23 / 32
23 スヴェトラーナの告白①
しおりを挟む
「では……まず、簡単な質問をいいかしら?」
「何だい? 藪から棒に。まあ、いいわい。何か、理由がありそうだね? 言いな」
やれやれと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、難渋を示したリュドミラだがすぐに察する。
この辺りは見た目こそ、若いものの年の功と言ったところだ。
「リュドミラ。現在、公国の正当な王位後継者は誰でしょう?」
「何だい、そりゃ! あたしを馬鹿にしとんのかい? そんなのこんくらいの子供でも知っとるよ」
呆れと怒りの入り混じった表情で苛立った声を上げたリュドミラだが、そこで「はて?」と気が付いた。
前公王ヴェロニカ・チェムノタリオトが崩御し、王位は空位となったままである。
正式に王家の血を引く、後継者が二人の公女しかいないのはリューリクの民であれば、誰でも知っている事実だった。
それを敢えて、第一王位継承者であるスヴェトラーナが質問した真意を読めず、リュドミラは心の内にあった怒りを鎮める。
「あんたがそう言うってことは何か、あるんだね」
「ええ。そうです」
アナスタシアは固唾を飲んで見守るしかない。
元より、彼女は姉に己の命も含めた全てを賭けただけの博打打に近い。
勝負の鍵を握っているのはあくまでスヴェトラーナなのだ。
「それではどこから、お話ししましょう。某一派が議会で通そうとしている法案について? それともわたくしとアナスタシアに弟だけではなく、姉がいたということについて? どちらがお好みかしら?」
そう言うと唇を僅かに歪め、口許に弧を描くスヴェトラーナの姿は十六歳とは思えない貫禄があった。
さしものリュドミラも言葉を失い、暫し沈黙が支配する。
「法案に関係があるのは複雑なあんたらの家に秘密がありそうだね。そっちから、話してごらんな」
やがて口を開いたリュドミラは何でも来いと言わんばかりに両手を天に向けるお手上げのジェスチャーをしてみせる。
それを見て、スヴェトラーナは少し、表情を和らげた。
「まずはわたくしとナーシャ、それにエドアルトの生物学上の父について、語らねばなりません」
「そいつは知ってるよ。顔しか取り柄の無いプラトンを知らんヤツはもぐりだよ」
「ふふっ。そういう言われ方をしているんですね、あの男」
「変な言い方だね。生物学上なんて言い方をするなんて、あんたも余程、腹に据えかねてるのは分かるさ。だけどさ。あんなのでも父親だろうよ?」
リュドミラの言葉には理ある。
スヴェトラーナもそれを理解していたが、それでも父親と呼びたくはない。
否。
呼ぶ訳にはいかないのだと彼女の心中で強く訴えかけるのは、非常なる『魔王』フォルカスではなく、心優しい乙女として生きてきたスヴェトラーナである。
無限なる図書館で真実を知った彼女にとって、あの男は父親ではなく、単なる仇となったのだ。
「公王ヴェロニカ……わたくし達の母親をあの男が殺したのだととしても?」
スヴェトラーナの衝撃的な一言に再び、場を沈黙という名の空気が支配するのだった。
「何だい? 藪から棒に。まあ、いいわい。何か、理由がありそうだね? 言いな」
やれやれと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、難渋を示したリュドミラだがすぐに察する。
この辺りは見た目こそ、若いものの年の功と言ったところだ。
「リュドミラ。現在、公国の正当な王位後継者は誰でしょう?」
「何だい、そりゃ! あたしを馬鹿にしとんのかい? そんなのこんくらいの子供でも知っとるよ」
呆れと怒りの入り混じった表情で苛立った声を上げたリュドミラだが、そこで「はて?」と気が付いた。
前公王ヴェロニカ・チェムノタリオトが崩御し、王位は空位となったままである。
正式に王家の血を引く、後継者が二人の公女しかいないのはリューリクの民であれば、誰でも知っている事実だった。
それを敢えて、第一王位継承者であるスヴェトラーナが質問した真意を読めず、リュドミラは心の内にあった怒りを鎮める。
「あんたがそう言うってことは何か、あるんだね」
「ええ。そうです」
アナスタシアは固唾を飲んで見守るしかない。
元より、彼女は姉に己の命も含めた全てを賭けただけの博打打に近い。
勝負の鍵を握っているのはあくまでスヴェトラーナなのだ。
「それではどこから、お話ししましょう。某一派が議会で通そうとしている法案について? それともわたくしとアナスタシアに弟だけではなく、姉がいたということについて? どちらがお好みかしら?」
そう言うと唇を僅かに歪め、口許に弧を描くスヴェトラーナの姿は十六歳とは思えない貫禄があった。
さしものリュドミラも言葉を失い、暫し沈黙が支配する。
「法案に関係があるのは複雑なあんたらの家に秘密がありそうだね。そっちから、話してごらんな」
やがて口を開いたリュドミラは何でも来いと言わんばかりに両手を天に向けるお手上げのジェスチャーをしてみせる。
それを見て、スヴェトラーナは少し、表情を和らげた。
「まずはわたくしとナーシャ、それにエドアルトの生物学上の父について、語らねばなりません」
「そいつは知ってるよ。顔しか取り柄の無いプラトンを知らんヤツはもぐりだよ」
「ふふっ。そういう言われ方をしているんですね、あの男」
「変な言い方だね。生物学上なんて言い方をするなんて、あんたも余程、腹に据えかねてるのは分かるさ。だけどさ。あんなのでも父親だろうよ?」
リュドミラの言葉には理ある。
スヴェトラーナもそれを理解していたが、それでも父親と呼びたくはない。
否。
呼ぶ訳にはいかないのだと彼女の心中で強く訴えかけるのは、非常なる『魔王』フォルカスではなく、心優しい乙女として生きてきたスヴェトラーナである。
無限なる図書館で真実を知った彼女にとって、あの男は父親ではなく、単なる仇となったのだ。
「公王ヴェロニカ……わたくし達の母親をあの男が殺したのだととしても?」
スヴェトラーナの衝撃的な一言に再び、場を沈黙という名の空気が支配するのだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる