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第三章 セラフィナ十六歳

第63話 悪妻、気付く

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 結局、やや寝不足で迎えた次の日、午後の紅茶を嗜んでいると執務室に呼ばれた。
 ノエミと顔を見合わせ、首を捻るけど特に呼ばれる理由はない。

「何か、あったかしら?」
「いいえ、今日は何もございませんよ」

 ノエミも同じく、首を傾げ、不思議そうな顔をしているから、私が大事なことを忘れていたという訳ではなさそうね。
 一体、何があるのかしら?

 執務室を訪ねるとモデストが机の上に広げた書状を前に難しい顔をしている。
 考えている顔はちょっと、愁いを帯びていて、悪くないわね。
 はっ!?
 何を考えているんだろう、私。
 昨夜の出来事まで思い出して、どうにも気が進まないんだけど……仕方がないわ。

「お待たせ致しました」

 意を決して部屋に入るとモデストは立ち上がって出迎えてくれる。
 相変わらず、顔だけはいいわ。
 顔だけは!
 直視出来なくて、思わず目を逸らしてしまったけど、あちらも目を逸らしているのだ。

「もしかして、もう結果が出ましたの?」
「ああ。先程、届いた」

 何故か、歯切れの悪い返事をする彼の様子に嫌な予感がする。

「それで結果は……」
「あ、ああ。マクシミリアノからな」
「ええ。それで……?」

 ぐぅ……まどろっこしい。
 ノエミに感謝しないといけないわ。
 髪を編み上げでアップにしてくれなかったら、今頃、逆立っていたでしょうね。
 これでも大分、風を抑えてますのよ?

「その、だな……全員、捕縛したそうだ」
「はい?」

 モデストの言葉の意味が分からず、私は思わず聞き返してしまった。
 捕縛?
 捕まえた? 全員を?
 手際が良すぎて、怖いんだけど……。

「ああ。物資の横流し行っていた者達を残らずなんだ」
「どういうことですの?」
「マクシミリアノが……動いた」

 はい?
 優秀ですものね。
 分かりますとも。
 ただ、分かるのだけど、何かおかしいわ。

「えっと、つまり?」
「マクシミリアノがほぼ、独力で解決したんだ」

 はい?
 あの人が優秀なことは知っているけど、そんな実力者だったの?
 もう少しくらい、解決までかかると思っていたのに……。

 しかもほぼ、一人の力で……どういうこと?
 私の頭の中に疑問符が飛び交う中、モデストは話を続ける。

「カリストも協力したんだ。他にも協力者がいたようだが、肝心の作戦を考えたのはマクシミアリアノだ」
「でも、良かったのではなくて? 解決出来たのは喜ぶべきことでしょ」
「ああ。それはそうなのだが……その……」

 珍しく言い淀むモデストの様子にちょっとした違和感を覚える。
 いつもならもっとはっきりと言うはずなのに変な人。

「どうしましたの?」
「ああ。それがさ……」

 モデストの話を聞いて、私は言葉を失った。

「馬鹿じゃないの」
「たまに君は身も蓋もないことを言うね」

 モデストが怒られて、しょげた仔犬のような表情を見せるけど、甘やかさないんだから。
 それだけの功労者をどうして、引き留めないのよ!
 『今回の失態は全て、私の不徳のなすところであります。私は暫し、流浪の身として精進したく思います』と申し出たマクシミリアノを慰労するだけでなく、引き留めるべきでしょう!!
 モデストは何と、それに対して、『そうか。分かった。君は我が友だ。いつでも待っている』しか、答えなかったのよ。
 馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なのよね?

「すまない。僕の判断ミスだ」
「ええ、そうね。」
「だが、しかし! 約束は約束だ。解決したのだ。だから、約束は守ってくれると信じている!」
「んんん? 約束……?」

 先程までしょげていたモデストの表情が変わった。
 瞳がキラキラと輝いて、眩しいっ!
 まるで捕食者みたいにも見えるし……。
 えっと、約束……そう、約束なのよね……あぁ、あの約束!?
 それで急に元気になったということなの?
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