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第10話 救われるもの

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 その時、天に掲げたノートゥングに異変が起きた。
 刀身に入っていた無数のヒビが急進行していくとまるで蜘蛛の巣のように全体に広がっていく。
 そして、粉々に砕け散った。
 ボクの手元に残っているのは白銀の柄だけだ……。

「どういうことだ!? ノートゥング!」

 何もいない虚空に向けて、叫ぶボクの姿はさぞかし、滑稽だろう。
 普通はそう考えるものだ。
 ところがアンからは真っ直ぐな視線を向けられる。
 穢れを知らない無垢で純粋な瞳はボクに生まれた心に刺さる。

 やめろ! やめてくれ!
 そんな目でボクを見ないでくれ。
 ボクには何も出来ないんだ。

『デウス・エクス・マキナ。アナタに力を。アナタにしかデキナイ』

 ボクの頭の中に再び、あの無機質で感情を感じさせない機械のような声が響いた。
 それと同時にプログラミング言語のような奇妙な文字列が浮かんでは消えていく。
 まるでボクの脳にインプットするかのように……。

 そして、全てが終わった時、理解した。
 ノートゥングが……彼女がなぜ、ここにいたのか。
 彼女は神々によって、造られた神剣だった。
 神々が使う為に造られたのではない。
 神々の運命ラグナロクを変えるべく、人間の勇者に与えられたのだ。
 しかし、勇者はノートゥングを使えなかった。
 それを悲嘆した神々の王ヴォータンは自らが与えたノートゥングを魔槍グングニルで貫き、粉々に砕いてしまった。
 ヴォータンは言った。

『いずれ、この剣はその真の姿を取り戻すであろう。神でもなく、人でもない者によってな』

 堕落した人間はやがて、ヴォータンの言葉を忘れ、砕かれたノートゥングの刃を形だけ整えた。
 真実は闇に埋もれ、ノートゥングは伝説となった。

「それがボクだと言うのか?」
『イエスユアマジェスティ』

 バラバラとノートゥングの刀身が全て、崩れ落ちていった。
 残ったのは柄だけだ。

解釈実行インタプリタ

 再び、ノートゥングの声が頭に響く。
 その瞬間、剣の柄に副えていた掌が急速に熱くなっていく。
 まるで生命を吸われるような錯覚と意識が遠くなる感覚を覚えた。

具現化マテリアライズ

 刃の失われたノートゥングが何か、獣が唸るような奇妙な音を上げ始める。
 それと同時にノートゥングにも変化が現れた。
 柄から、光り輝く粒子が発生されていき、刃の形を形成していく。

「光の剣か」

 分かったよ、ノートゥング。
 これで何をすればいいのか。

 ボクはノートゥングを握る拳に力を込めるとこちらを微動だにせず、見つめていたアンジェに向けて、勢いよく振り下ろす。

解釈実行インタプリタ。君の呪いを今、解く」
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