48 / 83
第二章 セラフィナ十四歳
第41話 悪妻、姦しく生きる
しおりを挟む
トリフルーメの王子であるモデストとの婚約。
当事者である私の知らないうちにとんとん拍子で話が進んでいるようだ。
そりゃ、話を進めてもいいと言ったのは私だけど、複雑な気分。
行われる予定だった婚約式は中止ではなく、無期限延期と決まった。
卒業後はなし崩し的に嫁ぐのだから、もう中止でいいと思うんだけど。
それなのに婚約届だけは提出されたようで……。
色々と飛ばして、正式な婚約関係になってしまったのだ。
「でも、これでセナも私と同じになりましたのね。嬉しいですわ」
「二人ともずるいわぁ。あたしも早く、婚約したいよぉ」
学園に復帰した私はシルビアとアリーと一緒に中庭のガゼボで昼食をとっている。
女三人寄れば何とか、なのかしら?
いわゆるガールズトークに花が咲いて、箸が進むよりもお話に夢中になってしまうのはしょうがないことだろう。
食べるのも大事だけど、お喋りも大事なのだ。
「それでセナ。お相手の方はどうだったの?」
「え?」
「え? じゃないってば。王子様なんでしょ? どんな人?」
「さぁ? 良く知らないのよね。政略結婚だし?」
「いやいや! おかしいでしょ」
「ええ、おかしいですわ」
オムレツを口に含みながら、詰めてくる二人の凄みに私はタジタジだ。
どうして、そんなに圧をかけてくるのよ!?
「政略結婚でもしっかり、お相手と意思を疎通しないといけませんわ。どのような方か、分からなければ、一生添い遂げることなんて、出来はしませんのよ?」
「そうだよ、セナ! 愛が全てだよ、愛なき人生なんて、ダメだよ」
「う、うん。そだねー」
二人とも鼻息が荒すぎて、怖いくらいだ。
私は興味ないんだけど、そんなに気になる?
出来たら、私には不干渉な人だといいと思う。
私も不干渉でお互いに空気みたいなものでいいんじゃない?
そうしたら、冒険者活動も出来て……んんん?
一国の王妃たる者が冒険者活動はまずい気がしてきたかも。
「モデスト王子って、確か、入学式で新入生の代表を務めてなかった?」
「そうですの?」
「へぇ、優秀な人なのね」
私は暫く、学園を休んでいたので入学式の様子を知らない。
シルビアも欠席したらしくて、よく知らないみたい。
どうしても、薄い反応になってしまうのはしょうがないのだ。
むしろ、やる気が有り余っているアリーが不思議に思える。
「だから、セナはどうして、そう興味がないのよ? 王子だよ? 婚約者だよ? もっと興味持とうよっ」
「う、うん。それがね……」
自分の身に起きた不思議な症状について、語ることにした。
皆のことを忘れた訳ではない。
自分のことも覚えてる。
前世で三十七年間生きたことも最期は殺されたことも覚えてる。
それなのにモデストというたった一人の男のことだけがすっぽりと抜け落ちているのだ。
そう言うと二人とも何とも言えない複雑な表情になったので私も困ってしまう。
「ごめんね。変な話しちゃって」
「辛いのはセナですわ」
「そうよ。知らなかったからって、あたしこそ、ごめんね」
「ううん、いいのよ。大したことないし」
「「そうな(です)の!?」」
そんなに大した問題ではない。
日常生活には支障ない。
どうせ分からないのなら、これから知ればいいだけなのだ。
そう考えれば、楽だと思う。
また、無意識のうちに右手のブレスレットを触ると不思議と勇気が湧いてくる気がする。
結局、アリーに押し切られる形で件の婚約者様の顔を拝みに行く羽目になった。
学園は学年別に階で区分けされているのだ。
そして、卒業を控える四年生だけは別校舎に分けられている。
一級から、五級という成績順のクラス分けも全学年共通のルールである。
モデスト・トリフルーメは一学年の一級クラス。
どうやら、私の婚約者は相当に優秀らしい。
三人でこっそり、見に来たつもりなんだけど……。
なぜか、私達の方が見られている感じがするのは気のせいかしら?
