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8 赤ずきんと赤毛の王子
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影の正体は向こう側が透けて見える半透明の体を持った霊体だ。
彼らは少しばかり、古めかしい装束を着ているように見えた。
時代がかっているとでも言えば、いいのだろうか。
舞台演劇などで見るクラシカルな正装に似た服を着ている。
女性霊は緻密な刺繍が施されたドレスを着ているし、男性霊は刺繍の施された豪華なコートを着ている。
一言で言えば、華やか。
少なくとも平民ではないと一目で分かる亡霊達なのだ。
「占いを頼めるだろうか」
今宵のお客様は携帯式の椅子が壊れそうな勢いでどかっと腰掛けた。
背が高い。
ひょろひょろとして背が高いのではなく、服を着ていても分かる鍛えられた肉体の持ち主だと一目で分かった。
テーブルにお客様が置いたのは金貨一枚。
「あのお客様。お釣りは出せないのですが、よろしいですか?」
「かまわない。お釣りはチップとでも思ってくれ」
「か、かしこまりました」
座り方で態度が大きいように感じたけど、態度ではなく懐の広い人の間違いだったようだ。
金貨一枚は大金なんてものじゃない。
わたしの占いは銀貨一枚でもお釣りを出さないといけない。
金貨は銀貨十枚と同じだから、わたしが動揺して噛んだのも仕方のないことなのだ!
ここで普通の占い師であれば、「それでは何を占いましょうか」と声を続けるところだろう。
でも、生憎とわたしは普通でないのだ。
亡霊達が喋っている話に耳を傾け、時に疑問を投げつける。
これで視えてしまうのだから。
態度が大きくて、懐が広いのも頷けるお客様の正体が彼らの会話から分かった。
王子様でしたか、そうでしたか。
下々の者を相手にしたら、本人が無意識のうちに態度で出てしまうのだろう。
持って生まれたのと環境で見についてしまうものだから、仕方ないのかもしれない。
それでもお客様の王子の態度は鼻につくようなものではない。
尊大に思える態度も嫌味に感じないのはこの人が元から持っているカリスマとでも言うものなんだろう。
彼ら亡霊は構わずに彼らだけのお喋りを続けている。
そして、気になることを言い出した。
「死ぬ」「近く死ぬ」「禍なるかな」と不吉なことを言い始めたのだ。
それまでは目の前のお客様のことを褒めたり、けなしたりと忙しかった。
それが急にこの変わりようはどういうこと?
答えを導き出すべく、彼らに問いを投げかける。
はっきりとした答えは戻って来ない。
亡霊とはえてして、そういうものだからだ。
まるで推理小説でも読まされている感覚に陥ってくるが、これを読めないと占い師としての仕事ができない。
そして、分かったのは死の運命が近づいているのはお客様自身ではないということだった。
彼に近しい者の死が近づいている。
それを亡霊達は示唆しながら、嘆き悲しんでいるのだ。
彼らは「気を付けろ」「そこにいる」とさらなる意味深な言葉を口にした。
わたしはこれらをまとめて、お客様に伝えねばならない。
彼らは少しばかり、古めかしい装束を着ているように見えた。
時代がかっているとでも言えば、いいのだろうか。
舞台演劇などで見るクラシカルな正装に似た服を着ている。
女性霊は緻密な刺繍が施されたドレスを着ているし、男性霊は刺繍の施された豪華なコートを着ている。
一言で言えば、華やか。
少なくとも平民ではないと一目で分かる亡霊達なのだ。
「占いを頼めるだろうか」
今宵のお客様は携帯式の椅子が壊れそうな勢いでどかっと腰掛けた。
背が高い。
ひょろひょろとして背が高いのではなく、服を着ていても分かる鍛えられた肉体の持ち主だと一目で分かった。
テーブルにお客様が置いたのは金貨一枚。
「あのお客様。お釣りは出せないのですが、よろしいですか?」
「かまわない。お釣りはチップとでも思ってくれ」
「か、かしこまりました」
座り方で態度が大きいように感じたけど、態度ではなく懐の広い人の間違いだったようだ。
金貨一枚は大金なんてものじゃない。
わたしの占いは銀貨一枚でもお釣りを出さないといけない。
金貨は銀貨十枚と同じだから、わたしが動揺して噛んだのも仕方のないことなのだ!
ここで普通の占い師であれば、「それでは何を占いましょうか」と声を続けるところだろう。
でも、生憎とわたしは普通でないのだ。
亡霊達が喋っている話に耳を傾け、時に疑問を投げつける。
これで視えてしまうのだから。
態度が大きくて、懐が広いのも頷けるお客様の正体が彼らの会話から分かった。
王子様でしたか、そうでしたか。
下々の者を相手にしたら、本人が無意識のうちに態度で出てしまうのだろう。
持って生まれたのと環境で見についてしまうものだから、仕方ないのかもしれない。
それでもお客様の王子の態度は鼻につくようなものではない。
尊大に思える態度も嫌味に感じないのはこの人が元から持っているカリスマとでも言うものなんだろう。
彼ら亡霊は構わずに彼らだけのお喋りを続けている。
そして、気になることを言い出した。
「死ぬ」「近く死ぬ」「禍なるかな」と不吉なことを言い始めたのだ。
それまでは目の前のお客様のことを褒めたり、けなしたりと忙しかった。
それが急にこの変わりようはどういうこと?
答えを導き出すべく、彼らに問いを投げかける。
はっきりとした答えは戻って来ない。
亡霊とはえてして、そういうものだからだ。
まるで推理小説でも読まされている感覚に陥ってくるが、これを読めないと占い師としての仕事ができない。
そして、分かったのは死の運命が近づいているのはお客様自身ではないということだった。
彼に近しい者の死が近づいている。
それを亡霊達は示唆しながら、嘆き悲しんでいるのだ。
彼らは「気を付けろ」「そこにいる」とさらなる意味深な言葉を口にした。
わたしはこれらをまとめて、お客様に伝えねばならない。
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