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第1章 商業都市バノジェ

第10話 昇格には裏がある?

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 生存者は村長宅として、使用されていた他よりも広く、立派な建物の地下で見つかりました。
 表向きの見た目は木造建築で普通の家屋のように見えますが、偽装されていたようで地下は石造りで組まれており、まるで王城や砦の牢屋を思わせる頑丈な造りになっています。
 一味は冒険者達を奴隷として、売り払う為に捕らえていたようで女性冒険者はそれなりに清潔に保たれた独居房で丁重に扱われていたようですけれど、男性冒険者の扱いは酷いものでした。
 狭い牢内に大勢を入居させているので衛生状態も劣悪、とても人として許されるようなものではないでしょう。
 ただ、地下牢施設で命を失っている者がいなかったのがせめてもの幸いでしょうか。

「先にギルドに報告する方がいいかしら? それから、被害者を収容する方がケアも出来て、いいように思えるのですけど」
「その方がいいかもね。僕達だけだと手が足りないし」
「分かりましたわ。ではここにはアンに残ってもらって……ニール、あなたも悪いけどここで見張っていて欲しいの」
「分かっーたー、ママ―」

 パタパタと肩から、羽ばたいてアンのところへ向かっていくニールを見届けてから、村長もどきに掛けた氷の棺アイス・カスケットを解除します。
 『助かった」と安堵の表情を見せたところを忌まわしき連鎖アボミネーション・チェーンで身動きが取れないくらいにグルグル巻きにしてあげました。
 その絶望に陥った顔を見るのが私の最大の楽しみ! などとは言いませんけども。
 ですが、悪党にふさわしい鎖で戒めておきませんとね。
 決して、趣味で縛っている訳ではないのです。
 レオが『やっぱり、そういう趣味があるんだ』とでも言いたげに見つめてくるのですけど、違いますわ。

「リーナってさ……いや、何でもない」
「心配しなくてもレオは縛りませんわ」
「えっと、そういうことじゃないんだけどな。うん、何でもない」

 レオに唯一の証人となる村長もどきを連行してもらい、バノジェのギルドへと戻ることにしました。
 転移の魔法があるから、帰りはとても楽ですわ。
 その分、旅をしているという雰囲気も楽しめないから、面白くはないのだけど。

 受付で事情を説明し、依頼内容を完了したことに加え、単なるゴブリン退治ではなく、背後に組織的な犯行があったと付け加えておきました。
 そのことで後ほど、バノジェの支部長から直接、話を聞きたいという申し出があったので現場に戻り、アンとニール、そしてオーカスと合流すると再びギルドに戻ります。
 これは転移の魔法がなかったら、面倒なことになっていたわ。
 少なくとも一日でどうこう出来るとは思えない距離ですから。




 そして、私達はバノジェの冒険者ギルド支部長室に案内され、支部長ジロランドと対面することになりました。
 ニールとオーカスの世話はアンに任せ、ギルドホールに残してきたのですが大丈夫でしょうか?
 ちょっと心配ですわ。
 これはおかしなことではなくって?
 私達は冒険者として、登録したばかりですし、ランクも最底辺のEなのですから。
 いきなり、支部長との面会なんて、ありえないことではないかしら?

「来ていただき、ありがとうございます。さあ、どうぞお掛けになってくだされ。様」
「私のことを知ってらっしゃいますの?」
「ええ、レオンハルト殿下とリリアーナ様がこの町に初めていらした時のことを良く覚えておりますとも」

 そう言われると目の前でにこやかな笑顔を絶やさない穏やかな雰囲気の漂う老年の男性の顔に見覚えがありました。
 あれは私がレオと出会って間もない頃ですから、十年くらい前かしら。
 私にベルンハルトという爺やがいるようにレオにも爺やと呼んで慕っている初老の男性がいました。
 まだ幼かった私もレオも彼の名前をしっかり、発音出来ず、ジロー爺とか、ジローのおじさまと呼んでいました。

