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第二章 セラフィナ十四歳
第42話 悪妻、友と悩む
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正式な婚約届が提出されてから、あっという間に一ヶ月が経ってしまった。
長いようで短かったような奇妙な感覚だ。
これといって、特に妙な出来事はなかったんだけど、変わったこととがなかったと言えば、嘘になる。
タマラ先生から貰ったブレスレットが変わった魔道具だったようで一時期、私の手を離れていた。
先生のブレスレットは夜の色を帯びた不思議な魔石が嵌めらていた。
その石に問題がある――精神に作用する魔力が込められた可能性が高いと疑われたみたい。
国の研究機関でしっかりとした調査がされた。
結果は全くの白だ。
精神に作用するのではなく、装着者の魔力を正しい流れに導いてくれる働きがあるみたい。
だから、私の右手にはブレスレットが光り輝いてる。
先生との思い出とともに……。
今日は恒例の三人だけのお茶会を満喫してる。
前回は私が主催。
『グレンツユーバー侯爵家の名に恥じないお茶会を』とお母様が必要以上に気合を入れて、バックアップしてくれた。
そのお陰であまりに豪華すぎたのだ。
あれでは『お茶会』ではなく、『大お茶会』……。
出席者が多すぎなのよ。
今回はシルビアが担当して、パストゥスアゲル邸が会場になってる。
三人だけだから、会場も何もないんだけど、前回がおかしかっただけに違いない。
それにお茶会という名目だけど、毎回、対策会議を開いてるようなものだ。
パストゥスアゲル家のお庭はちょっと、変わった様式を採用しているらしい。
池には色とりどりのきれいな魚が優雅に泳いでいたり、白くてきれいな丸石が敷き詰められている。
何か、こう感情の根幹というか、感性を刺激してくるものだ。
アリーにはその何かが分かるみたい。
『これって、日本庭園だよね』と首を捻っていた。
そもそも、『にほん』とは何だろうというところから、疑問なんだけど。
彼女は自称ヒロインなだけではなく、異世界からやってきた異邦人でもある。
色々と思うところがあるんだろう。
「アリー、自信の方はどうなの?」
「ある訳ないでしょうがっ! 三級まで上がるのも大変だったんだよ」
「「だよね」」
アリーは入学時に五級だったクラスを三級まで上げたのだ。
どれだけの苦労と努力が伴ったのかはよく知ってる。
これからはそれ以上の努力と研鑽が求められる可能性が高い。
辛いだろう。
「実技の成績だけなら、間違いなく一級なのにね」
「セナ、それは冒険者活動で鍛えられているだけですわ。アリーに足りないのはその頭をもっと活用することですもの」
「それが出来たら、苦労しないっての!」
薄いピンク色のふわっとした綿菓子のような髪が乱れるのも構わず、ぐしゃぐしゃと掻きむしるアリーの姿を見苦しいと言う人もいる。
だけど、感情が豊かで見ていて、飽きないのだ。
目まぐるしく動き回る小動物を愛でる感情に近いかもしれない。
そんなことをうっかり、口にしたら、もっと面白くなるだろうけど……それ以上に面倒なことになりそうだ。
やめておこう。
シルビアなんて、文句を言いながらも結局、いつもアリーを助けてるのは助けないと苦労が倍になるのを学んだからに他ならない。
「でも、一級にならないと認められないって、言われたんでしょう?」
「うん……」
「どうしましょう?」
「どうするって、試験までどうにかして、頭に詰め込むしかないんじゃない? 『やればできる!』って、喜劇俳優も言ってたわ」
「そんな他人事みたいに言わないでよぉぉぉ」
他人事ではあるんだけど、他人事として、捨て置く訳にはいかない事情がある。
殺されないで済む明るい未来。
そう。
ハッピーライフを送るには無能ではないけど、役に立たないウルバノでは心許ないのよ。
信頼が出来る味方として、王子という肩書を持つチコには是非とも頑張ってもらわないといけないのだ。
大事な友人であり、事情をよく知っているアリーがチコと結ばれれば、これほど心強いことはないだろう。
でも、大きな問題がある。
アリーが男爵令嬢だから、身分差を理由に方々から、反対意見が出されていたのだ。
それもこの二年の間、チコとアリーの真摯に努力する姿と成果を見せたことで大分、軟化してきてる。
そして、アリーが一級クラスへ昇級することを条件に婚約者として正式に認めると伯父様が公の場で宣言したのだ。
国王による公の場で発言に逆らえるものなどいないだろう。
こうして、今のアリーの状況に繋がるのだ。
「分かってる。アリー、ただ詰め込むだけじゃ駄目だったわ」
「うふふふ……ねぇ、セナ。変身魔法でちょちょいのちょいではありませんの?」
「それは駄目でしょ。バレたら、アリーだけの問題で済まなくなるのよ?」
「バレなきゃ、いいんじゃない?」
「そうですわ。嘘も嘘とバレなければ、真実になりますのよ」
「あなたたち……真面目に考えなさいよ! 現実逃避をしても一級には上がれないんだからね」
「「はぁい」」
変身魔法でアリーに化けて、替え玉受験。
恐らく、不可能ではないだろう。
そして、バレずに遂行出来ると思う。
ただ、やってはいけないことだ。
そんな現実逃避の考えに走るほど、いい手がない現状。
三人で勉強会をしていると着実にアリーが良くなってきてるのは分かってる。
模擬試験でも二級レベルの実力があることは確かなのだ。
何だろう、何かが足りないのかな。
「チコには頼めないしぃぃぃ」
「何か、いい手はないかしらね」
「そうですわね」
三人とも手詰まり感が否めず、その日のお茶会は少々、重苦しい雰囲気の中、終わった。
次の日、思わぬ援軍が現れ、この問題が解決へと向かうなんて、その時の私は知る由もないのだった。
長いようで短かったような奇妙な感覚だ。
これといって、特に妙な出来事はなかったんだけど、変わったこととがなかったと言えば、嘘になる。
タマラ先生から貰ったブレスレットが変わった魔道具だったようで一時期、私の手を離れていた。
先生のブレスレットは夜の色を帯びた不思議な魔石が嵌めらていた。
その石に問題がある――精神に作用する魔力が込められた可能性が高いと疑われたみたい。
国の研究機関でしっかりとした調査がされた。
結果は全くの白だ。
精神に作用するのではなく、装着者の魔力を正しい流れに導いてくれる働きがあるみたい。
だから、私の右手にはブレスレットが光り輝いてる。
先生との思い出とともに……。
今日は恒例の三人だけのお茶会を満喫してる。
前回は私が主催。
『グレンツユーバー侯爵家の名に恥じないお茶会を』とお母様が必要以上に気合を入れて、バックアップしてくれた。
そのお陰であまりに豪華すぎたのだ。
あれでは『お茶会』ではなく、『大お茶会』……。
出席者が多すぎなのよ。
今回はシルビアが担当して、パストゥスアゲル邸が会場になってる。
三人だけだから、会場も何もないんだけど、前回がおかしかっただけに違いない。
それにお茶会という名目だけど、毎回、対策会議を開いてるようなものだ。
パストゥスアゲル家のお庭はちょっと、変わった様式を採用しているらしい。
池には色とりどりのきれいな魚が優雅に泳いでいたり、白くてきれいな丸石が敷き詰められている。
何か、こう感情の根幹というか、感性を刺激してくるものだ。
アリーにはその何かが分かるみたい。
『これって、日本庭園だよね』と首を捻っていた。
そもそも、『にほん』とは何だろうというところから、疑問なんだけど。
彼女は自称ヒロインなだけではなく、異世界からやってきた異邦人でもある。
色々と思うところがあるんだろう。
「アリー、自信の方はどうなの?」
「ある訳ないでしょうがっ! 三級まで上がるのも大変だったんだよ」
「「だよね」」
アリーは入学時に五級だったクラスを三級まで上げたのだ。
どれだけの苦労と努力が伴ったのかはよく知ってる。
これからはそれ以上の努力と研鑽が求められる可能性が高い。
辛いだろう。
「実技の成績だけなら、間違いなく一級なのにね」
「セナ、それは冒険者活動で鍛えられているだけですわ。アリーに足りないのはその頭をもっと活用することですもの」
「それが出来たら、苦労しないっての!」
薄いピンク色のふわっとした綿菓子のような髪が乱れるのも構わず、ぐしゃぐしゃと掻きむしるアリーの姿を見苦しいと言う人もいる。
だけど、感情が豊かで見ていて、飽きないのだ。
目まぐるしく動き回る小動物を愛でる感情に近いかもしれない。
そんなことをうっかり、口にしたら、もっと面白くなるだろうけど……それ以上に面倒なことになりそうだ。
やめておこう。
シルビアなんて、文句を言いながらも結局、いつもアリーを助けてるのは助けないと苦労が倍になるのを学んだからに他ならない。
「でも、一級にならないと認められないって、言われたんでしょう?」
「うん……」
「どうしましょう?」
「どうするって、試験までどうにかして、頭に詰め込むしかないんじゃない? 『やればできる!』って、喜劇俳優も言ってたわ」
「そんな他人事みたいに言わないでよぉぉぉ」
他人事ではあるんだけど、他人事として、捨て置く訳にはいかない事情がある。
殺されないで済む明るい未来。
そう。
ハッピーライフを送るには無能ではないけど、役に立たないウルバノでは心許ないのよ。
信頼が出来る味方として、王子という肩書を持つチコには是非とも頑張ってもらわないといけないのだ。
大事な友人であり、事情をよく知っているアリーがチコと結ばれれば、これほど心強いことはないだろう。
でも、大きな問題がある。
アリーが男爵令嬢だから、身分差を理由に方々から、反対意見が出されていたのだ。
それもこの二年の間、チコとアリーの真摯に努力する姿と成果を見せたことで大分、軟化してきてる。
そして、アリーが一級クラスへ昇級することを条件に婚約者として正式に認めると伯父様が公の場で宣言したのだ。
国王による公の場で発言に逆らえるものなどいないだろう。
こうして、今のアリーの状況に繋がるのだ。
「分かってる。アリー、ただ詰め込むだけじゃ駄目だったわ」
「うふふふ……ねぇ、セナ。変身魔法でちょちょいのちょいではありませんの?」
「それは駄目でしょ。バレたら、アリーだけの問題で済まなくなるのよ?」
「バレなきゃ、いいんじゃない?」
「そうですわ。嘘も嘘とバレなければ、真実になりますのよ」
「あなたたち……真面目に考えなさいよ! 現実逃避をしても一級には上がれないんだからね」
「「はぁい」」
変身魔法でアリーに化けて、替え玉受験。
恐らく、不可能ではないだろう。
そして、バレずに遂行出来ると思う。
ただ、やってはいけないことだ。
そんな現実逃避の考えに走るほど、いい手がない現状。
三人で勉強会をしていると着実にアリーが良くなってきてるのは分かってる。
模擬試験でも二級レベルの実力があることは確かなのだ。
何だろう、何かが足りないのかな。
「チコには頼めないしぃぃぃ」
「何か、いい手はないかしらね」
「そうですわね」
三人とも手詰まり感が否めず、その日のお茶会は少々、重苦しい雰囲気の中、終わった。
次の日、思わぬ援軍が現れ、この問題が解決へと向かうなんて、その時の私は知る由もないのだった。
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