薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸

文字の大きさ
上 下
17 / 73
第一部 薔薇姫と夕暮れ

第15話 小さき者は眠る

しおりを挟む
(三人称視点)

 彼女――小さき者パルムが初めて、その目で世界を知った時、彼女をこの世に生み出した創造主マスターの命数は残り僅かであった。

「良いか、パルムよ。いずれ、お主の力が必要になる日がきっと来るであろう。その日まで眠るがいい……」
「はい。お父様」
「いい子だ。我が娘よ……」

 だから、彼女は眠った。
 自らを生み出した者が永遠とわの眠りにつき、誰からも忘れられた存在となってただ、ひたすらに眠った。
 いずれきたるその時まで……。



 完璧なる人造人間パーフェクト・ホムンクルスであるパルムは伝説的な錬金術師アルケミストパラケ・ルッスースによって、創られた人工生命体である。
 製造過程こそ、違いはあるもののゴーレムやガーゴイルと同じ魔法生物の一種といっても過言ではないだろう。

 だが、ゴーレムやガーゴイルは命令を忠実に実行することが出来ても自我が芽生えることはない。
 ホムンクルスは自我を持つ独立した生命体なのだ。

 パラケ・ルッスースは著書の中でその製法を詳しく、書き記していたが現在、その書は失われて久しい。
 彼の存在はアルケミストの間でも異端とされた。
 その著作だけではなく、研究結果に至るまでの一切が消去されている。

 これは新たな生命を自らの手で生み出すという神の領域に踏み込もうとした彼の姿勢が危険視されたせいである。

 パラケ・ルッスースはまた、アゾート完全と柄に銘打たれた小剣を常に携帯していたと言われている。
 ところが、彼の死後、そのアゾートを目にした者は誰もいない。
 一説によれば、アゾートを手にした者はかの大錬金術師の遺産を手に入れられるのだと言う。



 『永遠の町パラティーノ』の郊外にパラケ・ルッスースが、晩年の一時を過ごした別荘が残されている。

 かつては貴族の別宅の如く、きらびやかで優雅な屋敷といった趣きある邸宅として知られていた。
 だが、現在は管理する者がおらず、荒れ果てている。
 生前のパラケ・ルッスースの良くない噂を気味悪がって誰も近寄らなかったせいだった。

 整備が行き届いていた頃は美しかった庭園も今は昔。
 邸宅も苔むし、さながら、お化け屋敷の様相を呈していた。

 あまりの不人気ぶりについには破格の安値で売りに出されたが、パラケ・ルッスースの噂が付きまとい、一向に売れない。

 そんなパラケ・ルッスースの別荘がついに売れた。
 それだけでも噂好きの人々を刺激するのに十分なニュースだったが、購入したのが若い夫婦――それも稀に見る美男美女だった為に憶測が憶測を呼ぶのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

Go to the Frontier(new)

鼓太朗
ファンタジー
「Go to the Frontier」改訂版 運命の渦に導かれて、さぁ行こう。 神秘の世界へ♪ 第一章~ アラベスク王国編 第三章~ ラプラドル島編

魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃
ファンタジー
魔物の森で精霊に育てられた少女ソフィア。生まれつき臆病な性格の彼女は、育ての親である精霊以外とは緊張して上手く話せない。しかし、人間であるソフィアはこのままでは幸せになれないと考えた精霊により、魔物の森を半ば強制的に追い出されることになる。気弱でコミュ障な少女ソフィアであるが精霊から教えられた精霊魔法は人間にとって驚異的なものであった。目立たず平穏に暮らしたいと願うソフィアだが、周りの誤解と思惑により騒ぎは大きくなって行く。 小説家になろう及びカクヨムにも投稿しています。

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

妻とは死別する予定ですので、悪しからず。

砂山一座
恋愛
我儘な姫として軽んじられるクララベルと、いわくつきのバロッキー家のミスティ。 仲の悪い婚約者たちはお互いに利害だけで結ばれた婚約者を演じる。 ――と思っているのはクララベルだけで、ミスティは初恋のクララベルが可愛くて仕方がない。 偽装結婚は、ミスティを亡命させることを条件として結ばれた契約なのに、徐々に別れがたくなっていく二人。愛の名のもとにすれ違っていく二人が、互いの幸福のために最善を尽くす愛の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...