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第3章 茨の姫君

第26話 姫様絶賛妄想中

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 目的地である『運命の泉』まであと少しのところまでやって来ましたわ。

 ここまでずっと、手を繋いだまま。
 わたしが心細いからではなくてよ?
 レオが心細いでしょうから、お姉さんとして、仕方なく手を……

「ねえ。リーナ。いつまで手を繋ぐのかな?」
「そ、それはえっと……着くまでかしら」
「うん。分かった」

 そう言って、太陽のように眩しい笑顔を見せられるとこのわたしが無理を言って、手を繋いでいるみたいですわ!
 ええ、実際にそうなのですけど……。
 違いますわ! と否定すればするほど、肯定しているようにしか、聞こえませんわね。

 本当はレオと手を繋いでいると薄着で肌寒いのに心がポカポカとしてくるなんて、言えませんわ。
 何だか、温かくて、満たされるんですもの。

「レオ。あの永久氷壁の伝説を知っているかしら?」
「永久氷壁? あの白くて大きいのはそういう名前なんだ。へえ」

 『運命の泉』に近づくにつれ、巨大な氷壁も間近に迫ってくるような錯覚を受けるほどの威圧感を感じますわ。
 この氷壁ほど、壮大なスケールを感じるものはないはずですわ。

「永遠の愛を誓った恋人が氷壁の中にいるのですって。素敵な話でしょう?」
「僕には難しくて、良く分からないかな」

 足を止めて、暫くの間、氷壁を眺めていると何だか、不思議な気持ちになってきますの。
 妙に惹きつけられるような……。

『アナタはワタシ……ワタシはアナタ……』

 耳元で囁かれたのとも違う頭の中に直接、呼びかけるような声。

「レオ?」
「リーナ?」
「レオが何か、言ったのかしら?」
「リーナが何か、言ったんだよね?」
「えぇ?」
「あれ?」

 繋いでいた手に力が入ったのは仕方ないと思いましてよ。
 思わず、レオと見つめ合って、生唾を飲み込んでしまいましたもの。

 二人とも何も言っていない。
 それなのに二人とも変な声を聞いてしまった。

 怖いですわ!

「い、急ぎましょう」
「う、うん」



 氷壁を見ていて聞こえてきた不思議な声のせいで早足になって、思っていたよりも早く、『運命の泉』に到着しましたわ。
 早足だったのでローブの裾がかなり、捲れていた気がしますけど、気にしたら負けですわね。

 もし、見えたとしてもレオは気にしないでしょうね。
 レオになら見られてもいいと考える自分がいますの。
 恥ずかしいですけど! 気にしますけど!
 手を繋いだから、結婚すると決まったも同然ですわ。

「ねぇ。レオ」
「何の話?」
「新婚旅行は南の温暖な気候の島がいいですわ」
「しんこんって、何?」

 急に話を振ってもレオには分からなかったのかしら?
 え? レオでなくても分からない?
 そうでしたの……。

「とりあえず、レオは離れていて」
「え? 何で?」
「いいから、離れて。そして、絶対に振り返ってはダメ!」
「リーナ……顔が怖いよ」
「怖くないから!? わたしは服を脱ぐから、見てはダメと言ってますの」
「大丈夫だよ」
「だ、大丈夫?」
「僕は気にしないよ」
「わたしが気にするの! 絶対に見てはダメですからね」
「ちぇっ。分かったよ。後ろを見ていれば、いいんだね」

 レオは舌打ちしましたの!?
 えぇ? レオはわたしの体を見たいということかしら?
 それなら、見せてもいい……訳ないですわね。

 わたしはお兄様と違って、露出狂ではないですもの。
 肌を見せてもいいのは心に決めた方だけ。
 だから、レオには見せてもいいのですけど、それはここでやることではないと思いますの。

 もっとロマンチックな場所。
 そうですわ。
 空にたくさんの星が瞬いていて、打ち寄せる波の音が……

「リーナ。まだー?」
「まだですわ!」

 レオにレオとの未来地図を邪魔されるとは思いませんでしたわ。
 折角いいところでしたのに……。

 気を取り直して、編み込んだポニーテールを留めている魔石付きの装身具を外し、ケープとローブを脱ぎました。
 魔石による補助がなくなるので制御しづらくなって、爪と尻尾が露わになりましたけど、仕方ないですわ。

 一糸纏わぬ姿を見られるのより、尻尾を見られた方が不味い気がしますけど、レオは約束を守ってくれるはず。
 そこには絶対の信頼感がありますの。
 彼が振り向かないとなぜか、確信が出来るんですもの。

「血の色ですわね……」

 本当にあの泉に浸かるんですの?
 あまり、浸かりたくない色合いをしているのですけど!?
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