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第二部 偽りから生まれる真実
第47話 彼は彼女と仕事をする
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(アーベント視点)
青い鳥作戦の要はリューリク公国最後の公女エリザヴェータ・チェムノタリオトの確保。
最重要事項であると理解している。
だが、その公女にもっとも近いと思われる件の人物が、今回の緊急任務の相棒だと誰が考えるだろうか……。
全くの想定外だった。
それでも常に冷静たれ。
これがナイト・ストーカーの鉄則である。
息を荒げず、心拍数を乱さず。
しかし、件の人物――『黎明の聖女』こと薔薇姫。あちらの言葉だとプリンツェッサ・ローザかは本日、ご機嫌斜めのようだ。
もっとも前回、会った時も不機嫌だったが……。
紳士的に接したつもりだが、何かが癇に障ったのだろうか?
マニュアルに従ったフレンドリーな接し方に徹したのだが、彼女のパーソナリティを読み間違えた可能性が高い。
プランを変更する必要があるな。
薔薇姫には有言実行よりも無言実行の方が効果が高い。
ただ、彼女は別の意味に捉えている気がしてならない。
「受けて立ちます」
「は、はい?」
行動で見せようとしたら、これだ。
全く、読めないお姫様だ。
じゃじゃ馬にも程があるだろう。
おまけに可愛い……。
いや、何を考えているアーベント!
冷静になれ。
不思議な感覚だ。
薔薇姫は俺が前に出て、フロッティを振るっている時は死角となる背を守るように動く。
薔薇姫が前に出ている時は彼女の背を俺が守る。
示し合わせた訳ではなく、自然と体が動くとしか言いようがない。
長年、行動を共にしている相棒がいれば、こういう感覚なのだろうか?
彼女には一度、蹴り殺されそうになっている。
先程も敵意剥きだしの態度だったのに解せない。
任務を果たすという目的があるからだろうか?
舞うように短剣を振るう薔薇姫のウィンプルから、漏れ出た光のように靡く、ストロベリーブロンドの髪が見えた。
その時、俺の頭の片隅がチリッと焼かれるような妙な感覚を味わった。
俺には幼少期の記憶が無い。
抜け落ちたようにすっぽりと無い。
それを今、このタイミングで唐突に思い出したのだ。
微かにではあるが……。
見渡す限り、一面が黄色に染まっていた。
菜の花が一面に咲く広大な花畑だ。
まだ、子供だった俺は確かにそこにいた。
一人ではない。
温もりを感じる手の先には小さな手がある。
小さな手の女の子は薔薇姫と同じようなストロベリーブロンドの髪を風に靡かせ、俺に何かを伝えようとしていた。
何を言っているんだ?
君は誰なんだ?
「アーベントさん! 集中してください。気を抜いていい相手ではありませんよ?」
「あ、ああ。すまない」
恐らくは瞬きする間の出来事だった。
唐突に思い出した記憶に一瞬、混乱を来していたようだ。
いつの間にか、互いの息が届くような間近にいた薔薇姫が、俺を窘めるような言葉を投げてくる。
この距離は互いに危険だ。
どちらも必殺の間合いと言える。
命を取れなくとも無事ではいられないだろう。
それなのになぜ、彼女はこんなにも近づいたのだろうか?
暫し、呆けていた俺のことに呆れるというよりも心配してくれたのだろうか?
解せない。
小首を傾げ、上目遣いに見つめられるとどうにも居心地が悪い。
先程まできつい目つきで短剣を振るっていた姿を見ているだけに余計に……。
「あの三人は雑魚ではありません。気を抜かないでくださいね」
「ええ。分かってますよ」
「本当に分かっているんでしょうか?」
本人は呟いたつもりがないのだろうが、はっきりと聞こえているのだが。
薔薇姫はどうやら、隠し事が苦手なタイプのようだ。
ちょっぴり頬を膨らませた姿も愛らしく、見える。
愛らしい……?
