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第二部 偽りから生まれる真実
第50話 私の心は彷徨う
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お仕事が終わったので商人ギルドへと急ぎます。
表の仕事は本来、なかったのでシルさんが変に思うかもしれません。
彼に疑われて、離婚されたら困ります。
生活に支障が出てしまいますし、お仕事にだって影響が……。
いいえ、違います。
そうではないんです。
嫌です。
私が嫌なのです。
心が求めてくる。
こんなことは今までにありませんでした。
パミュさん。
シルさん。
お二人と離れたくないと考えている自分がいるのです。
「変ではないでしょうか?」
ショーウインドウで予め、身嗜みをチェックしながら、つい呟いてしまいました。
周りに誰もいなくて、良かった。
いけません!
ほっとしている場合ではありませんでした。
今回は大丈夫。
前回のようなヘマはしません。
身嗜みを整えようとして、その現場を見られるなんて、あってはいけません。
着く前に変なところがないのか、チェックをしたので抜かりありません。
服もシルさんが選んでくれた物です。
問題ありません。
気になるのは身に覚えのない左手薬指の僅かな裂傷でしょうか?
殊更、気にするほどの傷ではありませんが、ちょっと気にかかります。
「よし♪」
前回、商人ギルドを訪れた時はシルさんの不意打ちを喰らいましたが、今回はそうはいきません。
私の勝ちです。
表玄関も閉じられているので中で待つことは出来ません。
内々で済ませられる業務しか、行えないのでしょうか?
外で待つとしましょう。
慣れています。
迷える仔羊さんを寒空の下で待っていたのに比べたら、どうということありません。
それから、どのくらいの時が過ぎたのでしょう。
通りを歩く人の流れから、考えるとそんなに経っていないと思います。
「アリーさん」
良く知っている落ち着きのある声に不意に名を呼ばれ、振り向くとこちらに向かって、歩いてくるシルさんの姿がありました。
商人ギルドの建物の横にある細道から、出てきたところを見ると裏口があったのでしょうか?
「すみません。お待たせしてしまったみたいですね」
「いいえ、そんなことはありません。そんなに待っていませんし」
「それでは帰りましょうか」
「はい」
何気ない会話を交わし、微笑みながら連れ添うように一緒に歩いていると勘違いしちゃいます……。
まるで本物の夫婦みたい。
本当は違うのに……。
シルさんはどう思っているのでしょうか?
聞いてみたいですが、もしも断られたらと思うと怖いのです。
私達の関係にそのような条項はありません。
互いに利がある契約結婚なだけ。
一方的に私の感情を押し付けて、迷惑がられたら……それで解消されたら、私はどうすればいいのでしょう。
「あら? お顔に傷が……」
「ああ。これですか」
色々な考えが頭を過ぎっていたせいですね。
シルさんの右頬に微かな裂傷があります。
何か、鋭い物で引っ掻かれたような傷といった感じです。
猫ちゃんにちょっと引っ搔かれたのに似ています。
先程のお仕事で私が付けた傷に似ているのですが、気のせいですよね?
表の仕事は本来、なかったのでシルさんが変に思うかもしれません。
彼に疑われて、離婚されたら困ります。
生活に支障が出てしまいますし、お仕事にだって影響が……。
いいえ、違います。
そうではないんです。
嫌です。
私が嫌なのです。
心が求めてくる。
こんなことは今までにありませんでした。
パミュさん。
シルさん。
お二人と離れたくないと考えている自分がいるのです。
「変ではないでしょうか?」
ショーウインドウで予め、身嗜みをチェックしながら、つい呟いてしまいました。
周りに誰もいなくて、良かった。
いけません!
ほっとしている場合ではありませんでした。
今回は大丈夫。
前回のようなヘマはしません。
身嗜みを整えようとして、その現場を見られるなんて、あってはいけません。
着く前に変なところがないのか、チェックをしたので抜かりありません。
服もシルさんが選んでくれた物です。
問題ありません。
気になるのは身に覚えのない左手薬指の僅かな裂傷でしょうか?
殊更、気にするほどの傷ではありませんが、ちょっと気にかかります。
「よし♪」
前回、商人ギルドを訪れた時はシルさんの不意打ちを喰らいましたが、今回はそうはいきません。
私の勝ちです。
表玄関も閉じられているので中で待つことは出来ません。
内々で済ませられる業務しか、行えないのでしょうか?
外で待つとしましょう。
慣れています。
迷える仔羊さんを寒空の下で待っていたのに比べたら、どうということありません。
それから、どのくらいの時が過ぎたのでしょう。
通りを歩く人の流れから、考えるとそんなに経っていないと思います。
「アリーさん」
良く知っている落ち着きのある声に不意に名を呼ばれ、振り向くとこちらに向かって、歩いてくるシルさんの姿がありました。
商人ギルドの建物の横にある細道から、出てきたところを見ると裏口があったのでしょうか?
「すみません。お待たせしてしまったみたいですね」
「いいえ、そんなことはありません。そんなに待っていませんし」
「それでは帰りましょうか」
「はい」
何気ない会話を交わし、微笑みながら連れ添うように一緒に歩いていると勘違いしちゃいます……。
まるで本物の夫婦みたい。
本当は違うのに……。
シルさんはどう思っているのでしょうか?
聞いてみたいですが、もしも断られたらと思うと怖いのです。
私達の関係にそのような条項はありません。
互いに利がある契約結婚なだけ。
一方的に私の感情を押し付けて、迷惑がられたら……それで解消されたら、私はどうすればいいのでしょう。
「あら? お顔に傷が……」
「ああ。これですか」
色々な考えが頭を過ぎっていたせいですね。
シルさんの右頬に微かな裂傷があります。
何か、鋭い物で引っ掻かれたような傷といった感じです。
猫ちゃんにちょっと引っ搔かれたのに似ています。
先程のお仕事で私が付けた傷に似ているのですが、気のせいですよね?
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