気にして、どうにかなるものではないから、気にしないけど。
「何方がモデスト殿下なのかしら?」
「黒髪でお目目も黒曜石という噂ですのよ。もしかして、あの御方では?」
「ち、ちょっと……あたしら、目立ちすぎてない?」
私とシルビアはどちらかと言えば、周囲の状況に無頓着な方だ。
二人ともアリーが言うところの悪役令嬢なのだ。
気にするだけ、無駄だと考えてる。
前世では友達もいなかった。陰口を叩かれて、陰湿ないじめも受けた。
何と言う孤独な学生生活だったんだろう。
好奇の視線を向けられるくらい、どうということないわ。
「あれがモデスト殿下?」
そのクラスに黒い髪と瞳の少年は一人しか、いなかった。
切れ長の目からは意思の強さだけではなく、激しい気性が垣間見えている。
雰囲気は物静かなのに内に燃え盛る炎のような激しさを秘めている。
そんな風に感じられたのだ。
そして、不思議なことがあるものだとも思った。
私が良く知ってる友人にあまりに似ているからだ。
「イディに良く似てるのね。世の中、似てる人が三人いるって、言うけど不思議なこともあるものね」
「そ、そうね。不思議ですわね」
「ほ、ほんと。もしかしたら、学園七不思議かもよ」
腕を組み、うんうんと一人頷く私にシルビアとアリーは微妙な顔をしてる。
シルビアが軽くアリーを肘で小突いたように見えた。
何なのかしら?
何だか、変な感じがするわ。
その時の私はまだ、何も知ることのない愚か者に過ぎなかったんだろう。
友人のやや慌てたような仕草に気付くこともなく、気心が知れた冒険者仲間に似た婚約者となら、うまくいくかもしれないと淡い希望を抱いていたのだから。
当事者である私の知らないうちにとんとん拍子で話が進んでいるようだ。
そりゃ、話を進めてもいいと言ったのは私だけど、複雑な気分。
行われる予定だった婚約式は中止ではなく、無期限延期と決まった。
卒業後はなし崩し的に嫁ぐのだから、もう中止でいいと思うんだけど。
それなのに婚約届だけは提出されたようで……。
色々と飛ばして、正式な婚約関係になってしまったのだ。
「でも、これでセナも私と同じになりましたのね。嬉しいですわ」
「二人ともずるいわぁ。あたしも早く、婚約したいよぉ」
学園に復帰した私はシルビアとアリーと一緒に中庭のガゼボで昼食をとっている。
女三人寄れば何とか、なのかしら?
いわゆるガールズトークに花が咲いて、箸が進むよりもお話に夢中になってしまうのはしょうがないことだろう。
食べるのも大事だけど、お喋りも大事なのだ。
「それでセナ。お相手の方はどうだったの?」
「え?」
「え? じゃないってば。王子様なんでしょ? どんな人?」
「さぁ? 良く知らないのよね。政略結婚だし?」
「いやいや! おかしいでしょ」
「ええ、おかしいですわ」
オムレツを口に含みながら、詰めてくる二人の凄みに私はタジタジだ。
どうして、そんなに圧をかけてくるのよ!?
「政略結婚でもしっかり、お相手と意思を疎通しないといけませんわ。どのような方か、分からなければ、一生添い遂げることなんて、出来はしませんのよ?」
「そうだよ、セナ! 愛が全てだよ、愛なき人生なんて、ダメだよ」
「う、うん。そだねー」
二人とも鼻息が荒すぎて、怖いくらいだ。
私は興味ないんだけど、そんなに気になる?
出来たら、私には不干渉な人だといいと思う。
私も不干渉でお互いに空気みたいなものでいいんじゃない?
