推されるのなら、お好み焼きなんてどうですかぁ?」

 アンはお好み焼きを推すのね。
 お寿司や拉麺よりも難易度が低いですわ。
 誰かがアイデアを提供するだけで商業化に成功していてもおかしくないですわ。

「わちし、ふわふわで甘くてとろとろがいいのー」

 ん?え?
 ニールはまた、パンケーキですの?
 三食パンケーキは栄養の面で考えると駄目ですわ。
 おやつに食べればいいのでニールの案は却下ね。

「僕は何でもいいデス」

 『何でもいい』『別に』
 これは一番、よろしくない解答例ですわ。
 罰として冥府に送ってあげましょうか?
 心の中でそう思っただけでしたのにオーカスがビクビクしています。
 怯え過ぎではないかしら?

「そういうリーナは何が食べたいの?」
「え?私?私は…お寿司でいいですわ」

 あまり、食欲のない私も実は『別に』『何でも』なのです。
 でも、そう答えてはレオにもアンにも悪いですもの。
 それにレオがお寿司を食べたいと思っているのですから、賛同するしかありませんわ。

「ではまず、お寿司屋さんを探し、なければお好み焼き屋さん。どちらもなかったら、どうしましょう?パスタでもよろしいかしら?」
「いいんじゃない?港町だし、パスタが名物かもしれないよ」

 そして、飲食店が多く立ち並ぶ通りを訪れた私達はあまり、苦労せずにお寿司屋さんを見つけることが出来たのです。
 ええ。
 それはもう、派手な店構えのお店でした。
 あちらの世界でしたら、ネオンがどうのというくらいに派手なのです。
 しかし、さらにびっくりすることになるのはお店に入ってからでした。

「えっと、これって、回転寿司だよね」
「そ、そうみたいですわ。回転寿司があるなんて、どうなっているのかしら?」
「あっ。でも最近の回転寿司は進化してますから、お好み焼きもパンケーキもあるかもしれませんよっ」

 え?そうでしたの?
 最近のお寿司屋さんはこんなことになってますのね。
 思わず目を輝かせて、回っているお寿司を観察しているとボックス席に空きが出来たようで案内されました。
 観察しているだけでも飽きずに見ていられるくらいに興味深いですわ。

 どういう原理で動いているのか、分かりませんけれど、お皿に乗せられたお寿司が回っているのを見て、目前に来たお皿を取ろうとするとやんわりとレオに止められました。

「回ってるのは時間経ってるんだよ。食べるなら、新鮮なネタの方がいいから、直接注文するのが一番だね」
「レオは凄いのですわ。私が知らないことを色々と知っているんですもの」

 心の底から、感心するようにそう言いますとレオとアンが微妙に口を開き、呆けていました。
 なぜですの?
 何か、変なことを言ったかしら?
 え?オーカス?
 話を全く、聞いていなかったのか、とりあえず回ってきたお皿をどんどん、口に放り込んでますわ。
 重ねられていくお皿がどんどん、高くなっていくのですけど。
 いつまでもタダで食べられると思っているのは甘いのよ?

「マーマ!ふわふわーの甘いのあるよ」
「そうね。パンケーキもあるなんて…しかも普通に美味しいですわ」

 結局、私はというとお寿司屋さんに来たのにパンケーキを娘と食べています。
 勿論、お寿司は美味しかったですのよ?
 でも、サイドメニューだったかしら。
 その完成度があまりに高いのでそちらばかり、いただいてしまったのです。
 特にパンケーキが美味しかったですわ。
 フワフワで中がトロッとしているオムレツの乗ったオムライスも絶品ですのよ。
 アンもお好み焼きを食べてますわ。

 回転寿司は何でもありのとても素敵なところですのね。
 魅惑的な宝玉が詰まった宝石箱のようで楽しかったですわ。
 今度はレオと二人きりなんて…そう思って、チラッと隣のレオの様子を窺ったら、視線が絡み合いました。
 軽くウインクをされたということは彼も同じことを考えてくれたのかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に好きな人がいると言われました

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むこととなる。 お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す

金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。 今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。 死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。 しかも、すでに王太子とは婚約済。 どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。 ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか? 作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。

六度目の転生は異世界で

克全
ファンタジー
「アルファポリス」に先行投稿。36話10万字の完結作品です。 レオナルドは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。いや、一代前の記憶だけでなく、本多平八郎、小林平八郎、大塩平八郎、東郷平八郎、智徳平八郎という五度転生した記憶を持っていた。だが、過去の転生では一度も前世の記憶を持っていなかった。今回初めて前世の記憶を持って転生したのだ。しかも魔者が普通に生きている異世界に転生してしまっていた。生まれて直ぐ五人の記憶を持っていたため、とても混乱してしまったが、言葉が話せるようになるまで時間がかかったのがよかった。一番最近の転生だった智徳平八郎の影響が強かったが、何とか五人の価値観に折り合いをつけることができた。そのお陰で、戦国乱世同然の異世界で、ランゴバルド王国の中堅氏族長の長男として幼い頃から十二分に働くことができた。圧迫していた隣国のアヴァール騎馬王国から逃れるために、ランゴバルド王国のアルボイーノ王の決断で、長年の内乱で疲弊したロアマ帝国イタリア領に侵攻した。父である氏族長に従って、レオナルドは前世の知識を活用して大功を重ねた。手に入れた領地を王国内の半独立国ストレーザ公国として繁栄させた。羊皮紙とパピルスしかなかった世界に植物紙を導入して莫大な資金を稼いだ。収穫の三分の一を来年の種にしなければいけないほど遅れていた農業を、六圃輪栽式農法と麦翁権田愛三が広めた権田式麦作法を導入する事で、以前の十五倍の収穫量にした。圧倒的な生産力と経済力を手に入れたレオナルドは、王家や他の氏族に襲われないように、奴隷にしたロアマ人や他国民、時には異種族まで活用して軍事力を強化するのだった。偶然流行した天然痘を予防したレオナルドは、神の予言者を名乗り圧倒的な権力を手に入れた。更に先を見越して先進的な船の建造にまで着手した。レオナルドは王家の内紛と氏族間の暗闘を利用して、王が謀殺された後に生き残った王太女と王妃を確保した。更に天然痘を予防した名声を利用して、身分制度で対立するロアマ帝国支配下の都市を自壊させ、一気にイタリア全土を支配下に置いた。天然痘による人口半減と内乱で苦しむ大陸各国を尻目に、大艦隊を編成したレオナルドは、降伏を申し込んできたイタリア周辺の島々を併合しようとしていた。その後は圧倒的な生産力で作り出した商品を輸出すべく、大艦隊を交易に利用して、民を絶対に飢えさせない国を目指すのだった。

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。 ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。 その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。 理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。 しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。 ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。 ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。 「あの人にも幸せになる権利はあるわ」 ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。 レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。 直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。 タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。 馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。 「収穫量が思ったように伸びなくて」 もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~

ココア
ファンタジー
『始まりの日』と呼ばれる厄災から50年程経ち、世には魔法少女と呼ばれる存在が溢れ、魔物を狩るのが当たり前の世界となった。  そんな世の中でも社会人として暮らしていた榛名史郎は、偶然立ち寄った公園で魔法少女同士の戦いに巻き込まれ、瀕死の重症を負う。  薄れゆく意識の中、何処からともなく声が聞こえてきた。 「魔法少女が憎くないですか?」  その日、彼は『魔法少女』になった。 (他サイトにも投稿してます)

処理中です...