「もしかして、ジローのおじさまですの?」
「あの頃のリリアーナ様はお転婆でしたな。今は大層、美しく聡明になられた」
「そんなことは……ないです」

 あまり褒められ慣れていない私は面と向かって、そんなに褒められてしまうと恥ずかしくて、仕方がありません。
 顔が赤くなっているのを知られたくないので俯いてしまい、二の句を繋げずにいるとレオが助け舟を出してくれました。

「爺やが生きていて、ギルドの支部長やっているなんて、知らなかったよ」
「はっははは、わしだって、引退して田舎でスローライフを満喫しておったのに支部長やらされるなど思ってもおりませんでしたぞ。ただ、こうしてお二人に再会出来たのですから、多少の感謝はしておりますぞ」

 レオの教育係を務めていたジローのおじさまは不慮の事故で利き腕をなくし、引退を余儀なくされた為、十年前のあの日、アルフィンにいなかったのです。
 と風の噂で聞いて、私やレオのことを気に掛けてくれていたようです。
 その後、私は帝都の邸宅で暮らす様になりましたし、レオは日本へ飛ばされていたので連絡を取る術もないまま、今日、突然の再会になった、と。

「わしらも初心者の冒険者があまりに不自然な形であの村を調査はしておったのです。奴らは中々、にしたたかでしてな。尻尾を出さぬので手を焼いておったのです」
「そうでしょうね。あの者達の使っていた毒はかなり、高度なものでしたわ。普通の人間がアレを食べたり、飲んだりすれば、痺れで全身が動かなくなりますもの」
「あぁ、それでリーナが予め、薬を飲めって言ったんだ?」
「毒で動けなくした冒険者を地下牢に拉致しておった訳だな。そこで禁呪に近い魔法を使い、奴隷としての教育を施し、出荷しようとしておったか。厄介なことだのう」
「それだけで問題が終わりそうにないのでしょう、ジローのおじさま。あの者はアルフィンの領主からの命により、あのような蛮行に至った。さらに手を組んだのがオークだなんて、笑い話にもなりませんもの」

 亜人と一括りにするのなら、オークもその中に入れるべきなのでしょう。
 人のように心を持ち、独自の文化を有しているのですから。
 それが憚られるのは獣性―他種族への攻撃性の高さに加え、共喰いとも呼ばれるほどの飽くなき食欲に因るものです。
 食欲だけでも厄介とされるのに性欲の強さも尋常ではなく、雌であれば何でも犯すとされる種族なので女性冒険者が丁重に扱われ、無事だったのは奇跡に近いでしょう。

「オークと手を結んだのは死んだ魔術師と証言しておるようだ。それなりに力のある奴だったようだのう。奴が何らかの術を施して、オークの手が及ばないようにしていたのが幸いしたと言ったところかのう」
「それで僕達を呼んだのって、昔話をしたいからじゃないですよね?」

 場合によっては皇帝に即位するかもしれないレオの教育係に抜擢されていた人がの用事で招くでしょうか?
 確かに朗らかで大らかな人柄で権謀術数の類は好まない方だったと記憶しているのですけど。

「未曽有の惨事を防いだルーキーのパーティーをDランクに上げたいと思うんだがのう。どうかね?」
「もし、受けなかった場合のデメリットがあるんですか?」
「そんなもんはないとも。あったとしてもわしが許さんがのう」
「じゃあ、受けたら、ランク上がって、色々なクエストが受けられるようになるんですよね。それって、僕達だけが得する気がするんですが?」
「期待のルーキーが活躍すれば、ギルドの名声にも繋がるからのう。それで充分なんだがのう」

 私にはそれだけとは思えないのですけれど、ジローのおじさまから私達への好意が含まれているのは確かですもの。
 何か、思惑があったとしても敢えて、乗ってみるのもありかしら?

 その後、ジローのおじさまと業務的な事務のやり取りを交わし、正式に三人ともDランク冒険者となりました。
 パーティー”真紅の夜明けクリムゾン・ドーン”もDランクのパーティーとなったので前より、条件が良いものが見つかるかもしれません。
 ギルドホールで待ってもらっていたアン達の姿を確認し、近寄ろうとした私とレオの前に何者かが立ちはだかるのでした。
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