上 下
9 / 83
第一章 セラフィナ十二歳

閑話 愚者の想い

しおりを挟む
????視点

 もうすぐ君に会える。
 手放すべきではなかった。
 閉じ込めておくべきだったんだ。

 だが、また、君に会える。
 お互いにまた、一からやり直せばいいんだ。
 あの時、突き放すような言い方をしてきた君の姿は眩しかった。
 太陽が地上に降り立つときっと君のように美しく……

 おや? おかしいな。
 これは誰だ?
 やや潤んだ大きな目にエメラルドグリーンの瞳が輝いていて、僕を見つめている。
 そこには驚きと不安が入り混じった明らかな揺らぎが見えた。

 あの時、巷で話題の悪役令嬢のように幾重にも巻かれていた豪奢な金色の髪。
 今は真っ直ぐ流れる黄金の川のように君を飾っている。
 その顔は確かに君なのに作ったようではない。
 ありのままに自然な彼女ということだろうか?
 これがナチュラルな美しさか。
 君が生き生きとした表情で僕を見つめてくれるだけでとても満たされる。
 ああ、何と気持ちいいんだろう。

 しかし、いけない。
 慎まなくてはならない。
 今の僕はきっと弛んだだらしのない顔をしているだろう。
 こんな顔を見られたら、嫌われてしまう。
 君に嫌われたらと考えるだけで僕はどうすればいいか、分からなくなる。

 こういう時はどうすればいいのか?
 三十六計逃げるに如かず。
 その時、かつて師から学んだ教えが頭をよぎった。
 そういうことか。
 彼女と視線が合うたびにあらぬ方向を見ればいいのだ。
 顔も見られないように背けることにした。
 なるほど。
 これなら、君の顔を見て、にやけている気持ち悪い姿を見られない。
 何と言う妙案だろう。

 顔を背けながらも君の顔が気になって、様子をうかがうと桜色に上気した顔で僕を見つめてくる君がいる。
 心臓の鼓動が早過ぎ、気分が悪くなってきた。
 このままでは心臓が口から、飛び出るのではないかと思えるくらいに早い。
 ああ、このまま、君に看取られて逝けるなら、それも悪くない。
 そう思うと『ふひっ』と自分でも気味が悪くなるような声が出ていた。

 彼女にはどうやら、気付かれなかったようだ。
 だが、これはまずい。
 出来るだけ、口を開かないようにするしかないか。
 『沈黙は金、雄弁は銀』と言うではないか。
 黙っておくのが一番だ。

 おや? 彼女が俯き、ブツブツと何かを呟き始めたぞ。
 長い髪と俯いているせいでその表情がうかがい知れない。

 そして、はっきりと感じられるほどの魔力の奔流が君の中から、はっきりと感じられた。
 君はそんな力を持っていたのか?
 驚く僕を他所よそに君との顔合わせは唐突に終わりを告げられた。

 しかし、僕は確実な手応えを感じている。
 君が僕のことをどれだけ、想っているのか、理解した(つもり)だ。
 正式な婚約を結べる日が実に待ち遠しい。
 考えるだけで顔がまた、だらしなくにやけ、『ふひっ』と笑ってしまいそうになる自分に唖然とする。
 これは次に会える時までにどうにか、しないといけないようだ……。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

処理中です...