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23 大広場で待ち合わせ、アヒルを添えて
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わたしは今、後悔している。
盛大ではなく、ほんの少しだけの後悔。
オリヴェルに協力を仰いだのは失敗だったかもしれない。
まさか、オリヴェルがあんなにもおしゃべりさんだったとは知らなかった。
彼と出会ったのはフェンネルだった。
夜の路地裏でいつものように占い師をしていた時、やってきたお客様がオリヴェルだ。
その時、彼は悩んでいた。
キャラの方向性に悩むとでも言えばいいんだろうか。
どちらかと言えば、口が重い物静かなタイプのように見えたオリヴェルがゆっくりと語り始めたのは、己の目指す方向が正しいのか分からずに迷子のようだという漠然とした話だった。
「ぼくが使いたいのはこれ」
じゃりじゃりと金属が擦れる音を立て、彼が見せてくれたのは見たことがない武器だ。
ぱっと見はメタリックな金属質の大きなウニが両端に付いた鎖にしか見えない。
多分、金属製の鋼球に棘状の突起を付けて、それを鎖で繋げた暗器だと思う。
「これをこうして」
子供くらいの背しかない小柄な体格で器用にメタリックなウニをぶんぶんと振り回している。
あの翼みたいな両手でどうやって、物を掴んでいるのかが謎だけど!
「こうする」
風を切って、勢いよくウニがわたしとシルのすぐ横を通り抜けていった。
冷や汗が一筋、背を伝ったのは言うまでもない。
一歩間違えたら、シルはともかく、わたしの顔が悲惨になったのに違いない。
そこは抗議するべき場面だったんだろうけど、占いのプロとしては動じている場合ではなかった。
『オリヴェルには翼の意味があるんじゃ』
杖を突いた老人の亡霊がそう呟いた。
翼。
それに鋼球。
何かを閃いたわたしはアドバイスした。
「あなたにとって、ボールは友達じゃない?」
「ボールが友達?」
自分でもかなり無理のある助言だったと思うが、フェンネルの冒険者ギルドに期待のルーキーが誕生したのだから正解だったんだろう。
前代未聞のパワーファイターを生み出しちゃった気がするけど!
そう。
オリヴェルはそれから、友人としての付き合いがあって、口下手だったはずなのだ。
それがどうなのよ。
くわくわくわくわ。
耳がおかしくなってきて、うっせーわと切れそうになる自分をどうにか抑えている。
そんなオリヴェルのくわくわうるさい一人語りをかれこれ、三十分は聞いた。
今、わたしがいるのはリジュボーで最も有名な広場。
この広場が中心地みたいなもので市街地へと続く、通りが伸びている。
だから、旅に出る際は広場を待ち合わせ場所にするのが最適らしい。
もっともこれは宿で聞いた受け売りだけど。
「すまない。少々、遅れてしまい……おや?」
通りの喧騒も凄いけど、広場もそれなりに騒がしい。
それでもあの王子様の声はよく通るのか、すぐに分かった。
耳に心地良い低音まで持っているなんて、顔だけでなく神様から色々とプレゼントされた人だこと!
今日は家来さんことリオネルが一緒ではないようだ。
クリスティアーノ王子の後ろに控える甲冑を着た人は違う人だった。
王子とあまり背が変わらない長身のお兄さんだ。
どちらかと言うと人懐こい童顔のリオネルと比べて、とっつきにくい感じがする。
険しい顔をしているように思えるのは奥目でどことなく表情も暗いせいだろうか。
無造作に伸びているだけとしか思えない黒い髪も適当に紐で結んだだけ。
後ろに強く引っ張りすぎのせいか、生え際がちょっと気になるんだけどね……。
「この子はオリヴェル。わたしの友人で信頼できる冒険者なので今回、手伝ってもらうことにしました?」
あまりじろじろと観察するのも悪いから、本題に入ったのはいいけど妙な空気だ。
あれ?
ちょっとまずいことをしたのだろうか。
王子様と家来さんが協議に入った。
協議というよりも王子様が耳打ちされている感じだから、勝手に仲間を増やしたのがまずかったかしら?
