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第二部 第二次モーラ合戦

第34話 龐統の電撃戦

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 夜陰に乗じて、西門から『すきい部隊』が出て行った。

 ドリーに見極めてもらった『すきい』の得意な者で編成された特殊な部隊である。
 個の武としての力は度外視だ。
 それ以外の技能を重視しておる。

 隊を率いるウルリクがであり、腕のいい戦士である。
 
 この一点に尽きるのだ。
 これこそが重要であろう。
 あとはどうにかして、はったりでやり通すだけとなるがなら、どうにかなるだろうて。

 この戦いにおいて、『すきい部隊』に求められるのはこちらの『虚』を突いたあちらさんの『虚』を如何いかに早く、突けるかどうか。
 ここにかかっておるのだよ。

 孫子曰く、『兵は拙速を聞くも未だ巧久しきを睹ざるなり』である。
 恐らくはあちらさんもそれを狙って、動いたのであろう。

 湖が凍結するのは冬季の短い期間だけの現象とみて、間違いない。
 その間に決着を付けようと考えるのは実に賢いやり方だと言える。
 中々、どうしてやりおるわい。

 付け焼刃の兵器とはいえ、氷上艇はいい。
 実にいいっ。
 惜しむらくは急造品であるがゆえの残念なところか。
 もっと入念に準備期間を設けておれば、完璧な兵器として運用が出来ただろう。
 あちらさんも焦って動いたのだろうなあ。

 だからこそ、ワシが反撃となる一手を考えられた訳だが……。



 そして、ワシらが今、やらねばならないのは『夜駆よがけ』である。
 あれだけの作戦を実行に移したくらいだ。
 あちらさんも寡兵であるワシらが奇襲をかけてくると踏んでおるだろうて。
 『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とは班超の言葉だったかね?
 今がまさにその時なのである。

 この夜駆けに動員出来るのは八百。
 『すきい部隊』に二百の兵を割いた以上、モーラが動員可能な兵力はこれが限界である。
 しかし、この八百はただの兵ではない。

 死地に赴く覚悟を決めた言わば死兵である。
 興亡の一線ここにあり。
 退く事ならざるやという訳だよ。

「お前らの命、この俺に預けてくれ!」
「必勝! 必勝! 必勝!」

 盛り上がっとるな!
 夜駆け部隊を率いるエーリクの号令にさながら大合唱でもするかのように「必勝」連呼とは、いささか暑苦しさが否めん。

 だが、この根性は大事なものだ。
 実力が拮抗するのであれば、最後に物を言うのは案外、こういった目に見えないものだったりする。

 エーリクは覇者になれる器の持ち主と見ている。
 これはワシお得意の過大評価ではない。
 あやつの武勇は高く評価しているが、「先生!」と目をキラキラさせながらやってくる暑苦しさには辟易しておるくらいなのだ。

 冷静に人物鑑定したうえで、エーリクには期待しておる。
 ただ、それだけのことである。

「英雄が一人いるだけで戦場は変えられるのだよ。ふぉふぉふぉ」
「ひっーひひひひっ」
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