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第二部 第二次モーラ合戦

第45話 龐統、熟考する(振り )

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 ふむ。
 ウルリクのヤツめが首尾よく、やってくれたようだなあ。
 上出来、上出来。
 善き哉。

 狼煙を使って、帰還を促すとはいい考えだ。
 この宵闇の中で見えるようにと火を焚くのも悪くない。

「悪くないんだがね。ありゃあ、燃やしすぎでないかね?」
「シゲン。大は小を兼ねる」
「ドリー君。杓子は耳掻きにならぬと言うのだよ。やりすぎはいかん」
「だがシゲン。効果は絶大」
「そのようだね……」

 立つ鳥跡を濁さずと言うがね。
 早すぎやしないかね。

 エーリクの先陣に応じていた連合軍の半数以上が、一挙に戦場から離脱するとは驚きを通り越して、呆れた。
 ざっと見積もっても六割から七割は抜けたのであろう。

 連合軍と言っても兵力のほとんどをヴァームフスに依存していたということか。
 ヴァームフスの領主のオロフは、実直で義理堅い男のようだね。
 この戦乱の地において、非常に稀有な性質とも言える。

 彼にとって大切なものは妻であり、娘であり、領民である。
 大切なものを守る為であれば、死をも厭わない。
 実に見上げた男だよ。

 そればかりではない。
 ヴァームフスは先祖の代から、オルシャと盟約を結んでおるそうだ。
 それも簡単な物で片方が攻められた場合に助ける、といった程度のものだそうな。
 しかし、これは義理堅いの域を遥かに超えておるだろうて。
 盟約を違える訳にはならんと思うのだが、単純にお人好しなだけなのか?

「あやつだけは諦めが悪いのう」

 エーリクとハクヤクとやらの一騎討ちは信じられんことにまだ、続いておる。
 ヴァームフスの兵の退き際は実に見事なものだったのだが。

 オロフという男はどれだけ、家族思いなのかね。
 あっという間に兵をまとめ、引き揚げた手際の良さは古今東西の名将と呼んでも過言ではなかろうて。

 オルシャの兵もその点では非常に優秀なのだよ?
 九割がたどころか、ほぼ全員が追撃を受けないように撤退しておるのだ。
 あやつの諦めの悪さだけがおかしい。
 どうなっているのやら、皆目、見当がつかん。

「うおおお! 燃えてきたぞ」

 あの大きく、重い得物を長時間、振るい続けられるエーリクは化け物だ。
 敵にしたら、実に厄介な男と言わざるを得んだろう。

 『蟻地獄の計』で屈服出来たのはまさに僥倖であったなあ。
 アレに知恵を付けたら、虎に翼を与えるようなものと言えよう。
 まずは情操教育で道徳という単語をアレの辞書に載せんといかん。

「俺は絶対に負けん。二度と諦めるものか!」

 ハクヤクという男も大概な化け物と呼ぶしかない。
 エーリクの渾身の一撃をいなすように受け流し、攻撃に転じる手並みも見事であるが、何よりも勢いに全く、衰えを見せていない。

「なあ、ドリーさんや。あれも面倒なヤツという認識でいいのかね?」
「間違いない。そうではないだろうかという想定が確定になった」
「そうかい、そうかい。どうしたものかなあ」
「シゲン。他人事ひとごとのようだが、平気か?」

 無表情が常なドリーにしては珍しく、不安の色が浮かんでおるようだ。
 他人事ひとごとという訳ではない。
 他人事ひとごとではなく、己と同じ境遇かもしれない人間がおったということで色々と考えんといかんのだ。
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