「もしかして、アナトラなのか? そうなのか? そうか。実に興味深いな」
新しいおもちゃを見つけた子供みたいに目を輝かせて、体をべたべたと触るもんだから、さっきまで怒涛のおしゃべり攻撃をしていたオリヴェルが押されて、おとなしくなっちゃった。
その勢いに置いていかれたのが、わたしと大きな家来さんだ。
だからって、家来さんが好意的かというとそうではない。
値踏みされているのとは違う居心地の悪さを視線に感じるから、嫌われているのかも……。
でも、名前は分かった。
ギャレス。
クリスティアーノ王子の護衛騎士で苦労人らしいことも分かった。
彼の後ろに薄ぼんやりと佇む半透明の中年男性がそう呟いていたから。
ギャレスとその亡霊の関係はよく分からない。
何とも難しい顔をして、ただ佇んでいる。
あの表情はあまりいい未来を示しているとは言えない。
何だか、出発前に出鼻を挫かれたような気がする……。
盛大ではなく、ほんの少しだけの後悔。
オリヴェルに協力を仰いだのは失敗だったかもしれない。
まさか、オリヴェルがあんなにもおしゃべりさんだったとは知らなかった。
彼と出会ったのはフェンネルだった。
夜の路地裏でいつものように占い師をしていた時、やってきたお客様がオリヴェルだ。
その時、彼は悩んでいた。
キャラの方向性に悩むとでも言えばいいんだろうか。
どちらかと言えば、口が重い物静かなタイプのように見えたオリヴェルがゆっくりと語り始めたのは、己の目指す方向が正しいのか分からずに迷子のようだという漠然とした話だった。
「ぼくが使いたいのはこれ」
じゃりじゃりと金属が擦れる音を立て、彼が見せてくれたのは見たことがない武器だ。
ぱっと見はメタリックな金属質の大きなウニが両端に付いた鎖にしか見えない。
多分、金属製の鋼球に棘状の突起を付けて、それを鎖で繋げた暗器だと思う。
「これをこうして」
子供くらいの背しかない小柄な体格で器用にメタリックなウニをぶんぶんと振り回している。
あの翼みたいな両手でどうやって、物を掴んでいるのかが謎だけど!
「こうする」
風を切って、勢いよくウニがわたしとシルのすぐ横を通り抜けていった。
冷や汗が一筋、背を伝ったのは言うまでもない。
一歩間違えたら、シルはともかく、わたしの顔が悲惨になったのに違いない。
そこは抗議するべき場面だったんだろうけど、占いのプロとしては動じている場合ではなかった。
『オリヴェルには翼の意味があるんじゃ』
杖を突いた老人の亡霊がそう呟いた。
翼。
それに鋼球。
何かを閃いたわたしはアドバイスした。
「あなたにとって、ボールは友達じゃない?」
「ボールが友達?」
自分でもかなり無理のある助言だったと思うが、フェンネルの冒険者ギルドに期待のルーキーが誕生したのだから正解だったんだろう。
前代未聞のパワーファイターを生み出しちゃった気がするけど!
そう。
オリヴェルはそれから、友人としての付き合いがあって、口下手だったはずなのだ。
それがどうなのよ。
くわくわくわくわ。
耳がおかしくなってきて、うっせーわと切れそうになる自分をどうにか抑えている。
そんなオリヴェルのくわくわうるさい一人語りをかれこれ、三十分は聞いた。
今、わたしがいるのはリジュボーで最も有名な広場。
この広場が中心地みたいなもので市街地へと続く、通りが伸びている。
だから、旅に出る際は広場を待ち合わせ場所にするのが最適らしい。
もっともこれは宿で聞いた受け売りだけど。
「すまない。少々、遅れてしまい……おや?」
通りの喧騒も凄いけど、広場もそれなりに騒がしい。
それでもあの王子様の声はよく通るのか、すぐに分かった。
耳に心地良い低音まで持っているなんて、顔だけでなく神様から色々とプレゼントされた人だこと!
今日は家来さんことリオネルが一緒ではないようだ。
クリスティアーノ王子の後ろに控える甲冑を着た人は違う人だった。
王子とあまり背が変わらない長身のお兄さんだ。
どちらかと言うと人懐こい童顔のリオネルと比べて、とっつきにくい感じがする。
険しい顔をしているように思えるのは奥目でどことなく表情も暗いせいだろうか。
無造作に伸びているだけとしか思えない黒い髪も適当に紐で結んだだけ。
後ろに強く引っ張りすぎのせいか、生え際がちょっと気になるんだけどね……。
「この子はオリヴェル。わたしの友人で信頼できる冒険者なので今回、手伝ってもらうことにしました?」
あまりじろじろと観察するのも悪いから、本題に入ったのはいいけど妙な空気だ。
あれ?
ちょっとまずいことをしたのだろうか。
王子様と家来さんが協議に入った。
協議というよりも王子様が耳打ちされている感じだから、勝手に仲間を増やしたのがまずかったかしら?
「もしかして、アナトラなのか? そうなのか? そうか。実に興味深いな」
新しいおもちゃを見つけた子供みたいに目を輝かせて、体をべたべたと触るもんだから、さっきまで怒涛のおしゃべり攻撃をしていたオリヴェルが押されて、おとなしくなっちゃった。
その勢いに置いていかれたのが、わたしと大きな家来さんだ。
だからって、家来さんが好意的かというとそうではない。
値踏みされているのとは違う居心地の悪さを視線に感じるから、嫌われているのかも……。
でも、名前は分かった。
ギャレス。
クリスティアーノ王子の護衛騎士で苦労人らしいことも分かった。
彼の後ろに薄ぼんやりと佇む半透明の中年男性がそう呟いていたから。
ギャレスとその亡霊の関係はよく分からない。
何とも難しい顔をして、ただ佇んでいる。
あの表情はあまりいい未来を示しているとは言えない。
何だか、出発前に出鼻を挫かれたような気がする……。
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