上 下
29 / 83
第一章 セラフィナ十二歳

第27話 悪妻、暴露する

しおりを挟む
 これは私の私による『幸せ人生計画』の構想になかった展開だわ。

 とりあえず、最初は殺されたくない。
 それが重要だった。
 でも、それだけじゃ、駄目なのだ。
 大事な人も守っていかなきゃいけない。
 そう思って動いていたら、もっと先の未来で会うはずのシルビアと友人になった。
 そして、今だ。
 前世では会うことすらなかったアレシアと友人になった。
 これは私にとっての幸運なのか、それとも……。

「ねぇ、アリー。あなたのその知ってる『げーむ』とやらで未来はどうなるの?」
「そうね。それは気になるわ」

 やや前のめり気味な私達にアリーが引いている気がするけど、これは重要だ。
 彼女が何らかの知識を手引きとして、奇妙な行動を取っていた可能性がある。
 明らかに私の動きを知っているかのような動きを見せていたからだ。

「あ、それ? 主人公あたしは平民として生きてきて、実は男爵家の娘だって分かって、貴族令嬢になるの。これはあたしと同じでしょ」
「そうね。よくある訳ではないけど、珍しいというほどではないわね。庶子を引き取る貴族はそこそこ、いるはずだわ」
「それでね。学園の入学式で偶然、王子様と出会うんだけど、そこが違ったのよね。出会ったのが王子様じゃなくて、セナだった!」

 なるほど。
 それで私に体当たりをしてきたの?
 完全に八つ当たりじゃない。

「問題はそこじゃないわ。王子様と愛を育んでからの話が大事なの」
「えっと、確か、王子様には婚約者がいるんだけどさ。卒業式のパーティーでその子に婚約破棄を宣言して、新たな婚約者に指名されて……」
「すごい展開ね」

 王族の婚約を卒業式のパーティーで破棄するなんて、まともな神経をしているとは思えないわ。
 貴族の婚姻で恋愛結婚は珍しいのだ。
 政略結婚が主流で契約に基づいている以上、簡単に破棄や解消出来るものではない。
 王族だったら、尚更だ。
 そんな無謀な婚約破棄をしたら、廃嫡どころか、王族から追放されるんじゃないかしら?

「王子様とヒロインは幸せになりましたというエンディングを迎えるのよ」
「「え?」」

 シルビアと思わず、声を揃えてしまった。
 頭の中には疑問符がたくさん浮かんでくる。
 おかしいでしょ!
 急に婚約者になって、お終いで幸せになれると思ってるなら、正気じゃないわね。

「え? 何か、おかしいとこ、あった?」

 むしろ、おかしいところしか、なかった気がするわ。
 どこから、どう突っ込むべきかな。

「アリー。それでは誰も幸せになれないわ。だって……」

 これは言うべきよね?
 でも、アリーが本当にヒロインなら、未来を変えられかもしれない。

「この国は七年後に侵略されるのよ?」
「はぁ!?」

 アリーが椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がるから、周囲からの視線を感じる。
 シルビアが代わりに『皆さん、すみません』と謝ってくれる。
 彼女の立ち振る舞いのお陰で大分、救われてるのよね。

「私、セラフィナとして、三十七歳まで生きたって、言ったでしょ。私が十九歳になった年に陛下が……ね。それでこの国はエンディア王国の侵略を受けるの」

 長男と長女。
 私は一男一女を儲け、妻としての役目を果たした。
 これでモデストと少しはまともな関係を築けると思っていた。
 ところがヨシフ伯父様がエンディアのノエル王の奸計によって、騙し討ちにあったのだ。
 これは寝耳に水どころの騒ぎじゃなかったわ。
 大黒柱とも言うべき伯父様を失ってからの転落ったら、なかったもん。

「そ、それって、え? どういうこと?」
「ほとんどの領地を奪われるのよ。ウルバノ王太子が王位につくんだけど、その後は酷い物だったわ。連戦連敗だったのよ。疑心暗鬼に陥ったウルバノが家臣の妻子を人質に出すように強要してから、この国は悪夢に陥った地獄そのものよ」

 おまけにモデストがよりにもよって、このタイミングで独立したのだ。
 さらに仇敵のノエル王と同盟したもんだから、人質になってる私がどういう扱いを受けたか……。
 そして、お父様とお母様がどうなったかを考えるとモデスト許すまじ!
 平手打ちを一度や二度したくなってきたわ。

「じゃあ、私達はそれまでにどうすればいいか、ということなの。ね、シルビア?」
「ええ、そうですわね。一緒に精進しましょうね、アリーさん」

 こういう時のシルビアの笑顔が本当に怖いんですけど!
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

処理中です...