どうやら、この俺も少々、おかしくなったのかもしれない。
神など信じないこの俺が密かな祈りを捧げていたからだ。
この薔薇姫が本物の公女であって欲しいと……。
青い鳥作戦の要はリューリク公国最後の公女エリザヴェータ・チェムノタリオトの確保。
最重要事項であると理解している。
だが、その公女にもっとも近いと思われる件の人物が、今回の緊急任務の相棒だと誰が考えるだろうか……。
全くの想定外だった。
それでも常に冷静たれ。
これがナイト・ストーカーの鉄則である。
息を荒げず、心拍数を乱さず。
しかし、件の人物――『黎明の聖女』こと薔薇姫。あちらの言葉だとプリンツェッサ・ローザかは本日、ご機嫌斜めのようだ。
もっとも前回、会った時も不機嫌だったが……。
紳士的に接したつもりだが、何かが癇に障ったのだろうか?
マニュアルに従ったフレンドリーな接し方に徹したのだが、彼女のパーソナリティを読み間違えた可能性が高い。
プランを変更する必要があるな。
薔薇姫には有言実行よりも無言実行の方が効果が高い。
ただ、彼女は別の意味に捉えている気がしてならない。
「受けて立ちます」
「は、はい?」
行動で見せようとしたら、これだ。
全く、読めないお姫様だ。
じゃじゃ馬にも程があるだろう。
おまけに可愛い……。
いや、何を考えているアーベント!
冷静になれ。
不思議な感覚だ。
薔薇姫は俺が前に出て、フロッティを振るっている時は死角となる背を守るように動く。
薔薇姫が前に出ている時は彼女の背を俺が守る。
示し合わせた訳ではなく、自然と体が動くとしか言いようがない。
長年、行動を共にしている相棒がいれば、こういう感覚なのだろうか?
彼女には一度、蹴り殺されそうになっている。
先程も敵意剥きだしの態度だったのに解せない。
任務を果たすという目的があるからだろうか?
舞うように短剣を振るう薔薇姫のウィンプルから、漏れ出た光のように靡く、ストロベリーブロンドの髪が見えた。
その時、俺の頭の片隅がチリッと焼かれるような妙な感覚を味わった。
俺には幼少期の記憶が無い。
抜け落ちたようにすっぽりと無い。
それを今、このタイミングで唐突に思い出したのだ。
微かにではあるが……。
見渡す限り、一面が黄色に染まっていた。
菜の花が一面に咲く広大な花畑だ。
まだ、子供だった俺は確かにそこにいた。
一人ではない。
温もりを感じる手の先には小さな手がある。
小さな手の女の子は薔薇姫と同じようなストロベリーブロンドの髪を風に靡かせ、俺に何かを伝えようとしていた。
何を言っているんだ?
君は誰なんだ?
「アーベントさん! 集中してください。気を抜いていい相手ではありませんよ?」
「あ、ああ。すまない」
恐らくは瞬きする間の出来事だった。
唐突に思い出した記憶に一瞬、混乱を来していたようだ。
いつの間にか、互いの息が届くような間近にいた薔薇姫が、俺を窘めるような言葉を投げてくる。
この距離は互いに危険だ。
どちらも必殺の間合いと言える。
命を取れなくとも無事ではいられないだろう。
それなのになぜ、彼女はこんなにも近づいたのだろうか?
暫し、呆けていた俺のことに呆れるというよりも心配してくれたのだろうか?
解せない。
小首を傾げ、上目遣いに見つめられるとどうにも居心地が悪い。
先程まできつい目つきで短剣を振るっていた姿を見ているだけに余計に……。
「あの三人は雑魚ではありません。気を抜かないでくださいね」
「ええ。分かってますよ」
「本当に分かっているんでしょうか?」
本人は呟いたつもりがないのだろうが、はっきりと聞こえているのだが。
薔薇姫はどうやら、隠し事が苦手なタイプのようだ。
ちょっぴり頬を膨らませた姿も愛らしく、見える。
愛らしい……?
どうやら、この俺も少々、おかしくなったのかもしれない。
神など信じないこの俺が密かな祈りを捧げていたからだ。
この薔薇姫が本物の公女であって欲しいと……。
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