そうしたら、冒険者活動も出来て……んんん?
一国の王妃たる者が冒険者活動はまずい気がしてきたかも。
「モデスト王子って、確か、入学式で新入生の代表を務めてなかった?」
「そうですの?」
「へぇ、優秀な人なのね」
私は暫く、学園を休んでいたので入学式の様子を知らない。
シルビアも欠席したらしくて、よく知らないみたい。
どうしても、薄い反応になってしまうのはしょうがないのだ。
むしろ、やる気が有り余っているアリーが不思議に思える。
「だから、セナはどうして、そう興味がないのよ? 王子だよ? 婚約者だよ? もっと興味持とうよっ」
「う、うん。それがね……」
自分の身に起きた不思議な症状について、語ることにした。
皆のことを忘れた訳ではない。
自分のことも覚えてる。
前世で三十七年間生きたことも最期は殺されたことも覚えてる。
それなのにモデストというたった一人の男のことだけがすっぽりと抜け落ちているのだ。
そう言うと二人とも何とも言えない複雑な表情になったので私も困ってしまう。
「ごめんね。変な話しちゃって」
「辛いのはセナですわ」
「そうよ。知らなかったからって、あたしこそ、ごめんね」
「ううん、いいのよ。大したことないし」
「「そうな(です)の!?」」
そんなに大した問題ではない。
日常生活には支障ない。
どうせ分からないのなら、これから知ればいいだけなのだ。
そう考えれば、楽だと思う。
また、無意識のうちに右手のブレスレットを触ると不思議と勇気が湧いてくる気がする。
結局、アリーに押し切られる形で件の婚約者様の顔を拝みに行く羽目になった。
学園は学年別に階で区分けされているのだ。
そして、卒業を控える四年生だけは別校舎に分けられている。
一級から、五級という成績順のクラス分けも全学年共通のルールである。
モデスト・トリフルーメは一学年の一級クラス。
どうやら、私の婚約者は相当に優秀らしい。
三人でこっそり、見に来たつもりなんだけど……。
なぜか、私達の方が見られている感じがするのは気のせいかしら?
気にして、どうにかなるものではないから、気にしないけど。
「何方がモデスト殿下なのかしら?」
「黒髪でお目目も黒曜石という噂ですのよ。もしかして、あの御方では?」
「ち、ちょっと……あたしら、目立ちすぎてない?」
私とシルビアはどちらかと言えば、周囲の状況に無頓着な方だ。
二人ともアリーが言うところの悪役令嬢なのだ。
気にするだけ、無駄だと考えてる。
前世では友達もいなかった。陰口を叩かれて、陰湿ないじめも受けた。
何と言う孤独な学生生活だったんだろう。
好奇の視線を向けられるくらい、どうということないわ。
「あれがモデスト殿下?」
そのクラスに黒い髪と瞳の少年は一人しか、いなかった。
切れ長の目からは意思の強さだけではなく、激しい気性が垣間見えている。
雰囲気は物静かなのに内に燃え盛る炎のような激しさを秘めている。
そんな風に感じられたのだ。
そして、不思議なことがあるものだとも思った。
私が良く知ってる友人にあまりに似ているからだ。
「イディに良く似てるのね。世の中、似てる人が三人いるって、言うけど不思議なこともあるものね」
「そ、そうね。不思議ですわね」
「ほ、ほんと。もしかしたら、学園七不思議かもよ」
腕を組み、うんうんと一人頷く私にシルビアとアリーは微妙な顔をしてる。
シルビアが軽くアリーを肘で小突いたように見えた。
何なのかしら?
何だか、変な感じがするわ。
その時の私はまだ、何も知ることのない愚か者に過ぎなかったんだろう。
友人のやや慌てたような仕草に気付くこともなく、気心が知れた冒険者仲間に似た婚約者となら、うまくいくかもしれないと淡い希望を抱いていたのだから。
0
お気に入りに追加
792
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる